金融業界は金利が上がると業績がよくなる業態が多いのですが、生命保険業界もそのひとつです。日本銀行は物価上昇を抑えるため、段階的な政策金利の引き上げをおこなっていて、市中の金利も上昇傾向にあります。生保会社にとっては、契約者に約束する利回り(予定利率)の引き上げにつながり、終身保険や養老保険といった貯蓄性保険がよく売れるようになります。
現在、財界の総本山である経団連の会長は、日本生命保険の筒井義信会長が務めています。生保業界からの経団連会長は初めて、生保業界が経済界で大きな位置を占めていることの表れです。ただ、業界は盤石というわけではありません。たとえば、顧客のお金をだましとったり顧客に借りた金を返さなかったりする営業社員の不祥事がいくつも明らかになっています。また、出向先の銀行の情報を無断で持ち出すという不祥事もありましたが、これは会社ぐるみとみられても仕方のない業界全体の問題でした。そのほか、非保険分野への進出、海外展開、デジタル化といった課題も抱え、足下の業績好調に満足していられない状況があります。
(写真はiStock)
営業スタイルは会社によって様々
金融庁が日本での営業を認めるという免許を与えている生命保険会社は41社あり、大きく日系と外資系に分けることができます。約15社ある外資系の会社は、医療保険に強かったりネットなどによる通信販売に特化したりしている会社が多いのが特徴です。日系の会社でも、いわゆる「生保レディー」とよばれる女性の営業職員を多く抱え、対面で保険商品を販売するスタイルをとっている大手会社がある一方、保険商品の開発に特化して銀行や保険ショップなどに販売を委託している会社やネットや電話での申し込みを主体にしている会社もあります。商品や営業スタイルは、会社によって様々です。
(写真・経団連会長の筒井義信・日本生命保険会長=2025年1月7日/朝日新聞社)
日生、第一、明治安田、住友が大手4社
日本の生命保険業界には大手4社、大手8社といったくくりがあります。大手4社は、保険料等収入(売上高)の多い順(2024年度)に日本生命、第一生命ホールディングス(HD)、明治安田生命、住友生命を指します。日本生命は1889年に大阪で創業した会社で、長く日本の生命保険業界をリードしてきました。第一生命HDは1902年に東京で創業した会社で、皇居の堀端にある本社ビルには戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が置かれていました。明治安田生命は1881年に日本最初の近代的保険会社として誕生した明治生命と1894年に設立された安田財閥系の安田生命が2004年に合併してできた会社です。住友生命は1907年の創業で、住友グループの会社として存続しています。このほか大手8社と呼ぶ場合は、 T&Dホールディングス(HD)、ソニー生命、富国生命、朝日生命の4社が加わります。
(写真・第一生命ホールディングスの本社ビル=東京都千代田区/朝日新聞社)
契約者が社員の相互会社が多い
生命保険会社の形態には、相互会社と株式会社の2種類があります。相互会社は生保だけに認められている形態で、契約者が社員となり、株主はいません。株式会社の株主総会にあたる決定機関は社員総会(総代会)になります。生命保険会社はもともと遺族の生活を守るための相互扶助組織として生まれたため、その精神を受け継いで今も契約者が会社の方針を決めるという形をとっています。ただ、それは形だけのものになっていることや相互会社では株式市場から資金調達ができないことなどから、株式会社に転換する会社も出ています。第一生命は2010年に株式会社に移行し、T&Dホールディングスも生保3社を傘下に持つ株式会社になっています。
次々に明らかになる営業職員らの不正
生保業界では相次ぐ不祥事が明らかになっています。2025年には、生命保険会社の社員らが出向先の金融機関から無断で情報を持ち出していた問題が明らかになりました。大手4社を含め多くの生保会社がおこなっており、大手4社は今春までに出向者を引き上げる方針を示しています。
より悪質性の高い事案も出ています。外資系のプルデンシャル生命保険の社員らが顧客から約31億円をだまし取るなどしていた問題です。107人の社員・元社員が1991~2025年までの間に、503人の顧客に架空の投資話で金銭を詐取したり、お金を借りて返さなかったりしていたことが明らかになりました。ほかにも明治安田生命で元営業職員が架空の投資話を持ち掛けて総額2億円をだまし取っていたり、住友生命の元職員が顧客26人から2240万円をだまし取っていたり、ソニー生命の元社員が顧客ら103人から借金をして約12億円が未返済だったりする不祥事が2025年以降次々に明らかになっています。背景には、営業職員への過剰なノルマや監督不行き届きがあるとみられています。
(写真・頭を下げて謝罪するプルデンシャル生命の間原寛社長(中央)ら=2026年1月23日/朝日新聞社)
第一生命は4月から第一ライフグループに
環境の変化に対応するために、企業イメージの変革を狙っている会社もあります。第一生命HDは2026年4月から社名を「第一ライフグループ」に変えます。2024年に企業の福利厚生を代行するベネフィット・ワンを買収するなど、保険以外の事業の強化を進めているためです。第一生命は業績がそれほど悪くないにもかかわらず2025年に1000人の希望退職を募り、応募者は想定を超える1830人に上りました。保険以外の事業強化のほか、海外事業の強化やデジタル化の推進にも力を入れています。それに伴い人事制度も仕事内容を明確にして専門人材をつけるというジョブ型雇用にシフトしています。こうした変化に伴い、退職希望者が増えたと考えられます。
古い体質からの改革の意欲もポイント
生命保険業界の主力は死亡保険が中心の生命保険ではなく、一時払いタイプの貯蓄性保険に移っています。リスクはあるがリターンも大きい投資信託に似た商品です。金利が上がれば、こうした商品の売れ行きは良くなります。また、生命保険会社は多額の資金を運用している投資会社の側面があります。そこで得られる運用益は金利が上がることによって増えます。今の金利上昇局面は生命保険会社にとって追い風となっていて、業績に大きな不安はありません。ただ、営業職員による不祥事などをみると、まだまだ古い体質を残しています。そうした風土の改革が求められているわけで、改革の意欲が強いかどうかも会社を見るうえで重要なポイントだと思います。
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