人事のホンネ

千葉興業銀行

千葉興業銀行
【人事のホンネ 特別編】内定辞退者を再就職で優遇「プライオリティパス」導入 選考にAI面接使わない理由は? ちば興銀に聞きました

人事部 人材開発室室長 加藤陽介(かとう・ようすけ)さん

2026年08月05日

 せっかく内定をもらったけれど、ほかの会社に進むことに決めた――。そんな内定辞退者に対して、3年以内であれば中途採用の選考を優遇する「プライオリティパス」という制度を導入したのが、地方銀行の千葉興業銀行(ちば興銀、本店・千葉市)です。2026年4月にははじめて1人、この制度を利用して中途入社をしています。就活のやり直しが可能になる制度を導入した狙いと効果は? 地方銀行としての採用戦略、選考にAI面接を使わない理由など、くわしく聞いてきました。金融機関を就職先に考える方はぜひ読んでほしいインタビューです。(編集長・福井洋平)

選考後に縁が切れるのはもったいない

■プライオリティパスとは
 ――2024年に導入された「プライオリティパス」とはどのような制度か、教えてください。
 プライオリティパスは、新卒採用の選考で内定を辞退した方に対し、3年以内であれば中途採用の選考を優先的に受けられる仕組みです。2025年卒採用から導入し、現在3期目です。当行には「いいじゃん、やってみようよ」というカルチャーがあるので、発案から導入まで2カ月でスタートさせることができました。

 ――導入のきっかけは何だったのですか。
 当行は従業員の約9割が新卒採用で構成される、新卒中心の組織です。中途採用はまだ発展途上で、毎年新卒採用で2000~3000人にエントリーいただいているのに選考後に縁が途切れてしまうのはもったいないという考えから、制度導入に至りました。金融機関での導入事例は私が知る限りではそれほどなく、業界内でもかなり先駆的な取り組みと考えています。

 一度辞退した会社にもう一度エントリーするのは心理的にハードルが高いと思うんです。でもこの制度があれば、千葉興業銀行はそこを気にしないんだ、むしろウェルカムなんだと伝えられます。

■運用と実績
 ――これまでに何人にパスを発行しましたか。
 3年間の累計で約100人に案内しました。全員が登録するわけではなく、案内を受けた上で登録しない方もいます。2026年4月に1人、このパスを使って入行しました。地方で就職したものの、千葉県出身で地元への思いが強かったため、就職後1年も経たないうちにパスを利用し、年明けに選考を受けて入行に至りました。

 パスを利用した場合の選考は1回の面接で、主に「うちで成長していける伸びしろがあるかどうか」と「なぜ千葉興業銀行に入りたいのか」を確認します。一度内定を出した方であり、3年以内という期間を考えれば大きく変わらないだろうという前提で、意思確認と将来性の見極めに重点を置いています。

きちんと意思を決めて進路を決めてほしい 辞退時もぜひ話を

■採用動向
 ――直近の新卒採用の状況を教えてください。
 2027年卒の本選考エントリー数は前年比1.35倍に達しています。採用予定人数はここ数年60人程度で、大きな変動はありません。

 エントリー数はピーク時から7割減、10年前と比べても4割減という時期がありました。いまでもピーク時に比べれば少ないですが、ここ数年は回復基調です。背景として、金利上昇に伴う銀行業界の業績改善などが挙げられますが、当行としてはそれだけに頼らず、SNSやスカウト媒体を活用した「プッシュ型」の採用広報を強化してきたことが大きいと考えています。

■辞退への姿勢
 ――内定を辞退する学生には、どのように接していますか。
 納得して決めていただかないと、お互い不幸になるだけです。うちに来ていただけるならちゃんと決めて頑張ろうと思って来ていただきたいし、もし心残りがあるなら、ちゃんとそこは確認しましょう、というスタンスですね。

 内定承諾後も他社の選考を続ける学生が増える中、当行は無理な引き止めはせず、本人が十分に比較検討した上で決断することを重視しています。仮にちば興銀を選ばなくても、社会でちゃんと生き生きと活躍してほしい。それがひいては地域や日本のためになるし、千葉県が元気でなくなれば地域金融機関として生き残れないとも思っています。当行以外の会社で働かれるにしても、どこの会社にお世話になりますという意思をしっかり決めて進んでほしいので、辞退される際でもぜひ最後にお話はちゃんとさせていただきたいですね。

