SDGsに貢献する仕事

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IHI〈後編〉人と人とのつながり、非常に大事にする仕事【SDGsに貢献する仕事】

2026年09月02日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」の第37回。航空・宇宙・防衛、エネルギー、社会インフラなどの分野で事業を展開するIHIの後編をお届けします。枯れた技術の多い航空部門にイノベーションをもたらす「航空機電動化」プロジェクトに邁進する2人。研究職ではありますが、実は人と人とのつながりを大切にする姿勢がとても大切だと語ります。IHIで働くやりがい、働きやすさについても聞きました。(編集長・福井洋平)

【お話をうかがった方のプロフィル】
菅原寛生(すがわら・ひろたか)さん(写真右) 航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター アシスタントマネージャー
2017年東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了、同年入社、航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター,技術開発本部を経て現職。

天野裕登(あまの・ゆうと)さん(写真左) 航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター
2024年、秋田大学大学院サステナブル工学専攻修了、同年入社し現職。
(前編はこちらから

家庭用の空調とは複雑さが大きく異なる

■空調電動化のハードル
 ──前編で、天野さんはいま航空機の空調システムの電動化を研究しているとお話しいただきました。これには、どんなハードルがありますか。
 天野裕登さん 航空機の空調の絶対的なデメリットは、家庭の空調と違い、効率がものすごく悪いことです。電動化する際にも空気を取り入れるために電気を使ったり、消費電力がどんどん増えたりしてしまいます。航空機の外気温はマイナス何十度からプラス何十度と変わってくるので、それらすべてに対応しつつ、かつ消費電力をできるだけ抑えるようにしないといけません。課題はいかに消費電力を抑えられるかです。

 私は空調システム全体の構成の検討を実施していまして、どういった空気の流れにすればより冷やしやすくなる、温めやすくなるということを大学時代から考えています。それを計算のプログラミングに落として解析を回し、どれぐらい効果が得られるかをひたすら検討してきました。家庭用の空調でも外気を取り込んで、コンプレッサーで圧縮したり、膨張機で膨張させたりしています。その空気の流れを組み替えたり、置き換えたりするとどうなるかを考えます。

 ──そんなに複雑に空気は回っているものなんですか。
 天野 そうですね。家庭用の空調は基本的に地上の空気を吸い、冷房だったら冷やした状態で送り込むだけです。しかし、空を飛んでいる飛行機は外気温や外気圧がかなり低いので、冷たい空気をちょっと温めて客室に送り込んだだけでは、みなさんが快適に過ごせません。家庭用空調とはシステムに必要なコンポーネントの数や用途が変わります。ボーイング787で電動空調になりましたが、電動化以前もエンジンから空気を取ってくる「エアサイクルシステム」がありました。

 菅原寛生さん これは基本的に、戦後の飛行機にはついています。気圧を維持し、高所で人が快適に過ごすための技術開発は戦前から行われていました。

消費電力を抑えるアイデア次々試す

■研究の方法
──流路を考えるのはパソコン上ですか。
 天野 ノートに手書きでブロックを書き、経路をパソコンのプログラムに落とし込んで計算を回します。いろいろな過去の機体や最新の論文、世界で行われている研究を見つつ、そこに対して我々が持っているコンポーネントや技術、過去の知見を加えたらどうなるかという見方をしています。

菅原 コンセプトは紙に書きますが、実際に熱力学、空気力学的に成り立つか、そもそもそのシステムが入れられるかという問題があります。先ほど申し上げたとおり、小さい機体になると、モノを置くスペースがどんどん小さくなります。

 消費電力を下げるためのアイデアはいろいろとあります。それを実現するために似たような事例を探したり、なければ自分で新しく考えたアイデアをパソコン上で試します。うまくいく、うまくいかないを選別したり、いろんなパターンを考えて、評価したりしています。

■JAXAとの研究
──2024年にJAXAさんと組んで発表された「電動ハイブリッド推進システム」はどういう技術なんですか?
菅原 これは、我々がメインでやっているマイクロハイブリッドの拡張版です。航空機の推進も電動にするというところで、JAXAのメガワットプロジェクトチームで実施していて、我々は発電機を担当しています。

機体の表面には摩擦があり、その表面摩擦を機体後部のファンで吸いこめば、推力を出すときに必要な動力を減らせるという理論です。JAXAの実証実験に我々も参加しています。

──空気抵抗を減らすんですね。
菅原 そうですね。機体メーカーからすると「空気抵抗を減らす」となりますし、我々、エンジンメーカーは「必要な推力を減らす」です。同じことを言っているんですけど、空気抵抗を減らす技術ですね。

理系も人と人とのつながりが非常に大事

■研究と交渉
 菅原 研究のコンセプトを学会だけではなく、場合によっては航空機メーカーなど、外に話すことも非常に大事です。メーカーや、実際に航空機の規格を決めているSAE(Society of Automotive Engineers)に出て、話すこともします。こういったところで話をすることで、我々の考えに抜けている部分や、逆に「こういったニーズがあるよね」とキャッチアップするのも重要な活動です。学会的な話をすることもありますし、商談ベースのこともあります。

