感染症後、世の中が劇的に変わる?
新型コロナウイルスが世界を、私たちの暮らしを揺るがしています。歴史を振り返ると、人類はたびたび感染症に襲われ、多くの命が失われてきました。一方で感染症の大流行は、人々の考え方や行動様式を劇的に変えるきっかけになってきました。ときには世の中の大変革や進歩、社会の改善につながったこともあります。新型コロナの終息までは時間がかかりそうですが、いま過去の感染症の歴史を学び、「コロナ後(ポストコロナ、アフターコロナ)」を考えることは、就活での業界・企業選びや、各業界の事業の方向性、新規事業を考えることにもつながります。(編集長・木之本敬介)
(写真は、JR博多駅コンコースにある外出自粛を呼びかけるビジョン=2020年5月4日、福岡市博多区)
ルネサンスも資本主義もペストがきっかけ?
古代エジプトのミイラから、肺炎や中耳炎、はしか、マラリア、結核などの感染症が見つかっています。歴史上の有名人でも、画家のゴヤは髄膜炎、作曲家のマーラーは敗血症、ショパン、ナポレオンは結核と、感染症に悩まされていたそうです。人類の歴史上、大流行した主な感染病をまとめます。
■ペスト
東ローマ帝国などで流行したとの記録が残り、14世紀には世界的な流行で1億人が死亡したといわれています。「黒死病」と呼ばれて恐れられました。人口の3分の1が亡くなった欧州では、生や死に対する価値観が揺らぎ、封建社会崩壊の一因になりました。新たな学問や芸術がルネサンスを生み、教会の権威も失墜してその後の宗教改革につながったといわれています。
経済的にも大変革が起きました。中世の西ヨーロッパの農村は領主が支配する共同体で、農民みんなで働いて年貢の残りを分け合って生活していました。ところが、ペストで労働力が不足したため、領主は農民の意欲を上げるために土地を貸し出します。農民はそれぞれが工夫して成果を上げるようになり、これが資本主義経済につながったのです。
さらに、土地が余った英国では広い土地で羊を育てる牧羊が盛んになりって毛織物工業が発達。牧羊犬を入れて暇になった羊飼いが始めた遊びがゴルフを生んだという説もあります。「ペストは近代の陣痛」という言葉もあります。
■コレラ
インドの風土病でしたが、植民地にした英国の覇権拡大で世界に広がり、各地でたびたび大流行しました。日本でも、明治の開国前後に流行し、江戸だけで26万人が死亡したとの記録が残っています。
コレラは汚れた飲み水から流行したため、公衆衛生の重要性への認識が世界で広まり、上下水道の整備が進みました。このため、コレラは「衛生の母」とも呼ばれます。
■スペイン風邪
今から100年前、1918~1920年に世界で流行したインフルエンザで、20世紀最悪のパンデミック(世界的大流行)といわれます。患者数は世界人口の25~30%、死者数は2000万~4000万人で5000万人との説もあります。第1次世界大戦の最中で、各国の軍隊で患者が続出したことが戦争終結を早める要因になったともいわれます。最初の大規模感染地は米国で欧州に渡った兵士から広がったと考えられていますが、スペイン王族や閣僚らが次々に感染して有名になったことから歴史に名が残りました。参戦国は情報統制をしていたため、中立国のスペインの情報が世界に流れたという説もあります。日本でも流行の波が3度起き、国民の4割以上が感染し40万人前後が亡くなりました。
根絶したのは天然痘だけ
戦後も新たな感染症の発生が続きました。
■エボラ出血熱
1976年にアフリカで確認されて以降、繰り返し流行しています。致死率が高く、2014年にも再燃し1万人以上が死亡しました。
■重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)
2002~2003年、香港を中心に流行し、29カ国・地域で8000人以上が感染、約800人が死亡しました。発症すれば重症化することから、患者をすぐに隔離することで封じ込めに成功。爆発的な感染拡大には至りませんでした。
■中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)
2012年にサウジアラビアで初めて感染を確認。中東諸国を中心に27カ国・地域で約2500人が感染し、約850人が死亡しました。
■天然痘(てんねんとう)
人類が唯一根絶に成功した感染症です。1万年前から人類の病気として定着したと考えられています。中米のアステカ帝国やインカ帝国が滅んだのはスペインの武力よりも、彼らが持ち込んだ天然痘のせいだったといわれます。日本では、奈良時代に大流行し政権を担った藤原四兄弟が死亡、戦国武将の伊達政宗が片目を失った原因も幼少期に患った天然痘だといわれています。明治時代にも万単位の人が亡くなる大流行が3回ありました。ちなみに、東京大学医学部は江戸時代の民間の予防接種施設から始まりました。
20世紀の死者は3億人にのぼりますが、ワクチンを使った世界保健機関(WHO)の活動が成功し、1980年に根絶を宣言しました。
(写真は、WHOのテドロス・アダノム事務局長=2020年2月6日、ジュネーブのWHO本部)
「コロナ前」には戻らない
新型コロナが世界中で急速に広まったのは、グローバル化が進み、国境を超えた行き来が盛んになったことも大きな要因です。感染症の流行、拡大には、それぞれの時代背景が影響していることがわかります。
いずれ新型コロナが終息したとしても、これまでの社会とはガラリと変わる面が必ず出てきます。緊急事態宣言で一気に広まったのが、自宅で働く「テレワーク(リモートワークとも)」と、学校のオンライン授業ですね。もちろん、会社や学校で顔を合わせて働いたり、学んだりすることの大切さは変わりませんが、働き方も学び方も、まるまる「コロナ以前」に戻ることはないでしょう。通勤や通学の負担が減って自宅で過ごす時間が増え、生活にゆとりが生まれるかもしれません。
いま急激に落ち込んでいる外食、宿泊、旅行、運輸、レジャー、エンターテインメント、アパレル、化粧品といった業界がコロナ後にどんな工夫をしたら生き残ることができるでしょう。いま伸びている通信、ネット通販、宅配、物流といった事業はさらにどう展開していくでしょうか。東京を中心とする首都圏への人口集中が続いてきましたが、「密」の回避やテレワークの普及で、地方への人口分散が始まる可能性があります。すると、新たなビジネスが生まれるかもしれません。こうしたことを考えることがきっと自分の将来につながります。
(写真は、営業を再開した映画館。間隔を空けるため席の利用を制限していた=2020年5月11日、広島市西区)
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