未曽有の「複合災害」
東日本大震災から10年が経ちました。大地震による巨大な津波に原子力発電所の事故が加わった未曽有の「複合災害」です。住まいや防潮堤のハード面の整備はかなり進みましたが、なお4万人以上が避難を強いられ、復興は道半ばです。就活生のみなさんも小中学生だったあの日のことを覚えていると思います。震災の体験が、いま取り組んでいる仕事選びに影響を与えている人もいるでしょう。当時をしっかり記憶している今の高校生以上にとっては世代を超えて語れる共通のテーマですから、面接などで話題に出ることがあるかもしれません。10年という節目でもあり、この機会に大震災を振り返って復興の進み具合を知り、原発やエネルギーのあり方についても考えてみましょう。「千年に1度」の規模の大震災でしたが、南海トラフ地震、首都直下地震は、数十年のうちに起きる可能性が高いともいわれています。日本列島で暮らしている限り大きな災害はまた必ず襲ってきます。大震災の教訓は今後の暮らしや仕事できっと役に立ちます。志望業界・企業と震災の関わりについて調べるのも、大事な企業研究です。(編集長・木之本敬介)
(写真は、東日本大震災後に整備された高さ10.4メートルの防潮堤=2021年2月8日、岩手県宮古市)
戦後最悪の死者・不明者2万2000人
2011年3月11日午後2時46分、東北地方の三陸沖を震源とする地震が発生しました。茨城県沖から岩手県沖まで約500キロの断層が動き、国内観測史上最大のマグニチュード9.0を記録。世界でも観測史上4番目の大きさでした。宮城県北部で震度7の揺れを観測したほか、宮城、福島、茨城、栃木の各県では震度6強を観測。北海道から九州地方にかけて、震度6弱から震度1の揺れが観測されました。沿岸は最大30メートル超の津波に襲われ、建物のほか車や漁船、石油タンクなどあらゆるものが流され、2万2000人を超す戦後最悪の死者・行方不明者を出しました。
津波に襲われ炉心の冷却ができなくなった東京電力 福島第一原発では1~3号機がメルトダウン(炉心溶融)を起こし、大量の放射性物質を放出。世界最悪級の原子力事故になり、最大で12市町村が帰還困難区域に指定され、多くの人々が故郷を追われました。
なお避難4万人超 300キロの防潮堤
復興庁によると、全国の避難者は震災直後に47万人に達し、2020年12月でも4万2000人が避難を続けています。岩手、宮城、福島3県を中心に計画された約3万戸の災害公営住宅の整備は2020年末までに終わりました。約1万8000戸分の宅地の造成を終え、岩手、宮城両県の仮設住宅は解消が見込まれています。
政府の試算では、大震災による住宅、工場、道路などのインフラ(社会基盤)の被害額は16兆~25兆円に上ります。政府は2020年度末までを「第1期復興・創生期間」と定め、31兆円をかけてインフラなどを復旧してきました。さらに2025年度までを「第2期」とし、2021年3月9日、新たな基本方針を閣議決定しました。菅義偉首相は同日、「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本の再生なし。引き続き国が前面に立って取り組む」と述べました。遅れている住民の帰還や移住を促す施策などを進める方針です。一方、懸案となっている福島第一原発の処理済み汚染水の処分方法については「適切なタイミングで結論を出す」などと記すにとどまり、見通しが立っていません。
津波で壊滅した三陸の沿岸には、300キロを超す防潮堤が築かれたほか、広大な土地をかさ上げして将来の被害を防ぐ土地が造成され、新しい街や高台への集団移転も進みました。しかし、大規模な造成に時間がかかったため、待ちきれずに他の地域に移住した被災者も多く、多くの地域で人口が減り、利用予定のない土地が目立ちます。現地で取材を続ける朝日新聞の記者は「ぴかぴかの過疎地」ができた、と書きました。地域社会のモデルをつくる「創造的復興」への道は厳しいようです。
(写真は、かさ上げされた土地に空き地が目立つ岩手県陸前高田市の中心部=2021年2月1日、岩手県陸前高田市、朝日新聞社機から)
原発再稼働は9基
日本は震災前まで、54基をもつ世界3位の「原発大国」でした。大津波が来る可能性が指摘され、浸水すれば原子炉を冷やせなくなるおそれがあったのに東電は対策を取らず、国も強く求めず、世界最悪級の事故が起きました。原発の「安全神話」は崩れ去り、全原発が停止。事故後に発足した原子力規制委員会による新規制基準での審査では自然災害やテロなど様々な対策の強化が求められ、これまでに再稼働したのは9基。菅政権は規制委の判断を尊重するとし、審査を通った原発は再稼働を進める方針をとっていますが、裁判所が地震や火山の想定が不十分と判断するケースも相次いでいて、再稼働は政府や電力会社の思うようには増えていません。
一方で菅政権は地球温暖化対策のため、2050年までに温室効果ガス実質ゼロを目指すと宣言。実現に向けた成長戦略では、洋上風力発電を2040年までに最大4500万キロワット(原発約45基分)導入し、2050年の再生可能エネルギー比率をいまの3倍となる5~6割にするという参考値を明記しました。ただ、実現は容易ではなく、二酸化炭素(CO₂)を出さない原発の新増設をめざす動きもあります。
志望企業と大震災
就活生にとって大事なのは、大震災と企業の関わりです。震災の直後には、電気、ガス、水道、通信、ITのほか、道路、鉄道による物流といったインフラの大切さを改めて実感させられました。スーパーやコンビニも日々の生活を支えるインフラですし、食品や飲料、日用品メーカーも同様です。災害時には確かな情報は命綱ですから、新聞、テレビを中心とした報道機関の価値も再認識されたように思います。復興期になれば、金融、建設、住宅に加え、エンターテインメントも出番です。自分の志望業界・企業が10年前どんな影響を受け、どんな貢献をしたのか、今後起きる災害でどんな役割を果たし得るのか。調べて、考えてみてください。
(写真は、国が「復興道路」と位置づけて整備を進めた三陸沿岸道路。3月6日に開通した=2021年2月1日、宮城県気仙沼市、朝日新聞社機から)
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