SDGsに貢献する仕事

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IHI〈前編〉「航空機電動化」で脱炭素化を進める【SDGsに貢献する仕事】

2026年08月26日

 SDGs(持続可能な開発目標)関連の業務に携わっている若手・中堅社員に直撃インタビューする「SDGsに貢献する仕事」。第37回は、航空・宇宙・防衛、エネルギー、社会インフラなどの分野で事業を展開するIHIが登場します。同社が航空輸送における脱炭素化に向けて取り組んでいるのは、航空機を制御したり、機内の与圧・空調を担ったりする系統を電動化して消費燃料をおさえる「航空機電動化プロジェクト」。入社から一貫してこのプロジェクトに取り組んできた社員2人に、航空部門の拠点・昭島事業所で話を聞きました。(編集長・福井洋平)

【お話をうかがった方のプロフィル】
菅原寛生(すがわら・ひろたか)さん(写真右) 航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター アシスタントマネージャー
2017年東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了、同年入社、航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター,技術開発本部を経て現職。

天野裕登(あまの・ゆうと)さん(写真左) 航空・宇宙・防衛事業領域技術開発センター
2024年、秋田大学大学院サステナブル工学専攻修了、同年入社し現職。

航空機内部系統を電動化して燃料消費をおさえる

■IHIにおけるサステナビリティの位置付け
 ──菅原さんは、IHIのサステナビリティの位置づけというのはどういうところにあると思われますか?
 菅原寛生さん 我々の業界では、扱う製品は違っても、多くの技術はエネルギーを電力に変える仕組みにつながっているという意味を込めて、「最後はタービンを回して電気をつくる話になる」と言われることがあります。

 今まではそのタービンを回すためのエネルギーは石炭や石油を燃やして得ていればよかったのですが、今は気候変動が激しく、肌で感じるような影響が出てきています。化石燃料に頼らず、どうやって継続的に蒸気でタービンを回し続けられるようになるのか。当然、なるべく資源を使わない、環境を損なわないという技術開発が非常に大事になってきます。それは我々が生き残るために何が何でも開発しなくてはいけない技術、達成しなくてはいけない目標だと考えています。

■航空機電動化プロジェクトについて
 ──そのためのプロジェクトの一つが、航空機電動化なのですね。これはどういったものか、教えていただけますでしょうか。
 菅原 これは、2012年に始まったプロジェクトです。電気で飛ぶ航空機、空飛ぶ電動車のようなものをつくるということではなく、航空機の中身の部分を電動化することが目的です。

 旅客機は相当パワーが強く、飛んでいるときのエンジン出力は新幹線2編成分、スーパーカーだったら40台分ぐらいあるので、それを電気の力だけで飛ばすのは難しいんです。

 一方で機体の中のポンプやアクチュエーター(駆動装置)といったいろいろなシステム、なかでも与圧・空調系統は、電力を消費します。その部分の消費電力を下げることで、燃料消費量を改善しようというのが航空電動化の目的です。航空機は降下しているとき、本当はエネルギーを使わなくてもいいんですが、車のようにアイドリングストップでエンジンを止めると再始動できなくなることがあるため、ある程度動かしています。こういった無駄に使われているエネルギーを改修することで、機体全体の効率を上げ、燃料消費量を減らす技術開発を行っています。

世界中で開発が行われている

(イラストはIHI提供)
■電動化の歴史
 ──電動化のアイデアは、昔からあるのですか?
 菅原 航空機は信頼性が重視され、ある意味「枯れた技術」が使われている分野です。ただ、そこに新しい電動化の技術を入れることで効率を良くできるのではないかというアイデアが2000年代初頭ごろから世界中で出てきました。アメリカでもありますし、ヨーロッパでは「クリーンスカイ」という航空機の環境適合に向けた技術開発プログラムがあり、航空機のシステムを電動化して、効率を上げようという技術開発が行われています。

 2000年以降の航空業界では「ボーイング787」などで、ある程度の電動化は進んでいます。次の機体はさらに電動化が進むと言われています。

 ──電動化を主導するのは航空機メーカーですか。
 菅原 そうとは限りません。私たちのような航空機メーカーのサプライヤーが技術を提案し、メリットがあると判断されたら、共同開発する可能性もあります。弊社での研究開発の立ち上げも2012年の論文投稿から始まっており、航空機メーカーの反応を得たうえでプロジェクトが始まっています。

