業界研究ニュース 略歴

2026年05月07日

中東情勢を気にしながらも先行きに自信を持つ商社業界【業界研究ニュース】

商社

 総合商社の2026年3月期決算の発表がありました。過去最高の利益を計上するところが相次ぎ、中でも伊藤忠商事は2年連続で最高益となり、好調さが目立ちます。ただ、昨今の中東情勢は不安要因となっています。目先は原油などの資源価格が上がるため、資源の比重の大きい商社にとっては売り上げにも利益にもプラスに働きます。しかしもう少し長い目で見ると、資源高が世界経済を冷やす可能性があり、マイナスに働く可能性があるのです。

 当面は中東情勢を気にしながらの経営になりますが、総合商社の強みは世界中のあらゆるビジネスにかかわることができることであるため、分野ごとや地域ごとのプラスマイナスは全体としては相殺される傾向にあります。そうしたことから中東情勢の先行き不安があっても、2027年3月期も過去最高の利益と予想する会社が多く、総合商社の経営者は先行きに自信を持っているようです。人材採用には積極的で、給与の高さや柔軟な働き方をアピールして、優秀な人材の確保に力を入れている業界です。
(写真・伊藤忠商事の本社=東京都港区/写真はすべて朝日新聞社)

総合商社と専門商社

 海外との取引がある商社の業界団体「日本貿易会」の正会員会社は42社あります。このうち取り扱う商品や地域が幅広く規模の大きい商社は総合商社と呼ばれ、一般的には伊藤忠商事、三井物産三菱商事住友商事丸紅豊田通商双日の7社とされています。中でも豊田通商と双日を除く5社が、一般的に大手5社と呼ばれます。一方、取り扱う商品や地域が限られる商社は専門商社と呼ばれます。医薬品のメディパルホールディングス、鉄鋼のメタルワン阪和興業、産業ガスの岩谷産業、化学の長瀬産業などがあります。総合商社に比べて規模は小さくなりますが、特定の分野に強みを持っています。
(写真・岩谷産業が運営する水素ステーション=2024年3月1日、東京都大田区)

財閥系にはグループ会社のメリット

 総合商社は財閥系と非財閥系に分けられます。三菱商事、三井物産、住友商事は社名のとおり、戦前の財閥である三菱、三井、住友の流れを汲んでいます。こうした財閥の流れをくむ会社は各業界にあり、同じ財閥系の会社はグループをつくっています。財閥系商社は、こうしたグループ会社の貿易の仕事に優先的にかかわることができるメリットがあります。伊藤忠商事と丸紅は明治初期に近江商人の伊藤忠兵衛が創業した会社がもとになっており、大阪を拠点にする繊維商社から発展してきました。豊田通商はトヨタグループの総合商社でトヨタ自動車の貿易や金融から始まり、取り扱う分野を広げてきた会社です。双日は戦前の有力商社だった鈴木商店の流れを汲む日商岩井と繊維商社から発展したニチメンが合併してできた会社です。

三菱と三井は資源に強く、伊藤忠は非資源に強い

 総合商社にはそれぞれ特徴があります。三菱商事と三井物産は、資源分野に強みを持っています。三菱商事は中でも液化天然ガス(LNG)に強く、1969年にブルネイでLNG採掘事業に参画したのをはじめ、最近でも2025年には参画しているカナダのLNGプロジェクトである「LNGカナダ」が本格稼働し、カナダ産LNGが日本に初めて輸入されました。また、2026年1月にはアメリカでシェールガスを開発する会社を8200億円で買収し、日本などへの輸出を検討しています。三井物産は、オーストラリアの鉄鉱石プロジェクトなど金属資源の開発や貿易に強みがあります。伊藤忠商事と丸紅は非資源分野に強く、伊藤忠は生活物資の分野や国内でのビジネスなどに、丸紅も特に食料や電力事業を得意にしています。住友商事は商社の中では堅実な社風とされ、メディア事業や不動産事業に強みを持っています。豊田通商は自動車貿易のほか、地域としてはアフリカに強みを持っています。双日はアジアや新興国に強く、今はレアアースの確保に力を入れています。

伊藤忠はセブン銀行に出資

 国内での事業では、商社同士の競争が激しくなっています。電力確保の切り札とされる洋上風力発電では、千葉県と秋田県沖の海域で三菱商事が他社より大幅に安い金額で落札していましたが、2025年8月に「採算がとれない」として撤退を発表しました。三菱商事は大きな傷を負ったことになりますが、商社同士の競争の激しさの一端がうかがえる出来事でした。コンビニエンスストア経営も商社同士の競争になっています。伊藤忠商事はファミリーマートを完全子会社にしており、三菱商事はKDDIと50%ずつ出資してローソンを子会社に、三井物産はセブンイレブンと提携関係にあります。そうした中、伊藤忠商事はセブン銀行に出資してファミリーマートのATMをセブン銀行のATMに切り替えていくことにしました。セブン銀行がセブン&アイ・ホールディングスの連結子会社から外れたことで、伊藤忠商事がセブン銀行に近づいた形です。今後、商社が金融分野に出ていく可能性もあります。
(写真・セブン銀行のロゴ=2025年10月15日)

知力、体力、コミュニケーション能力

 総合商社は給料がいいけれども、海外勤務が多かったり激務だったりするというイメージがあると思います。ただ、人材確保の目的もあり最近では社員の生活に配慮する動きがあります。三井物産では社員がグローバル(勤務地限定なし)かリージョナル(勤務地限定あり)を3年に一回選ぶ制度を始めています。海外勤務を避けたい場合はリージョナルを選べば国内勤務となります。伊藤忠商事は以前から朝方勤務を推奨していたり会食は夜10時までとしていたりしますが、最近は全社員対象の在宅勤務制度や男性社員育児休業の取得必須化などもおこなっています。また、安心して海外駐在ができるよう、駐在期間中の卵子凍結保管費用補助や海外駐在員の不妊治療費用補助をおこなっています。

 こうした流れはあるものの、商社で働くということはビジネスの最前線に立つことですから、知力と体力を使う厳しい仕事であることは変わらないでしょう。加えて語学力を含むコミュニケーション能力もある程度必要になります。知力、体力、コミュニケーション能力に自信のある人は挑戦してみる価値のある業界だと思います。
(画像はiStock)

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