内定者は大学卒業後に最大1年間の「助走期間」を経て入社することができる――。日本航空は2027年度採用からそんな「Runway(ランウェイ)採用」をスタートさせました。就職活動が早期化、長期化し、充実した学生生活を送ることが難しいという声が学生から出てくるなか、内定から入社の間隔をあけるという施策に踏み切りました。「助走期間」の半分は、海外留学やボランティアにあて,グローバルな感覚を養ってもらうという狙いがあります。このアイデアを形にしたのは、入社1年目の若手社員。制度の狙いやその思いについてじっくり聞いてきました。(編集長・福井洋平)
日本航空(JAL)
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【人事のホンネ 特別編】入社まで最大1年間の猶予「ランウェイ採用」の狙いは何か――入社1年目社員が制度化 JALに狙いを聞きました
日本航空 人財本部人事部リクルートグループ 小河祐五(おがわ・ゆうご)さん
2026年06月10日
内定者は大学卒業後に最大1年間の「助走期間」を経て入社することができる――。日本航空は2027年度採用からそんな「Runway(ランウェイ)採用」をスタートさせました。就職活動が早期化、長期化し、充実した学生生活を送ることが難しいという声が学生から出てくるなか、内定から入社の間隔をあけるという施策に踏み切りました。「助走期間」の半分は、海外留学やボランティアにあて,グローバルな感覚を養ってもらうという狙いがあります。このアイデアを形にしたのは、入社1年目の若手社員。制度の狙いやその思いについてじっくり聞いてきました。(編集長・福井洋平)
入社までの猶予期間の半分は海外で過ごす
■ランウェイ採用とは――「ランウェイ採用」について、まずどのような制度なのか教えてください。
内定者が、入社時期を最大1年間遅らせることができる制度のことです。日本航空(JAL)では、この猶予期間を空港設備にかけて「ランウェイ」(滑走路)と名づけました。助走期間を経て、将来さらに高く飛んでいってほしいという思いをその名称に込めています。多様な価値観を尊重し、新しい価値の創造に挑戦して変革を起こせる人材を育成することを目的として設けられた採用方式です。
――これはどの職種でも応募可能なのでしょうか。
いまの対象職種は客室乗務職と業務企画職(事務系)の2種類で、パイロットや業務企画職のエアラインエンジニアコース(技術系)は対象外となっています。業務企画職は、コーポレートコース、オペレーションコース、ビジネスマーケティングコース、データサイエンスコース、デジタルテクノロジーコースなどを含む、いわゆる総合職に相当するポジションです。対象職種に応募する方は、全員ランウェイ採用を選ぶことができます。
――ランウェイ期間は、どのように過ごしてもらうのでしょうか。
制度を利用できる活動内容は、現時点では「海外留学」と「海外ボランティア」の2種類に限定されています。そして、ランウェイ期間中は少なくとも半分以上の期間を「海外留学」または「海外ボランティア」につかうことが求められます。入社を6か月遅らせる場合は3か月以上、1年遅らせる場合は6か月以上、海外留学かボランティアをしていただくということです。ランウェイ期間が始まる際には活動のスケジュールと目的を会社側に提出し、その後は3か月に1回程度、100字から300字程度のレポートを通じて現状を報告していただきます。入社するまでは給料は発生しません。
――内定者がいつ入社するのかは、どのタイミングで決めるのですか?
27年卒生の場合、2026年10月1日の内定式までに入社時期を決定していただきます。業務企画職については10月・1月・4月の3つの入社月から選ぶ形で、客室乗務職については訓練カリキュラムとの兼ね合いから、翌年度(27卒であれば2028年)の4月入社に限定されています。その後、入社日が確定した内定者それぞれの状況を踏まえながら、配属先を決めていきます。
思った以上に興味を持つ学生が多い
■選考の流れと応募状況
――業務企画職の採用フロー、採用予定人数を教えてください。
基本情報の登録とエントリーシートの提出後、SPIを受験します。その後、1次(グループディスカッション・オンライン)、2次(面接・オンライン)、最終面接(対面)という流れで選考が進みます。業務企画職全体(技術系と事務系)の採用は100人程度、そのうち事務系は50人程度を予定しています。
――ランウェイ採用の利用希望者はどのくらいいますか。
応募者のおよそ3割がランウェイ採用の利用を希望しているといいます。思っていた以上に、興味を持つ学生が多いですね。制度への関心の高さを感じます。
――インターンシップについても教えてください。
JALでは、弊社への理解と関心を深めてもらうねらいでインターンシップ(業務企画職では例年約130人が参加する長期インターンシップ)を実施しています。インターンシップ参加後にそのまま本選考に進みJALに入社する学生も一定数おり、採用直結型のルートも設けられています。
――業務企画職の採用フロー、採用予定人数を教えてください。