 私たちの部署はもともとエンジンの制御系を研究開発する部署です。エンジンを制御するためにはバルブ(弁)などを使っていましたが、この時期ちょうど自動車ではハイブリッド車が出はじめた時期で、航空エンジンのバルブを電動モーターに置き換えるメリットを説明することからはじまりました。

 現在のエンジンはエンジンのガスタービンの軸に直接、ギアボックスがついています。それでポンプを回し、燃料をエンジンに供給しています。ただ、飛行機のエンジンの場合、高度が変わると必要な燃料の量が変わるんですね。燃料は燃やすために空気が必要ですが、高度が変わると機体の気圧が変わります。つまり同じ回転数で動いていても、空気を吸い込む量が全く変わってしまう。だから単純に推力を変えることに加え、空気の圧力にも対応しなくてはいけなくて、自動車に比べると制御しなくてはいけない範囲が広いんです。

安全上の影響をどう抑えるかが課題

■電動化のハードル
 ──飛行機は自動車以上に緻密な制御をしているのですね。それを電動化するにはどういうハードルがあるのですか?
 菅原 機械的に制御していたものを電動化することで、どう安全上の影響が出るかが一番の課題になります。

 飛行機の安全性の基準はかなり厳しく、墜落しないように「一系統のエンジンの電気系が完全に壊れてしまったとしても、残りの系統でエンジンを動かせるようにしなさい」「2重化ではなく4重化し、どれかの系統が生き残っていれば機体が生き残るようにしなさい」という規定もあります。

 ──それぐらい安全性を高めているわけですね。
 菅原 それが新しい技術を入れることで、今までは考えなくてよかったリスクが発生します。たとえば、気圧が低くなると放電が起きやすくなったり、絶縁を保つことが難しくなったりします。飛行機は飛んでいる最中は水を外から取ってくるといったことはできないので、火災に対してどう対応するかも非常に大きな課題です。さらに、安全のために系統を多重化するとなると重量が増えてしまいます。電動化をしたうえで「こうすれば安全が保てる」「トータルで考えてメリットがある」と説明する必要がありました。当初、このメリットがどれだけ出るかを算出し、そのあと燃料ポンプ、ハイブリッド推進、機体、空調、油圧の電動化といった研究開発を提案し、進んでいきました。

■電力の供給源
 ──それぞれの系統を動かすために、大きなモーターを入れるのですか?
 菅原 出力は大きくしますが、どう小型化するかが課題です。先ほど言ったように飛行機のエンジン1基でのぞみ2編成分のパワーがあるのですが、それよりずっと軽く小さい。基本的にはその出力重量比、つまり重量当たりどれだけパワーを出せるか、それに合わせて開発しなくてはいけません。小さいけれどパワーが出るようなモーターにしなくてはいけません。

 ──電力はどこから供給されるのですか?
 菅原 基本は発電機を搭載し、そこから電力をもらいます。もしくは機体に多少バッテリーを積んでおいて、バッテリーを推進に使うというよりは予備の電源にするという形が考えられます。車でいえばマイクロハイブリッド、いわゆる軽自動車に入っているような簡易ハイブリッドのイメージです。

 ――「電動化」と聞くと、シンプルにどこかで充電するんじゃないかと思っていました。
 菅原 確かにリチウムイオン電池のようにパワーのある充電池ができましたが、航空用途ではまだまだ力不足です。やはり燃料のもつエネルギーはすごくて、同じ重さの電池の100倍ぐらいあります。単純に電池に置き換えるとそもそも飛ぶことができないものになってしまうでしょう。

ハイブリッド推進の研究

■菅原さんのお仕事
 ──菅原さんは入社したときから、こちらの部署ですか。
菅原 そうですね。2017年入社で、今の部署の前身のチームに入りました。そのあと横浜にある技術開発本部にうつり、またこちらの部署に戻って、ずっと電動化の研究開発をしています。

 ──今はどんなお仕事をしていますか。
 菅原 今はハイブリッド推進のシステム設計をしています。どうやってシステム全体の安全を担保するのか、各コンポーネントで実際にどれくらいの出力が必要なのかを検討しています。また、電動化のメリットを潜在的なお客さまなどに説明もします。