若いうちから活躍したい「鶏口人材」求める

■求める人材像
 ――他の銀行との違いをどのようにアピールしていますか。
 私たちは「鶏口人材」というキーワードを掲げています。これは「鶏口牛後」の故事成語にちなんだ造語で、「『誰でもいい』ではなく『あなたが必要』と言われたいという強い熱意を持ち、自分ごととして仕事に向き合う人」と定義しています。

 私たちは正社員数1200~1300人という規模の会社ですので、若いうちから自分の名前で勝負できる環境があります。大きな組織の歯車になるよりも、若いうちから主体的に変化を起こしていきたい。若いうちから活躍したいと思える方が、私たちとフィットすると考えています。私自身も新卒で入社していますが、若いうちから早く成長したい、活躍したいという気持ちで当行を選びました。

 ――この「鶏口人材」という概念はいつ頃から使い始めたのですか。
 5年前です。きっかけは、年々難しくなる採用環境でした。それまでは「自立的な人」というどの会社にも当てはまるような表現を使っていたのですが、他社と何が違うのかをうまく説明できなかったという反省があります。売り手市場が加速するなかで他行や他業種と明確に差別化する必要に迫られ、このキーワードを打ち出すようになりました。

 求める能力の要件を「思考力」「向上心」「自主性」の3つに整理しています。思考力は正解のないテーマに対して倫理観を持って誠実に考え続ける力、向上心はものごとをよくしようと一歩先を目指す姿勢、自主性は周囲の反応に流されず自分の信念で働ける力。これらの定義はウェブ上で公開していて、選考の透明性を高める役割も果たしています。

 ――千葉県出身である必要はありますか。
 よくそういう質問をいただきますが、マストではありません。ただ、千葉県の地域金融機関である当行で、何かこういうことをしたいという思いは持っていてほしいと思います。

「銀行っぽくない銀行」と言われる

■社風
 ――お客さまや学生から見た千葉興業銀行の特徴は何ですか。
 よく言われるフレーズは、「銀行っぽくない銀行」です。共通して挙がるのは「硬くない」「お客さまとの距離が近い」「従業員同士も距離が近い」といった点です。

 私自身、市川市や野田市など県内5カ所で約10年の営業を経験し、その実感を得てきました。社長の家族会議に呼ばれてもめ事を仲裁したこともありますし、他の銀行さんの提案について「この提案どう思う?」と相談されることもありました。どの店舗に行っても「相談しやすい」と言っていただけましたね。他行の方からは『ちば興銀はお客さまとの距離がすごく近く、懐に入り込むのが上手で密な情報を得ている』とよく言われました。

 ――千葉銀行との経営統合後、採用はどうなりますか。
 今まで通り、別々に実施します。ブランドも別ですので、千葉興業銀行として採用する形は変わりません。お互いに単独ではできなかったことが経営統合することでできるようになる。それぞれの強みを持ち寄りながら進めていくことになると思います。

AIよりも人が対話したほうが思いが伝わる

■AIの活用
 ――採用活動におけるAIの活用状況を教えてください。
 2025年卒と2026年卒の選考では、適性検査の一環としてAI面接を導入していました。ウェブ上で定型の質問に回答する形式で、学生時代の経験を深掘りし、コンピテンシー(行動特性)のスコアを算出するものです。回答が不十分だと異なる角度から追加質問が出され、10分で終わる人もいれば1時間かかる人もいました。

 しかし2027年卒からはAI面接を廃止しました。理由は大きく2つあります。1つ目は、スコアの差が想定ほど大きくなかったことです。AI面接で選考することはなく、その後の面接の参考情報としていたのですが、AI面接の結果を活用することは難しいと考えました。2つ目は、当行が出しているメッセージとの矛盾です。主となって活躍してほしい、あなたが必要と言われたいという「鶏口人材」を求めているコンセプトからすると、AIよりも人が対話したほうが私たちの思いは伝わるのではないかと考えるようになりました。

 一方で、AI面接ならではの発見もありました。面接で「何度も同じ質問をされた」と言う学生さんがいるんですが、裏を返すとそれは質問にちゃんと答えられていないということなんです。対面の面接でもキャッチボールができていない方は、AI面接の所要時間も長かった。そういう意味では使いようだなと学ばせてもらいました。結論として、AIはあくまで「パートナー」であり、採用における対話の核は人が担うべきという考えに至っています。

