日本の自動車産業は世界で戦う力のある製造業で、「ものづくり日本」の最後の砦などともいわれます。ただ、自動車はガソリンエンジンから電気や水素で動くクルマへ、人間の運転から無人運転のクルマへ、という大変革期のただなかにあります。この変革のスピードを正確に読み切らないと、変革対応を先走りすぎて業績の悪化を招いたり、逆に乗り遅れて競争から脱落したりするという経営判断が難しい時代になっています。
これは世界的にもある流れで、ガソリンエンジンで世界に君臨したメーカーが右往左往しているうちに、政府が電気自動車(EV)に力を入れた中国がEVでは世界をけん引する地位を獲得しています。日本メーカーはガソリンと電気を組み合わせて走るハイブリッド車(HV)に強みを持っていますが、これはあくまで過渡期のクルマとみられており、EVや水素自動車の時代になれば出遅れる可能性があります。「自動車はどのくらいのスピードでどう変わっていくのか」という読みが、各メーカーの今後の盛衰を決めることになりそうです。
(写真・横浜市の大黒ふ頭に並べられた輸出用の自動車=2025年4月8日/写真はすべて朝日新聞社)
自動車製造は日本の基幹産業
日本の自動車メーカーの団体である日本自動車工業会に加入しているメーカーは14社あります。この14社が日本の完成車メーカーのほぼすべてと言えます。このうち乗用車を中心とするメーカーはトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、スズキ、マツダ、スバル、三菱自動車、ダイハツ工業の8社、トラック・バスなどを中心とするメーカーはいすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの4社、二輪車を中心とするメーカーはカワサキモータース、ヤマハ発動機の2社です。日本の2024年の自動車製造品出荷額は約73兆円で日本の全製造業の19%を占め、自動車関連産業に従事する人は557万人に上ります。自動車製造業は、日本の基幹産業と言えます。
曲折の末、ホンダと日産は共同開発へ
21世紀に入り、地球環境問題への対策が大きな課題となっています。ガソリンを燃やして走るガソリンエンジン車は地球温暖化の主因とされる二酸化炭素(CO₂)を排出するため、クルマのEV化が迫られています。このEV化をめぐって、メーカーは難しい経営判断を迫られています。ホンダは2021年に2040年までに新車をすべてEVや水素を燃料とする燃料電池車(FCV)にする」という「脱エンジン」宣言をし、あわせて自動運転にも力を入れるとしました。この方針のもと開発面で日産自動車と提携したり、ソニーと共同して自動運転技術を磨こうとしたりしてきましたが、EV化や自動運転の実現が予想したより遅くなりそうだとして日産やソニーとの提携は一度ストップしました。ところが8月末、ホンダは再び日産自動車と次世代車の基礎技術を共同開発すると発表したのです。業界トップのトヨタ自動車に対抗するためには、2,3位が組むしかないと考えたようです。
(写真・ホンダの三部敏宏社長(左)と日産自動車のイバン・エスピノーサ社長)
トヨタはハイブリッド技術生かして対応
そのトヨタ自動車は、20世紀終盤に世界で初めて実用化させたハイブリッド車の優位性を生かし、EV化やFCV化に一気に舵をきらない戦略をとりました。全方位の次世代車研究はおこたらず、そちらへの流れが高まれば対応するという、巨大企業ならではの対応をしています。世界でガソリン価格が上がっている中、燃費のいいハイブリッド車は好調に売れていて、そのスタンスは先行き不透明な時代の中ではうまくいっています。現時点での2027年3月期の決算予想では売上高は54兆円と増収見込み、純利益は3兆2500億円と減益を見込んでいます。世界が一気にEVやFCVに動き出した時にトヨタがどれくらい素早くついていけるかは不透明です。
EVでは中国メーカーの強さが目立つ
現在、世界がEVで脅威を感じているのは中国メーカーの躍進です。2025年のEV販売は中国市場で857万台と見込まれています。これは世界の6割を占め、ヨーロッパの約3倍、日本の100倍超になります。中国では中国政府がEV生産の旗を振ったことにより、圧倒的なEV大国になっているのです。最大手のメーカーはBYD(比亜迪)です。もともとは電池メーカーだったのですが、電気自動車に進出しました。2025年のBYDの新エネルギー車の世界新車販売台数は約460万台で、純電気自動車ではそれまで世界一だったアメリカのテスラを抜きました。BYDは日本にも進出し、7月には新型軽EVを発売しています。中国ではBYDに続く新興メーカーも育っていて、性能面からも価格面からもほかの国のメーカーは対抗できなくなりつつあります。世界の市場の中でEV比率が比較的高いヨーロッパでは中国のEV車の進出が目立ち、すでに日本車全体の販売台数を上回る勢いになっています。脅威を感じたEUは中国産EVに対して高い関税をかけ、販売の抑制をはかっています。
(写真・BYDのEVの軽乗用車「ラッコ」=2026年7月28日、東京都港区)
スズキはインドでトップシェア
日本の自動車メーカーにはそれぞれ特徴があります。まず、乗用車、トラック・バス、二輪車という製品の違いがあります。乗用車メーカーでも、スズキとダイハツは軽自動車が主力のメーカーです。ホンダは二輪車でも大きなシェアを持っていますし、スバルは4輪駆動車や安全性能を得意としています。スズキは早い時期にインドに進出し、インドではトップシェアを持つ会社です。ダイハツはトヨタの子会社になっています。三菱自動車は社名で示すように三菱グループの会社であり、グループからの支援があります。地域的にはトヨタ自動車は愛知県に、スズキは静岡県に、マツダは広島県に、日産自動車は神奈川県に本社があります。それぞれの本社のある県には自社工場もあり、地域的な強みを持っています。
(写真・インドの首都ニューデリーで開かれた国際自動車ショーで、お披露目されたスズキの電気自動車「eVITARA」=2025年1月17日)
海外に赴任する可能性がある業界
自動車業界は世界を相手にする業界です。日本メーカーのクルマは世界中で売れていて、アメリカを中心に世界各地に生産拠点も持っています。そのため、海外に赴任する可能性がかなりある業界といえます。ある程度の英語力は必要になるでしょう。また、変化の最中の業界なので、固定観念にとらわれない頭の柔らかさも必要です。メーカー同士の合従連衡はまだあるとみていたほうがよさそうで、そうしたことに驚いてはいられません。さらに付け加えると、この業界はクルマが好きな人が向いていると思います。メーカーの場合、自分がつくったり売ったりする商品を好きなほうが、仕事を面白がることができるでしょう。
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