 ──それは、基本は英語ですよね。
 菅原 そうですね。海外では今、民間機をつくっているのがボーイングとエアバスですが、どちらにも話しています。ボーイングはアメリカで、エアバスはスペイン、フランス、ドイツ、イギリスで設立されているので、共通語は英語です。とはいえ、やっぱり人と人の仲なので、母語をしゃべってくれたほうがうれしいと思われるのは確かです。なので、フランス語が話せたらと思うこともあります。

 そういう意味では理系は「技術だけ見ていればいい」と思われがちですが、ぜんぜんそんなことはない。人と人とのつながりが非常に大事です。

 ──「つながってよかった」ということはありますか。
 菅原 あるキーパーソンと仲良くなったことで、プロジェクトがうまく進む、ということはよくあります。学会や企画団体で面識ができるのですが、企画団体は基本的に企業から有志が集まったボランティアで運営しています。そこを手伝って貢献することで、つながりができることもあります。企画制定会議を日本でするときに発表者を集めたり、発表したり、運営を手伝ったりもします。

 ──つながりができるのはメーカー、学術、政府当局の人たちですか。
 菅原 はい。飛行機は政府当局の認証を得て、初めて飛べます。安全面をどう考えるか、安全だと示すために、どういうルールや規格が必要かを決めなくてはいけないので、政府当局の方を含めたコミュニケーションは非常に重要です。

 ──話すときに何か気をつけていることはありますか。
 菅原 話す内容にどう説得力を持たせるのか、どうすれば伝わるかを考えて、準備します。受け手の立場によって、通じやすい言葉が違うので、たとえば機体メーカーなら機体レベルの話から入りますし、企画の方ならどういう案件なのか、コンポーネントなら専門分野にあった話し方、と伝わりやすいように気をつけています。

自分の研究に興味を持ってもらえる喜び

■印象深かったお仕事
 ──天野さんは入社して3年目ですが、今までで印象深い仕事はありましたか。
 天野 大学のときからずっと電動化の研究をしていますが、学生では電動化の研究をしている人は少なく、学会で発表してもあまり関心を持たれないというか、理解されづらい状況でした。入社して、航空系の展示会等で電動化事業や空調の説明をすると、「すごいね」「IHIはこんなこともやっているんだね」と興味を持っていただけて、自分の説明もちゃんと理解してもらえることにすごく喜びを感じました。

 航空機の研究開発は実際にモノができるまでの道のりがすごく長く、完成品やお客様に渡るところが見えないこともあるのですが、展示会に参加して、どれだけ興味を持っていただけているかが分かって良かったです。

 ──展示会には同業他社が来るのですか。
 天野 同業他社が来ます。だいたいの方々がすごく細かいところまで聞いてくるので、エンジニア同士の議論というか、けっこう深いところまで話せるので、楽しかったです。海外の機体メーカーや今の機体に入っている空調をつくっている海外メーカーも来るので、そういった人たちにも見てもらえます。

 ──菅原さんが印象深かったお仕事は?
 菅原 ある機体メーカーに話をしに行って、それがまた次の話につながったときですね。かなり大勝負のプレゼンでした。

 6人くらいのチームで先方はマネージャー以上の人が10人くらい、技術的な説明は私の上司と私の3人で行いました。我々の開発している航空機電動化がどういうメリットがあるか。それを具体的にどういう根拠でこういうメリットが出るというのを数値的に出すのはもちろんのこと、かつ納得いくストーリーを持っているかどうかも、かなり準備していきました。それで「確かにこれはメリットがある技術だね」と認めてもらいました。

スケールの大きい研究ができる

■天野さんの大学選び
 ──天野さんはなぜ、電動化というテーマを選ばれたのですか。
 天野 もともと航空機が好きだったっていうのが第一の理由です。何かしらの形で航空機に携わりたいと思っていたところ、秋田大学とIHIが共同研究をやっているという話を聞き、これから絶対に必要になるだろうと思っていたので、もうこれしかないと。

 ──研究をずっと重ねてきて、面白さはどういうところに感じますか?
 天野 手元で機械をいじって、何かしらの制御装置をつくる面白さもあるとは思うんですが、もっとスケールの大きいところで見られるのが個人的には面白いですね。ちょうど共同研究で空調システムの小さい試験装置を秋田大がつくりはじめていたので、航空機の空調システムの実機ではないですけど、サブスケールのモデルを見ながら研究を進められたのも大きかったです。

■菅原さんの大学選びと就活
 ──菅原さんが大学を選んだ理由は何でしたか。
 菅原 私は東京の出身で、大学に入ったときは宇宙か航空かは必ずしも決めていませんでした。航空学科がある大学は多くありませんが、今はJAXAの一部になったISAS(宇宙科学研究所)に関われるようなところがいいなと思って選びました。

 ──そこでドローンも研究されたのですね。
 菅原 私はラジコン飛行機もやっていたんですけど、中学生ぐらいのときに模型用のリチウムイオン電池や性能がいいモーターが急に出はじめました。「こんなに小さくて、パワーが出るものがあるんだったらいろいろできるじゃん」と思って、模型飛行機からドローンに行きました。