選考ガイドを全面公開し透明性を確保

■選考の透明化
 ――選考プロセスをオープンにしていると聞きました。
 ちば興銀は「選考を受ける前に読むガイド」と題した資料をウェブ上でフルオープンに公開しています。当行の選考に対するスタンス、面接の流れ、面接で聞く質問の内容まで明記されています。質問は大きく『就活に関すること』『価値観や志望理由』『過去の行動』『現在と未来の仮定』の4領域。最後の「仮定」は、面接の場でケースを提示し、学生がどう考えどう動くかを問うものです。

私たちは面接で、用意してきた答えを聞きたいわけではないんです。ありのまま話してくれればいい。面接に際して手の内を明かすのは事前に準備してほしいということではなく、緊張しないようにして来てほしいという思いからです。

 ――結果通知についてはどうしていますか。
 私たちはサイレントお祈り(不合格の通知をしないこと)を一切行いません。合否にかかわらず必ず連絡し、所要期間の目安も「平均3週間程度」と公表。連絡手段は電話またはメールと定めており、急に知らない電話がかかってきても出られない可能性もあるので、人事担当の携帯番号も公開しています。

 面接は企業が学生を審査・評価する場だと思っている人が多いですが、私たちは「あなたがどんな人か」「ちば興銀がどんな銀行か」を、対話を通じてお互いに理解することが大切と考えています。学生さんにご自身のことや進路についてオープンにしてほしいとお願いするなら、私たちもオープンでなければいけないと考えて、情報はできるだけ公開しています。

面接で見ているのは「経験から学べる力」

■選考の視点
 ――面接ではどのような点を重視していますか。
 先述の「思考力」「向上心」「自主性」の3要素を軸に、過去の行動やケース課題を通じて評価しています。選考フローは、エントリーシートと適性検査による書類選考の後、1次面接(オンライン)、2次面接(対面)、最終面接(対面)の3回です。

 私は特に、結果のアピールよりも「うまくいかなかった経験」に注目しますね。ネガティブな経験のほうが、そのときどう乗り越えたか、どんなことを考えてどんな選択をしたかが見えるのでおもしろい。結果自慢よりも、日常の小さな頑張りを丁寧に振り返っている人のほうが聞きたくなります。

 この考えは実は、入行後のデータでも裏付けられています。当行では1~2年目の若手社員にAIコーチングを導入しており、日々の業務の振り返りをデジタルで記録する仕組みを運用しています。そうすると、振り返りの量と質が高い人ほど、成長速度が明確に早いということが見えてきました。これはインターンシップでも同じ傾向を確認できます。5日間のインターンで初日から最終日までに劇的に変わる学生さんがいるのですが、その方たちの共通点は、毎日しっかり振り返りをしていることです。初日に気づいたことを次の日に生かし、周りからのフィードバックを受け入れ、また行動を変える。その繰り返しで5日間で別人のように成長します。でもそれをやらない人はずっと同じままですね。経験から学べる力こそが、新卒採用で重視すべき「伸びしろ」を測る最大の指標だと考えています。

「自分の名前が地域に残る」という実感

■志望者へのメッセージ
 ――学生に大学時代をどのように過ごしてほしいですか。
 やりきった経験、うまくいかなかったことから学ぼうとする姿勢を持って過ごしてほしいですね。特別な実績である必要はなく、アルバイトでのクレーム対応やサークルでの意見対立など、日常の中にある経験を丁寧に振り返ることが大切です。

 ――地方銀行で働くことの意義をどのように伝えていますか。
人口減少は避けられない社会課題です。その中で地域のインフラとして企業や個人の未来を支えていくのが地方銀行の役割。生まれたときから人生を全うするまでのすべてに関わり、そこにお金という要素も絡ませられる。ワンストップでできるのが金融の醍醐味です。

 私自身、約10年の営業経験で感じたのは、勤務地が変わってもお客さまとの縁が続く感覚でした。新しい店舗に着任すると、前任者や前々任者のことをお客さまが覚えていて「あの人は元気ですか?」と聞いてくれる。逆に以前のお客さまから私に連絡をもらうことがあります。自分の名前が地域に残っていくのを感じられる。それが貢献実感につながっています」。

 人口減少の時代は、裏を返せば一人ひとりの存在感が大きい時代です。自分の名前で地域に貢献したい、あなたじゃなきゃだめだったと言われたい。そう思える方にとって、地方銀行はフィットする場所ではないでしょうか。そして、地方銀行の中でも特にその思いを実感できるのがちば興銀だと考えています。