日本の航空業界はANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)の2強体制です。両社はコロナ禍を抜けて以降、追い風に乗って好調な業績を上げてきました。しかし、2026年2月末にアメリカとイスラエルがイランを攻撃したことにより中東情勢が不安定になり、ジェット燃料価格の高騰や不足により厳しさが見えています。実際、4月の訪日外国人客数(インバウンド)は3カ月ぶりに前年同月比で減少に転じ、日本人の出国者数の回復も鈍りました。
中東情勢がこれからどうなるかによって見通しは変わりますが、緊迫した情勢が長引けば両社の業績には向かい風となるとみられます。世界の航空需要は長期的に見れば、拡大していくとみられていますが、短期的には国際情勢や航空事故などの影響により縮小することがあります。これまでも1985年の日航ジャンボ機の墜落事故、2001年のアメリカ同時多発テロ、2008年のリーマンショック、2020~21年のコロナ禍などにより業績が悪化しました。業界ではこうした現象をイベントリスクと呼んでいますが、今の中東情勢がどれくらいのイベントリスクになるのかを業界は警戒しています。長期間続く大きなリスクになるのなら、就職戦線にも影響します。ただ今の段階では、そこまでのリスクにはなっていません。
(写真・羽田空港の格納庫前に並ぶ日本航空機と全日空機=2020年12月/写真はすべて朝日新聞社)
スカイマークは独立系の地位を維持
国土交通省の認可を受けて定期便を運航している国内航空会社は全部で25、日本に発着する便を持っている外国航空会社は55あります。国内航空会社はANAHDとJALの2社が国内線も国際線も持ち、規模が抜きんでて大きく2強を形成しています。そのほか特定の地域の路線を持っている地域航空会社、格安料金を売りにしている格安航空会社(LCC)、貨物専用の航空会社などがありますが、そうした会社の多くもANAHDかJALのグループに入って支援を受けています。そうした中、スカイマークはどこのグループにも属さない独立系航空会社として1996年に創立され、2強とLCCとの中間に位置する会社として独自の地位を維持しています。
(写真・神戸空港を離着陸するスカイマークの航空機=2026年3月29日)
国内線でも燃油サーチャージを導入か
世界の航空会社が今、直面しているのは中東情勢の緊迫化によるジェット燃料の不足や高騰です。3月上旬からペルシャ湾の出口にあたるホルムズ海峡がイランとアメリカによって封鎖されているため、原油の供給量が大幅に減っているのです。イギリスのデータ分析会社によると、世界の航空会社の2026年6~9月の減便数は7万2218便、座席数にすると707万4016席が減る見込みだそうです。たとえば、ドイツの航空大手のルフトハンザ航空は10月までに合計2万便を運休すると4月21日に発表しました。理由は燃料費の高騰で、2万便の運休で約4万トンのジェット燃料を削減できるとしています。日本の航空会社は燃油特別付加価値運賃(燃油サーチャージ)を設けていて、燃料費が上がればサーチャージを上げてまかなうことにしています。ANAHDとJALは国際線では5月発券分から大幅な引き上げをしています。またこれまでサーチャージを導入していなかった国内線でもJALは2027年4月から導入する計画を発表し、ANAHDも2027年度からの導入を検討しているとしています。燃焼費の高騰分が利用者の負担に上乗せされるわけで、利用者数の減少につながる可能性があります。
定時運航が守られないことが大きな課題に
日本の航空会社が抱える問題はもうひとつあります。定時運航が守られなくなっていることです。国土交通省は予定時刻から15分以内に出発・到着した便の割合を「定時運航率」としてまとめています。それによると2000~2010年度は90%前後で推移していましたが、2024年度は84.33%で過去最低になりました。確かに体験的にも、遅延が増えたと感じます。
理由は3つほど考えられます。ひとつはコロナ禍後の客層の変化です。出張・業務の客が減り、観光・レクリエーションの客が占める割合が増えました。レジャー客は荷物が多かったり旅慣れていなかったりして乗り降りに時間がかかります。2つ目は、機体が小型化する傾向にあることです。小型化することによって便数が増えて空港が混雑して、離発着に時間がかかります。3つめは、空港の地上で航空機の運航を支援するグランドハンドリング(グラハン)の不足です。日本全体の人手不足に加え、コロナ禍により転職したグラハンが戻っておらず、グラハン不足が続いているのです。定時運航率の向上は大きな課題になっています。
(写真・羽田空港の保安検査場近くでは、機内に持ち込める手荷物の数について注意が呼びかけられていた=2026年4月28日)
空飛ぶクルマに協力する日も
将来の空の交通として運輸業界全体が関心を持っているのは、「空飛ぶクルマ」です。大阪・関西万博で会場の上を飛んだことで実用化に一歩近づいたというイメージがもたれ、関西経済連合会は「2035年に関西空港や神戸空港から近畿圏の観光地まで100機ほどの空飛ぶクルマが運行する」という将来像を描いています。まだ安全性や採算性に課題があり、時間はかかると思われますが、航空業界も本気で実現に向けて協力する日が来る可能性が大きくなっています。
(写真・実物大の「空飛ぶクルマ」の模型=2026年3月21日、東京都千代田区)
イベントリスクをどう乗り越えたかを勉強しよう
航空業界はその将来性や華やかなイメージなどから、就職人気の高い業界です。ANAHDやJALのような大企業では、給与や福利厚生などの待遇面も比較的手厚くなっています。ただ、10年に1度くらいの割合で大きなイベントリスクに見舞われる業界でもあります。事故を起こさないことなどは自社の努力でできますが、戦争や感染症などは自社の努力ではどうしようもありません。志望する人は、会社や業界や社員がそうしたリスクに見舞われた時にどのように対応して乗り越えたかをしっかり勉強することが必要です。そうした危機があることを事前に知っておくことで、就職してリスクに見舞われた時の身の処し方を間違わないですむと思います。
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