基本情報の登録とエントリーシートの提出後、SPIを受験します。その後、1次(グループディスカッション・オンライン)、2次(面接・オンライン)、最終面接(対面)という流れで選考が進みます。業務企画職全体(技術系と事務系)の採用は100人程度、そのうち事務系は50人程度を予定しています。
――ランウェイ採用の利用希望者はどのくらいいますか。
応募者のおよそ3割がランウェイ採用の利用を希望しているといいます。思っていた以上に、興味を持つ学生が多いですね。制度への関心の高さを感じます。
――インターンシップについても教えてください。
JALでは、弊社への理解と関心を深めてもらうねらいでインターンシップ(業務企画職では例年約130人が参加する長期インターンシップ)を実施しています。インターンシップ参加後にそのまま本選考に進みJALに入社する学生も一定数おり、採用直結型のルートも設けられています。
学生の声きっかけに1年目社員が制度設計
■発案のきっかけ――かなり思い切った仕組みだと思いますが、この制度が生まれた経緯を教えてください。
これは昨年(2025年)9月、弊社も参画した経済同友会主催のインターンシッププログラムでの学生発表がきっかけでした。このプログラムでは学生が約10日間弊社で就業体験し、最終日に弊社への提案を発表してもらう流れでした。その場である学生が、「就職活動が早期化したことで、海外留学など自分が挑戦したい機会が損なわれている」と訴え、内定後に入社までの猶予期間をもうけたらどうかという仕組みを提案したのです。
就活の早期化が進むほど、学生は大学3年生のかなり早い段階から情報収集やエントリーシートの作成、インターンシップへの参加に時間を費やすことになります。その結果、海外留学やボランティアといった、時間と機会を要する挑戦への意欲が実現できないまま就活に流れてしまうケースが増えていると私たちは認識しています。私自身も2025年入社で、大学3年の6月ごろから就活を始めましたがそれでも少し遅かったという感覚もあり早期化を実感したので、確かにそういう仕組みがあったら自分も使いたかったとすごく共感しました。そこで当時の上司に相談し、制度設計をスタートさせ、今年(2026年)の2月にプレスリリースまで至りました。
――入社半年の小河さんが提案されたのですね。制度化に向けて苦労した点はありましたか。
最も難しかったのは、どの職種にこの制度を取り入れるかという点です。特に客室乗務職については、入社後に必要な訓練カリキュラムとの兼ね合いがあり、ランウェイ後の入社月を一律で「翌年4月」に固定するという調整が必要でした。客室本部へは、ランウェイ採用は「自立的なキャリア形成」と「グローバル意識の醸成」が目的だという制度趣旨を丁寧に伝えて、理解を得ていきました。
会社の立場からすれば、内定を出した人材が1年間来ないという要員計画上のリスクも正直あります。それでも制度を推進したのは、「リスクよりも、多様な経験をしてから入社してもらうことの価値を優先した」という思いからです。
――入社1年目に近い若手社員がこれほどの制度設計に携わるのは、JALとして珍しいことではないのですか。
私の例からもわかるように、弊社は若手の裁量権がすごくある会社だと感じます。前任の採用担当者も同様に若手社員で、入社式の運営を担うなど、早い時期から責任ある業務を任される風土が根づいていると思います。
私が採用されたビジネスマーケティングコースのキャッチコピーは、「ゼロを1にする力」です。弊社は近年、新しいものを生み出す推進力を社内文化として定着させようとしている最中にあると感じます。
海外の文化を体感し、多様な価値観尊重できるように
■グローバル――なぜ猶予期間の過ごし方を海外留学・海外ボランティアに限定しているのですか。
弊社が求める人材像の核には「多様な価値観を尊重し、新たな価値創造に挑戦し、変革を起こせる人材」というコンセプトがあります。
航空業界は本質的に、多様な国籍・文化的背景を持つ人々と日常的に関わります。だからこそ多様な価値観を尊重することが大切なのですが、そのためには海外の文化や価値観を「知識」として知るのではなく、実際に海外で過ごし「体感」することが重要です。私も大学時代にインドに滞在したのですが、そのときに「日本では他人に迷惑をかけてはいけないと教わるが、インドでは他人に迷惑をかけてもいいがそれを許す心を持ちなさいと教わる」と聞かされ、国によってこれほど価値観が違うのかと感じました。
大学でも留学が積極的に奨励されたり、海外旅行の経験者も増えたりしています。しかし、留学やボランティアという形で海外に腰を落ち着けて生活する経験は、まだまだ増やすことができる領域だと思います。そのため、ランウェイ採用では海外留学、ボランティア経験を義務づけることにしました。
――「新たな価値創造、変革を起こせる」点も重視されています。
はい。弊社は航空運送という本業に加え、マイレージ事業をはじめとする非航空領域への価値創造にも力を入れています。航空会社として安定運航を提供することはもちろん大前提なのですが、コロナ禍を経てそれ以外の事業領域においても新しい価値を生み出していく必要性が高まっています。非航空分野は私たちにとってはまだまだ開拓の余地があります。そこで変革を起こせるような人材が、これからのJALを作っていくということです。
