JR東海が建設を進めているリニア中央新幹線が、ひとつの山を越えました。環境問題により着工できていなかった静岡工区について、静岡県の鈴木康友知事が着工を認める方針を表明したのです。JR東海にとっては朗報ですが、これでリニア中央新幹線が順調に開業までこぎつけられるかどうかはわかりません。リニア建設工事については、ほかにも様々なトラブルが発生しているためです。
東京・品川と名古屋間の開業時期について、当初は2027年としていましたが、今は未定で、2036年以降になることが確実です。また、総工事費は約7兆円から約11兆円に膨らむ見通しを公表していますが、さらに増える可能性も十分にあります。JR東海は基本的に自前で建設することにしていますが、工事費の負担にどこまで耐えられるのか不安になります。鉄道会社は生活インフラであるため、経営は比較的安定しています。ただ、それだけでは発展はないので、新しい事業への挑戦も欠かせません。リニア中央新幹線建設ほどの大事業への挑戦はめったにあることではないでしょうが、鉄道事業の進化や新事業への進出はどの会社にとっても必要になっています。鉄道業界の課題は、安定と挑戦のバランスをとりながら成長していくことになります。
(写真・リニアの試験車両=2022年、山梨県都留市/写真はすべて朝日新聞社)
日本全国に鉄道事業者は216
国土交通省によると、日本の鉄道会社(事業者)は216あり(路面電車などの軌道事業者含む)、そのうち旧国鉄が分割民営化されたJRは7社あります。JRのうち株式市場に上場しているのはJR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州の4社で、JR北海道、JR四国、JR貨物の3社は独立して採算がとれないため、上場していません。大手民鉄(私鉄)とされているのは東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄、京王電鉄、小田急電鉄、東急電鉄、京浜急行電鉄、東京地下鉄(東京メトロ)、相模鉄道、名古屋鉄道、近畿日本鉄道、南海電気鉄道、京阪電気鉄道、阪急電鉄、阪神電気鉄道、西日本鉄道の16社です。ほかに準大手が3社、公営が11、中小民鉄が138社などとなっています。中小民鉄の多くは地方の交通を担う存在です。
(写真・JR東日本の東京総合車両センターに停車する山手線の車両=2025年9月29日、東京都品川区)
ドル箱の東海道新幹線を持つJR東海がもうけ頭
鉄道利用者は2020~2021年のコロナ禍で大きく減少しましたが、その後回復に向かっています。人口減少やテレワークの普及により、いまはまだ2019年度の鉄道輸送人員を下回っていますが、外国人観光客の増加というプラス要因もあります。売上高はJR東日本、JR東海、JR西日本が上位3社ですが、利益をみるとドル箱の東海道新幹線を持つJR東海が3社の中でもっとも大きくなっています。私鉄で売上高が大きいのは、近鉄グループホールディングス、阪急阪神ホールディングス、東急グループなどです。営業範囲の広いJR3社や、関西や首都圏で人口密集地の路線を持つ会社の売り上げが大きい結果になっています。また、JR九州や東急グループのようにホテル事業や不動産開発事業などの鉄道以外の事業のウェートが大きい会社も売り上げを伸ばしています。
今も続く運賃の値上げや座席の有料化
コロナ禍以降、乗客の落ち込みをカバーするためや安全対策やバリアフリー化の費用を捻出するための運賃値上げがおこなわれてきました。最近はそれに人件費や物価の上昇が加わり、運賃値上げの動きは続いています。JR東日本は1987年の会社設立後初めての値上げを2026年3月に実施し、改定率は平均7.1%でした。西武鉄道も同じ3月に平均10.7%の値上げをしました。また、小田急電鉄は2028年の値上げを、東京メトロもやはり2028年3月以降に値上げを検討していることをそれぞれ明らかにしました。ほかにも京阪電鉄、阪急電鉄、近鉄、阪神などの関西私鉄が、有料の座席指定車両をつなげた一般列車を増やし、売上アップを期待しています。
(写真・近鉄の有料座席指定サービス「すわれ~る」の車両=2026年6月1日、大阪阿部野橋駅)
東武は顔パスで通り抜けられる改札
社会のデジタル化に伴う改札の改良も進んでいます。東武鉄道は改札を「顔パス」で通り抜けられる新しい改札機を5月に導入しました。カメラによる顔認証で、ふつうの歩くスピードなら立ち止まる必要もありません。JR東日本は2027年春にQRコードを使った乗車券を導入します。今ある磁気切符は改札機に通すことが必要ですが、QR乗車券は投入口近くのリーダーにかざす方式です。磁気切符は改札機に切符が詰まるトラブルが絶えないほか、リサイクルには使用済み切符から磁気層を分離することが必要でした。ほかの鉄道各社も、QR乗車券に切り替える動きを見せています。また、阪急電鉄は交通系ICカードで駅の改札内に入った場合、20分以内なら再びタッチするだけで改札の外に無料で出られるサービスを始めました。
(写真・いまの近距離切符(上)とQR乗車券の大きさを比べられるパネル。QR乗車券は約3倍の大きさになる=2026年6月12日、東京都渋谷区のJR東日本本社)
鉄道を軸にした広いビジネスととらえる
鉄道会社は鉄道を軸に事業範囲を広げてきた歴史があります。今、参入しようとしている新しい事業に銀行サービスがあります。JR西日本はりそなホールディングス傘下の関西みらい銀行の株式を約20%取得する計画を進めています。銀行代理業に参入し、グループの顧客に向けた独自の預金やローンなどのサービスを展開する思惑があるとみられています。近鉄グループは7月、三菱UFJ銀行と業務提携を結び、2027年3月に個人向け銀行サービスを始めると発表しました。銀行サービスへの参入の先鞭をつけたのはJR東日本で、2024年春に楽天銀行と連携して「JREバンク」という銀行サービスを始めました。鉄道会社の仕事に金融業が加わってくる動きです。鉄道会社への就職を志望する人の中には、鉄道が好きだという人が多いと思います。ただ、鉄道会社の仕事は鉄道以外にも広がっています。鉄道が好きだというのはひとつの条件ではありますが、それだけで志望すると求められる仕事とのミスマッチも考えられます。鉄道業界は鉄道を軸にしたビジネスをするところと広くとらえたほうがいいと思います。
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