仕事・暮らしに関わる身近な問題
コンビニやスーパー、建設現場、農場などでたくさんの外国人が働いていますね。大学でともに学んでいる外国人留学生の中には、日本の企業に就職する人も多くいると思います。政府は、その外国人労働者受け入れの制度を大きく変える方針を決めました。新たな制度の詳細はこれからの議論ですが、すでに実態としては「移民受け入れ国」と言われる日本に永住する外国人は、さらに増えることになりそうです。背景には、日本人の人口が減り続け人手不足が深刻になる中で、外国人の働き手が増えないと多くの産業が立ちゆかなくなる現実があります。みなさんが就職する企業でも、外国人の同僚が増えるかもしれません。彼らは労働者ですが、生活者でもあり、家族も含めて地域でともに暮らしていくことになります。多様な人々を受け入れることになる日本の社会のあり方も大きく変わりそうです。制度の基本や現状、改革案をやさしく解説します。仕事にも暮らしにも関わる身近な問題ですよ。(編集長・木之本敬介)
(写真・北海道の過疎地の「しずおグループ」で特定技能1号の資格で働くベトナム人従業員の4家族と今井裕会長〈右から2人目〉。2号を取ってここに暮らし続けたいという=2023年4月14日、北海道士別市)
技能実習は社会問題に、特定技能2号は10人だけ
まずは今の制度について。「技能実習」と「特定技能」の二つがあります(図参照)。
【技能実習】日本で学んだ技術を母国に持ち帰ることを目的として始まったが、実態は日本の人手不足を補う制度になっている。87職種で最長5年働ける。職場を変える転籍は原則不可で、家族帯同もできない。多額の借金を抱えて来日する人が多く、賃金未払いや暴行などの人権侵害も絶えず、社会問題化してきた。
【特定技能】人手不足に対応するため、一定の専門性を持つ即戦力の外国人を受け入れる制度。技能水準に応じて1号と2号があり、転籍が可能。1号からのステップアップを想定した2号は「熟練した技能」が必要。期間の上限はなく、家族も帯同できて永住に道を開くが、人手不足が特に深刻な建設と造船・舶用工業の2分野限定。特定技能の在留資格を得るには日本語や技能の試験があるが、同じ分野で技能実習を3年間良好に終えれば免除され、現在は約7割がこのルート。(下の図参照)
「技能実習」は人権侵害が社会問題化し、「特定技能」も2023年2月末現在で1号は約14万6000人いるものの、2号はたったの10人。人手不足が続く経済界は「人材の定着」につながる2号の分野拡大を要望していました。そこで、ようやく政府が改革に乗り出したわけです。
「技能実習」廃止して新制度に
新制度案によると、「技能実習」については制度を廃止し、「人材確保」と「人材育成」を目的にした新制度に改めます。ポイントは以下のとおりです。
◆人材育成を通じた国際貢献のみを目的とした技能実習制度を廃止し、国内での「人材確保」と「人材育成」を目的とする新制度を創設
◆特定技能制度にキャリアアップする人材を育成。職種も特定技能にそろえる
◆別の企業への転籍を原則認めない制限を緩和
◆日本側の受け入れ窓口となる監理団体は存続した上で、要件を厳格化し、優良な団体のみ残す
◆悪質なブローカーや送り出し機関の排除を強化
◆一定水準の日本語能力を来日時に要件化し、来日後も向上させる仕組みを設ける
転籍制限を緩和すると、人手不足が厳しい地方から賃金水準が高い都市部への人材流出を心配する声もあり、どこまで転籍を認めるかは今後の検討課題です。
「特定技能」2号を11分野に拡大
一方の「特定技能」については、「2号」を現行の2分野から11分野に拡大する方針です。技能実習を廃止して創設する新制度と特定技能を一体運用するのがポイントで、技能実習や特定技能1号の外国人は条件をクリアして特定技能2号になれば、無期限で働けるようになります。特定技能2号には「熟練した技能」が必要ですが、水準の設定は分野によっては業界の意向が反映されます。人手不足に悩む各業界は外国人の長期就労を望んでいるので、ハードルが下がる可能性も指摘されています。
現在約182万人いる外国人労働者が、今後増えるのは間違いありません。中でも特定技能2号が増えれば、永住者が大幅に増える可能性があります。2号は家族帯同もできるので、日本語能力が不十分な配偶者や子には地域の支援も必要になります。
政府は6月に分野拡大を閣議決定し、秋には2号の試験を始めたい意向です。特定技能の導入時に1号の資格を得た外国人が2024年春に5年の在留期限を迎えるため、「日本での就労継続が可能かを早く示す必要がある」と説明しています。
「移民受け入れ国」と言っていい
外国人労働者を積極的に受け入れる政策ですが、日本政府は「移民受け入れ」については一貫して否定しています。自民党を中心に保守派に反対・慎重論が強いためです。でも実態はどうでしょう。
国立社会保障・人口問題研究所の是川夕(これかわ・ゆう)国際関係部長はこう言っています。
「労働を目的とした受け入れをみると、例えば、高度人材では欧米諸国を超えています。年間受け入れ数では絶対数で独仏を抜き、人口比で米国を上回っている。十分に移民受け入れ国と言ってもいいでしょう。中程度のスキルを持った労働者にとっても、日本が入りやすい国の筆頭と言えるかもしれません。ミドルスキルを受け入れる仕組みは諸外国にはほとんどありませんが、日本には技能実習生として高卒レベル以上の人たちが多く入っています」(2022年11月13日付朝日新聞)
留学生受け入れ目標40万人へ
みなさんの大学で学んでいる留学生がそのまま日本で就職する場合は、「高度人材」のための在留資格「技術・人文知識・国際業務」を得て働くケースが多いと思います。政府は2019年に31万人だった外国人留学生の受け入れ数を2033年までに40万人に増やすとともに、彼らの日本での就職率を今の4割弱から5割に引き上げる目標も掲げています。
「移民」と呼ぶかどうかにかかわらず、私たちの周りで働く外国人は増えていくでしょう。受け入れ制度を整えれば済むわけではなく、多様な人々が安心して働き、地域で暮らせる環境を整える必要があります。それを怠れば、治安の悪化につながるかもしれません。行政の責任と押しつけるのではなく、自分事として考えてみてください。
(写真・外国人留学生限定の就職フェアに参加した留学生はメモをとりながら熱心に説明を聞いていた=2023年2月、東京都港区)
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