 ──ハイブリッド推進とは何ですか。
 菅原 電力を用いてエンジンをアシストする推進システムのことです。先ほど申し上げたように飛行機が降下しているとき、本当はエネルギーを使わないのですが、安全性の観点からエンジンをある程度回しておかないといけません。そのエネルギーを回収して、機体システムに使うことで全体的な効率を良くするシステムです。

■大学時代の研究
 ──大学でも航空科で研究されていたのですか。
 菅原 私自身は航空学科ですが、今やっている内容は電力工学やシステム工学です。システム工学と航空はすごく関わりが深いので、そこは関連しています。ただ、私は大学ではドローンの研究をしていました。当時はまだGPSで飛ぶぐらいの技術水準で、カメラを乗せて実際に飛ぶ速度や位置を検出するような研究をしていました。たとえば、ドローンでも安全性を保つためにモーターが壊れても飛び続けるにはどうするか、制御面での研究や安全面の検討については、そのころの考え方を活用できている面もあります。

 ──入社されてからいままで、研究テーマは変わってきたんですか。
 菅原 最初は2年ほど電動燃料ポンプの研究をしていました。その後、横浜の研究所に行って電力変換器、モーターを動かすための制御装置を研究しました。これは1メガワット(電子レンジ1000台分相当)ぐらいの電力を使って、モーターを動かすための交流に変換する装置で、けっこう大きな電力を使う制御装置です。横浜から戻ってきてからはハイブリッド推進の研究開発をしています。

大学と共同で研究を進める

■研究の進め方
 ──大きなものだと実験も簡単にできないと思いますが、たとえば燃料ポンプはどのように研究を進めたのですか。
 菅原 最初は小さな解析からはじめて、スケールアップしていきました。どう制御するかからはじめ、どれぐらいのポンプが必要かを考え、そこからいきなり全部のシステムをつくるのではなく、それぞれどういった研究が必要か分割して、小さな研究を立て、開発を進めます。当然、一人で全部回せるわけはないので、モーター、インバーター、場合によっては機械、熱など専門家の方を交えて、我々の目的に合ったものができるかどうかを取りまとめることも必要になってきます。

 ──菅原さんは、小さい研究をするところからスタートしていたのですか。
 菅原 小さい研究を立ち上げるところもやりましたし、小さい研究を取りまとめる立場もしています。

 ──小さい研究ではどういう専門的な研究をしていたのですか。
 菅原 私はどちらかというと制御の人間ですので、具体的にモーターをどう動かすか。安全性を保つため、たとえば片方が止まったとしても運転を継続するにはどういう制御が必要かについて自分で立ち上げ、研究したことがあります。

 まずは解析で試してみて、というところからのスタートです。ただ、実際にやってみて、我々がすぐに実証する環境を用意できるとは限りません。そこで学会で話し、興味を持ってもらった大学の先生方と共同研究を立ち上げ、研究開発を行うこともあります。そのなかの一つが、秋田大学ですね。特に本当に最初の立ち上げのところは、かなり概念的にふわっとしたものが多いので、かなりの割合で大学と最初の研究をさせていただきます。我々は今、「グリーンイノベーション基金」で事業をしており、秋田大学、東京大学、京都大学、大阪産業大学といった大学と共同で動いています。

一品ものの試験装置動くとほっとする

■小型化への流れ
 ──燃料ポンプの装置はどれぐらい大きいのですか。
 菅原 試験装置なので、全部小型化しているわけではありません。汎用品を使って組むので、ポンプそのものはけっこう小さいです。ただ、燃料を供給するためのタンク、冷やすための熱交換器、それを動かすためのインバーター、電源などが入ると、すぐに結構大きなスペースは使ってしまうという感じです。設計オフィスにはなくて、横浜の技術開発本部、秋田大学の新世代モーター試験ラボなどにあります。

 ──燃料ポンプでは明確な成果がありましたか。
 菅原 電動燃料システムについては、「実際にできそうだよね」と。モーターもできそうですし、片方が故障したときも制御を継続できるところもめどがついて、燃料流量が制御できそうだというところまでめどがついています。

