アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を始め、イランも反撃し、中東に戦火が広がっています。イランはペルシャ湾の出入り口にあたるホルムズ海峡を事実上封鎖し、タンカーや液化天然ガス(LNG)船の通航ができなくなっています。ペルシャ湾内にあるサウジアラビア、カタール、クウェートなどの石油や天然ガスを産出する国は、輸出ができない状況です。
日本は石油の約9割を中東から輸入しており、ガソリンやプラスチック製品などへの影響が心配されています。一方、天然ガスは中東産が約1割と石油より依存度が低くなっており、ガス業界は石油業界より打撃が小さいとみられます。これまで調達先の多様化を進めてきたことが功を奏しています。ガス事業は鉄道事業や電力事業などと並ぶ社会のインフラとなっている事業です。ガス業界は大手から中小まで経営体制はさまざまですが、都市ガス大手の場合は地域の占有率が圧倒的に高く、安定した業績を残しています。
(写真・東京ガス世田谷整圧所のガスタンク=2020年、東京都世田谷区/写真はすべて朝日新聞社)
都市ガス会社とLPガス会社
ガス会社には大きく分け都市ガス会社と、一般的にプロパンガスと呼ばれる液化石油(LP)ガス会社の二種類あります。都市ガスは人口密度の高い都市部で地下に埋設されたガス管を通してガスを供給する会社で、ガスの成分は液化天然ガス(LNG)由来のメタンです。LPガスは人口密度が高くない地域で使われるガスで、ガスの成分はブタンやプロパンです。ガス管を埋設するのは投資効率が悪いとされ、トラックがボンベを運んできて供給されます。
東京ガスと大阪ガスが2大会社
都市ガス会社は大企業が多く、関東圏を供給エリアとする東京ガスと関西圏を供給エリアとする大阪ガスが2大会社になります。東京ガスは2024年度の売上高が2兆6368億円で、大阪ガスは2兆690億円です。ほかに愛知県を中心に供給する東邦ガスや福岡県を中心に供給する西部ガスホールデイングス(HD)も大きく、東邦ガスの売上高は6560億円、西部ガスHDは2544億円です。LPガスを供給する大手は岩谷産業、日本瓦斯、エネサンスホールディングス(HD)などです。ただ、LPガスの末端の販売業者は全国に約1万6千もあり、ほとんどが中小事業者です。
自由化進み、電力とガスがシェア奪い合う
かつて都市ガス事業は地域独占でした。それでは競争原理が働かないということで段階的に自由化が進められ、2022年には導管部門も法的に分離され、自由化の体制が完成しました。現在は、300者近い事業者が都市ガス事業を行っています。一方、電力事業も地域独占が崩れて自由化されていて、ガス事業者が電気の小売りに参入するなど、電力事業者とガス事業者がお互いに市場に進出してシェアを奪い合う形になっています。
東京ガスはアラスカのLNG調達を検討
都市ガスに使うLNGは10年前には2割超が中東からの輸入でしたが、2025年段階ではカタールが5.3%、オマーンが4.5%、アラブ首長国連邦(UAE)が1%で、中東の割合は1割強にまで下がっています。輸入先として最も多いのはオーストラリアで39.7%、次いでマレーシアが14.8%、ロシアが8.9%などとなっています。LPガスも中東は4%ほどで、アメリカが約65%、カナダが約20%、オーストラリアが約10%などとなっています。調達先の多様化はこれからも進みそうで、東京ガスは日米関税交渉のテーマの一つになっているアメリカ・アラスカ州のLNG開発事業から調達することを検討しています。東京ガスはほかにも2025年4月にテキサス州のガス田の権益の一部を取得するなど、アメリカでの大型投資を進めています。
CO₂を原料にガスを作る技術開発
都市ガス各社は脱炭素の取り組みにも力を入れています。大阪ガスは二酸化炭素(CO₂)と水から都市ガスを作る技術開発を続けています。メタンは燃やすとCO₂を出しますが、CO₂と水からメタンを作ることができれば、全体としてみれば追加的な排出がないことになります。2025年6月には大阪市内に一般家庭約200戸分をまかなえる規模の実証装置をつくりました。また、大阪ガスと東邦ガスはアメリカで「 eメタン」(合成メタン)を生産するプロジェクトに参画しています。eメタンは水素とCO₂を化学反応させてつくるもので、環境負荷が小さいとして注目されています。両社は将来的に、日本への輸入を視野に入れています。
(写真・大阪・関西万博で大阪ガスなどが手がけたカーボンリサイクルファクトリー。eメタン製造の実証などが行われた=2025年4月25日)
安定した業界だが、新分野への挑戦も
ガス業界はニュースになることが少なく、やや地味なイメージですが、わたしたちの生活になくてはならない業界です。そうしたことから需要の波が小さく都市ガス業界の業績は安定しています。ただ、ほかの業界と同様に国内の人口減少により既存の国内事業だけでは大きな成長が期待できなくなっているため、海外での都市ガス事業に出資したり自動車向けのガスの供給などに取り組んだりしています。また、都市部での工場跡地などを活用した不動産事業にも力を入れています。比較的安定した業界であることは間違いありませんが、新しい分野への挑戦も続けていることにぜひ注目してください。
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