その意味で、海外経験を通じてグローバルな視点や新しい発想を身につけた人材は、航空分野だけではなく非航空領域における価値創造にも直結する人材として期待できると思います。
変化激しい今「外の目」も必要
■ランウェイ採用で入社する人材への期待
――グローバルな視点育成のほか、どのようなことをランウェイ採用者に期待しますか。
ランウェイ採用を実施する目的は2つあります。1つはこれまでお伝えしたようにグローバルな視点の醸成、2点目は「主体的なキャリア形成」です。
自らランウェイ採用という選択をした時点で、その人は「自分のキャリアを自分で設計する」という第一歩を踏み出しています。海外での経験を通じてさまざまな価値観に触れ、「自分は何をしたいのか」「何を大切にするのか」という軸を持った上で入社してほしいというのが採用担当者の思いです。会社に入ってからも、主体的なキャリア形成は大切。そのスタート地点として、ランウェイ期間を活用してほしいですね。
交通インフラを支え安定運航を担ってきた航空会社という業態ですから、かつては「早く入社して、早く組織の論理に慣れ親しむ」という人材育成観があったかもしれません。しかし、外部環境の変化が激しくなった今、その発想だけでは対応しきれないという認識がJAL社内にも広まっていると思います。これからは外の視点から「こういうことも必要なのではないか」と言ってくれる人材も、JALには不可欠だと考えています。
私たちは、サービスや商品に携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方として策定した「JALフィロソフィ」を大切にしています。そのなかのひとつに「スピード感を持って決断し実行する」という項目があります。ランウェイ採用という制度が、学生の発案からわずか半年で形になったこと自体が、この変化の表れのひとつといえるかもしれません。
――グローバルな視点育成のほか、どのようなことをランウェイ採用者に期待しますか。
ランウェイ採用を実施する目的は2つあります。1つはこれまでお伝えしたようにグローバルな視点の醸成、2点目は「主体的なキャリア形成」です。
自らランウェイ採用という選択をした時点で、その人は「自分のキャリアを自分で設計する」という第一歩を踏み出しています。海外での経験を通じてさまざまな価値観に触れ、「自分は何をしたいのか」「何を大切にするのか」という軸を持った上で入社してほしいというのが採用担当者の思いです。会社に入ってからも、主体的なキャリア形成は大切。そのスタート地点として、ランウェイ期間を活用してほしいですね。
交通インフラを支え安定運航を担ってきた航空会社という業態ですから、かつては「早く入社して、早く組織の論理に慣れ親しむ」という人材育成観があったかもしれません。しかし、外部環境の変化が激しくなった今、その発想だけでは対応しきれないという認識がJAL社内にも広まっていると思います。これからは外の視点から「こういうことも必要なのではないか」と言ってくれる人材も、JALには不可欠だと考えています。
私たちは、サービスや商品に携わる全員がもつべき意識・価値観・考え方として策定した「JALフィロソフィ」を大切にしています。そのなかのひとつに「スピード感を持って決断し実行する」という項目があります。ランウェイ採用という制度が、学生の発案からわずか半年で形になったこと自体が、この変化の表れのひとつといえるかもしれません。
成長のぞむ人のための環境が整っている
■学生に求めること――御社を志望する学生に、学生時代やってきてほしいことはありますか。
「これをやってほしい」という特定のことはなくて、自分が打ち込んできたことに関して、それこそ新しい価値創造をしてきたかどうかは選考時に見られるポイントだと思います。安全運航への強い思いはぜひ持っていてほしいです。その上で選考では自分が何をしてきたか、どんな人柄なのかを素直に話してほしいですね。就活は、縁だと思います。自分に合った会社に最終的に行くことが就活なのではないかと思っています。
――小河さんのJALの志望動機は?
グローバルに活躍できるということ、もともと空港に行くとワクワクするし好きだったということもあります。そしてJALは日本の各地域とのつながりの創出も大切にしていますので、世界と日本の地域をつなげる仕事ができそうだとも思い、応募しました。
――小河さんは1年間働いてみて、JALという会社の雰囲気をどう感じていますか。
最も印象深かったのは先ほども言いましたが、入社半年でランウェイ採用の設計に関われたことです。大学の同期は多くがまだ研修中だった頃に、これだけ大きなプロジェクトに関われるんだと感じました。歴史がある会社なので若手が活躍するまでに時間がかかる、というイメージを持つ方がいるかもしれませんが今は違います。成長を望んでいる人には、JALは若いうちから裁量権を持って仕事ができる環境が整っていると伝えたいです。
もうひとつ感じることは、「人の温かさ」です。優しい人が多く、チームで一丸となって前に進む文化があります。航空インフラを支える組織としての連帯感があると感じますね。
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