アメリカとイランの戦争により、中東からの石油が入りにくくなっています。2週間の停戦に両国が合意したものの今後は予断を許さず、石油を中東に依存している日本では石油危機が起きるのではないかという心配が生まれています。石油が不足して困るものとして真っ先に頭に浮かぶのは、燃料です。自動車も飛行機も船も石油からできるガソリン、軽油、ジェット燃料、重油などで動いています。不足すると、動くことができなくなったり運賃が上がったりして国民生活に大きな影響が出ることは間違いありません。
ただ、ほかにも大きな影響が出るものがあります。プラスチック、フィルム、ペットボトル、合成ゴム、衣料品、洗剤、おむつ、医療用品など石油からつくられる様々な製品です。わたしたちの生活になくてはならない製品ですが、これらも不足したり値段が高くなったりする恐れがあるのです。こうした製品のもとになっている、化学品をつくっているのが石油化学業界です。消費者と直接結びつかない中間財としての化学品が多いため、地味な印象をもたれる業界ですが、日本の製造業を支えている大きな規模の業界です。この機会にどんな業界なのかを知り、研究してみてはどうでしょうか。
(写真・四日市港ポートビルの展望展示室から臨む昼間のコンビナート=2024年6月11日/写真、図版はすべて朝日新聞社)
ナフサからエチレンになり製品に
中東で採掘された原油はタンカーで日本に運ばれ、日本の海沿いにある石油精製施設で精製されます。原油は重さに応じて分解され、おおむね比重が軽い順にナフサ・ガソリン、灯油・ジェット燃料、軽油、重油などになります。ナフサは粗製ガソリンともよばれ、石油製品の原料として使われています。国内で原油から精製されるものとナフサとして輸入されるものがありますが、輸入ナフサは中東産のものが多く、こちらも入ってこなくなるのではないかと心配されます。
精製されたり輸入されたりしたナフサはさらに化学分解され、エチレン、プロピレンなどの基礎化学品になります。それをさらに加工することでプラスチックや合成ゴムなどが作られ、さらに自動車部品や日用品などになります。石油を精製して基礎化学品を作るところを川上と呼び、最終製品に近い工程を川下と呼びます。川上に近いほど企業規模が大きく、川下は中小企業が多くなります。
三菱ケミカルなどが川上の大企業
石油化学の業界団体である石油化学工業協会によると、石油化学製品と関連製品の合計の出荷額は約32兆円、従事している従業員数は約71万人に上ります。川上の大企業には、三菱ケミカルグループ、旭化成、住友化学、三井化学、レゾナックなどがあります。2025年3月期の売上高でみると、三菱ケミカルグループは4兆円、旭化成は3兆円、住友化学は2兆円、三井化学やレゾナックは1兆円をそれぞれ超える大企業です。石油化学事業だけでなく、医薬品、住宅、半導体関係などの幅広い分野にも進出しています。三菱ケミカルグループや三井化学などは海外売上高比率が50%を超え、海外事業も大きなウェートを占めているという特徴があります。
(写真・三菱ケミカルグループの看板)
エチレン生産は再編が進む
石油化学事業をおこなう工場群であるコンビナートは高度経済成長時代の象徴的存在でした。石油からできる製品が人々の暮らしに浸透していった時代でした。ただ、21世紀になって人口減少時代に入り、海外との競争も激しくなったことから石油化学事業は縮小を余儀なくされます。主要な原料であるエチレンの生産は2007年をピークに減り始め、今ではピーク時から4割近く減っています。こうしたことから、石油化学コンビナートに再編の波が押し寄せています。
三菱ケミカルと旭化成は2026年1月、岡山県倉敷市の水島コンビナートで共同運営しているエチレン生産設備を2030年度めどに止めると発表しました。2025年12月には三井化学と出光興産が、2027年に千葉県市原市のエチレン生産設備を集約し、出光側の設備を止めると発表しました。コスモエネルギーホールディングス傘下の丸善石油化学も2026年度に自社の1基を停止するとしています。こうした動きにより、エチレンの生産設備は最終的に2~3のグループに再編されるとみられています。
今の環境問題はマイクロプラスチック
環境問題対策も、業界の課題です。高度経済成長時代、化学業界は公害問題を引き起こしています。熊本県の水俣湾の水銀汚染による水俣病は、化学会社であるチッソが有機水銀を垂れ流したことで引き起こされました。また、三重県四日市市を中心として起こった四日市ぜんそくは石油コンビナートからでる亜硫酸ガスが原因でした。こうした経験から、化学業界は環境問題には敏感です。今問題になっているのは、地球環境問題としてのマイクロプラスチックです。分解されないプラスチックが小さな破片になって海に流れ込み、魚などの海洋生物がそれを取り込むことで海の生態系に大きな影響を与えつつあり、プラスチック製品を減らす取り組みや生分解性プラスチックなどの代替製品の開発が求められています。
身近に感じられる製品や仕事も
石油化学業界といっても、大企業から中小企業までさまざまです。また、石油由来製品といっても多くの製品があるため、何を得意としているかで業態や働き方も変わります。ただ、川上の大企業に限れば、財閥系の会社や伝統のある大企業ばかりで、安定性があります。また、石油化学だけでは縮小傾向にあるため、様々な分野に領域を広げています。こうした会社は研究力や開発力があるだけに、競争力のある事業に育て上げているケースが見られます。地味でとっつきの悪い業界というイメージを持つ人もいるでしょうが、ホームページを見ると身近に感じられる製品や仕事があると思います。興味のある人はまず調べてみましょう。
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