 ──「ここをクリアした!」というブレイクスルーはありましたか。
 菅原 電動燃料ポンプのモーターを小型化しないといけないと分かっていましたが、どう小さくすればいいのかは手探りでした。試作品をつくってみると、ぜんぜん思った通りにならず、モノを1個ずつ潰していって初めて、我々が想定しているものができました。けっこう段階を踏んで、小さいブレイクスルーがたくさんあって、初めてつくれました。

 ──いろんな課題をクリアして、だんだん形になってくるのですね。
 菅原 我々は「小型化するにはこうすればいいだろう」と仮説を立てますが、その仮説が正しかったところと、「実はここも考慮すべきだった」というところが実際につくっていくと出てきます。それを潰していって、初めのコンセプトを実現していきました。

 ──小型化する決め手は材料の問題ですか。それとも仕組みの問題ですか。
 菅原 両方あります。航空機を小型化する構造面ではノウハウがあるので、それをモーターに適用できます。ただ、それだけではどうにもならないので、素材面での技術開発も進めています。小型化した際の強度、電気・磁気的に性能がいいものを使うことが課題です。

■「やったぞ」の瞬間
 ──研究していて、「やったぞ」と思う瞬間はどういうときですか。
 菅原 2パターンありますね。1つは実際にその研究をしているときは、試験装置がちゃんと動いて、必要なデータが取れて、取り終わった段階で、それに基づいて議論して、というのが大事なんです。ただ、試験装置はだいたい一品ものです。だから実験を実際にデータが取れる段階まで持っていくのがけっこう大変で、まず装置が動いた、となるとすごくホッとします。

 あとは、装置が動けばデータは集まります。その集まりが良かったときもうれしいですね。

空調の電動化にむけ小型化研究

■天野さんのお仕事
 ──天野さんは2024年入社で、すぐこちらの部署に来られたのですか。
 天野裕登さん そうですね。秋田大から入社してからずっと電動化に携わっています。秋田大では学部3年から修士までIHIと電動化の共同研究をしていて、そのままIHIに入社し、今も引き続き空調の電動化に取り組んでいます。

 ──空調の電動化のため、やはり小型化の研究をされているのでしょうか。
 天野 もともと航空機の空調はエンジンによって圧縮された空気の一部をみなさんの客室に向けて、常温、常圧にして送り込んでいます。それがボーイング787ではエンジンから空気を取ってくるのではなく、電動のコンプレッサー(圧縮機)を用いて外の空気を取り込んでくるという電動空調システムに切り替わりました。我々はボーイング787のようなシステムを維持しつつ、さらに我々の技術を上乗せして、電動コンプレッサーにかかる出力をどんどん下げていこうとしています。そのために、先ほどお話しした小型化を研究開発しています。

 ──少ない電力で多くの空気を圧縮できるようにするということですね。
 菅原 ボーイング787はかなり機体が大きいので、2008年当時でも電動空調を入れるスペースがありました。我々はもう少し小型の機体にシステムを入れようとしているので、小型軽量化という技術的なステップアップが必要です。

 また、ボーイング787は長距離を飛びますが、たとえばLCCのような小さな機体で短距離を飛ぶような機体にはどのようなシステムがいいかを検討しています。

(後編はこちらから

(写真・山本友来)

SDGsでメッセージ!

就活生のみなさん、こんにちは。私もほぼ10年前に就活をしたとき、非常に悩んでいろいろ調べました。でも、そのおかげで納得できる就職先を見つけることができたと思っています。みなさんもぜひ、いろいろ調べて考えてみてください。(菅原さん)

学生のみなさん、こんにちは。IHIは1853年に創業した大変歴史のある伝統的な企業です。この長い歴史の中でIHIが培ってきた技術というのは、日本国内だけではなく全世界に浸透しております。この長い歴史で培ってきた技術だけではなく、最新の技術動向にもIHIは関心を向けて挑戦をし続けております。
また、長い歴史のある伝統的な企業と聞くと、かっちりしたスーツで仕事をするとみなさんは想像すると思いますが、実際、私などはTシャツなどの私服を着て働いております。IHIは大いに働きやすいところです。学生のみなさんにはIHIに関心を持っていただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。(天野さん)

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