 ──IHIを選んだ理由は何でしたか。
 菅原 ドローンを実際に手元で飛ばせるのも面白かったんですが、実際に事業という面で見ると、かなりサイクルが激しいと感じました。私はどちらかというといろいろ考えたり、研究したりしたい人間なので、長期のスパンで研究開発できるのは何かと思ったときに、航空機電動化は機体のシステムが大きく変わるので、いろんなチャンスがありそうだし、ドローンで学んだ電気・制御に関わる知識も使えそうだというところで選びました。

 ──他に選択肢はありましたか。
 菅原 就活時点ではエアライン、飛行機整備、インフラの鉄道など幅広く見ていました。ただ、やっぱり、モノをつくるほうが向いているな、とIHIに申し込みましたね。

 ──IHIの「人」はどうでしたか。
 菅原 今の上司がすごくエネルギッシュな人で、いろいろと話したときに仕事の説明をすごく楽しそうにしていました。講義でも、実際に会って話したときも、その印象が強かったです。

技術力の差が強み

■IHIのやりがい
 ──IHIで働くやりがいは、どういうところにありますか。
 菅原 我々の部署は開発だけではなく、お客さまとも話しますし、全体を広く見られますので、非常にやりがいがあります。私は飛行機大好き人間なので、飛行機を近くで見られる環境は他にはありません。

 ──ずっと飛行機が好きなんですか?
 菅原 そうですね、幼稚園ぐらいから好きです。私が大学のときに「はやぶさ」が大気圏に再突入したのですが、打ち上げの経緯もずっと読んでいました。赤ちゃんのころから飛んでいるものなら何でも好きで、飛行船が飛んでいると、ずっと見ていたそうです。

 ──同業他社と比べた、IHIの強みは何だと思いますか。
 菅原 まず明確にエンジンは強いですね。エンジンだけじゃなく、空気、機械、全般に強く、唯一無二だと思います。実際に整備の様子を見られるのも非常に強みだと思います。

 ──技術力の差というのは実際に研究していて感じますか。
 菅原 とは言え、我々の主戦場は海外なので、そことどう対抗するかという課題もあります。当然、我々より実際にエンジンをつくっている三大メーカーはずっと規模が大きいので、どこで差別化するかは常に考えます。

 ──どこに差別化のポイントが出てくると思いますか。
 菅原 たとえば、電動化をはじめたのがかなり初期でしたが、新しいニーズを常につかんでいく必要があります。どう手早く手を打っていくかが重要です。

 ──いわゆる高市政権の17項目、重点投資項目の一つに航空宇宙分野が挙がっていたので、注目分野になると思います。そういう意味でプレッシャーや意気込みは。
 菅原 航空は世の中に欠かせないインフラで、他には代えがたい特長があります。我々が好きだということもありますけど、社会的な責任、モノを維持して、より良くしていくという責任は感じています。

 ──天野さんがIHIで働くやりがいは。
 天野 先ほど2年間振り返ったときの話でも言いましたが、自分が続けている研究を認められたと言うにはちょっと早すぎるかもしれないんですけど、いろんな他社や大学の先生方からご好評いただいていることにやりがいを感じています。それから、やっぱり研究開発なので、まだないモノをつくっているのも楽しいです。航空機の電動化は「国内では我々だけ」という思いでやっています。
■IHIの働きやすさ
 ──IHIで働きやすさを感じることはありますか?
 菅原 コロナ以降、働き方改革が進んでいます。私は子どもがいますが、子育てで便宜を図ってもらい、かなり助けてもらっています。

 ──天野さんは働きやすさを感じますか。
 天野 若手の目線で言うと、今日みたいなシャツは着なくて大丈夫です。私は久しぶりにジャケットを羽織りました。

 ──普段、研究されているときはどんな格好をしているんですか?
 菅原 普通にTシャツを着ている人がいます。

 天野 そのままランニングでも行けそうなぐらいのパンツにシャツ、Tシャツとかですね。

 菅原 海外で商談に行くときも我々日本勢はきっちりスーツを着込んでいきますけど、相手はすごくラフだったということもありました。

(写真・山本友来)

SDGsでメッセージ!

就活生のみなさん、こんにちは。私もほぼ10年前に就活をしたとき、非常に悩んでいろいろ調べました。でも、そのおかげで納得できる就職先を見つけることができたと思っています。みなさんもぜひ、いろいろ調べて考えてみてください。(菅原さん)

学生のみなさん、こんにちは。IHIは1853年に創業した大変歴史のある伝統的な企業です。この長い歴史の中でIHIが培ってきた技術というのは、日本国内だけではなく全世界に浸透しております。この長い歴史で培ってきた技術だけではなく、最新の技術動向にもIHIは関心を向けて挑戦をし続けております。
また、長い歴史のある伝統的な企業と聞くと、かっちりしたスーツで仕事をするとみなさんは想像すると思いますが、実際、私などはTシャツなどの私服を着て働いております。IHIは大いに働きやすいところです。学生のみなさんにはIHIに関心を持っていただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。(天野さん)

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