好調だった百貨店業界の業績に陰りが出ています。高市早苗首相の「台湾有事発言」に端を発した中国人客の渡航自粛により、インバウンド需要が減少しているのです。2025年の全国の百貨店の売上高は前年比1.5%減の5兆6754億円になりました。前年割れは新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以来5年ぶりです。2025年の訪日客数は前年に比べて2.9%増えましたが、渡航自粛の呼びかけがあった11月以降、高額商品を大量に買う中国人客が減り、その影響が出ました。中国人客の減少は長引きそうで、2026年にも影響があるとみられています。
一方で、日本人客の購買意欲は株高などを背景に衰えていないため、打撃は緩和されることが考えられます。長期的にみると、百貨店という業態は「何でもあるが、ほしいものがない」といわれ、地盤沈下が進んできました。現在はテナント誘致型に変えたり、デジタル活用や金融事業に力を入れたりするなど、変革を進めています。百貨店を経営する会社は歴史のある大きな会社がほとんどで、小売り業態の中での安定感から就職人気は高くなっています。志望する人は、これからの百貨店はどういう方向に進むべきか、といったことをしっかり考えておくことが必要だと思います。
(写真・三越伊勢丹HDの三越銀座店=2025年9月18日/写真はすべて朝日新聞社)
店舗数はピークの311店から164店に
経済産業省によると、百貨店はさまざまなジャンルの商品を多くの従業員を抱えて売る業態で、具体的な売り場面積は東京都区部と政令指定都市では3000平方メートル以上、その他は1500平方メートル以上となっています。日本百貨店協会によると、百貨店は全国に71社164店(2026年1月末現在)があります。百貨店の本社が存在する都道府県は37で、山形、千葉、富山、福井、岐阜、奈良、和歌山、滋賀、島根、徳島の各県にはありません。このうち、山形、岐阜、島根、徳島には店舗が存在しません。店舗数のピークは1999年の311店で、それ以降、閉店が増えています。
(写真・閉店から2年が経った島根県松江市の一畑百貨店=2026年1月14日)
スーパー、コンビニなどに引き離される
百貨店の売上高のピークはバブル景気が頂点に達した1991年で、約9兆7千億円でした。これ以降、減少傾向が続き、コロナ禍の2021年に約4兆4千億円にまで落ち込みました。この年を底に回復してきましたが、2025年にまたマイナスになったわけです。「小売りの王様」といわれた百貨店が落ち込む一方、伸びできたのがスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア、ネット通販などです。2025年にスーパーの売上高は約12兆9千億円、コンビニは約12兆1千億円、ドラッグストアは約9兆円となり、百貨店を大きく引き離しています。また、売り方としてはネット通販が伸びており、経産省によると2024年に約26兆1千億円になっています。
Jフロントや高島屋が大手
百貨店は21世紀になってから経営統合が進み、百貨店のブランド名と経営する会社名が一致しないケースが増えています。会社として売上高が大きいのは、大丸と松坂屋を傘下に持つJフロントリテイリングが1兆2683億円(2025年2月期)、次いで高島屋が1兆327億円(2025年2月期)、阪急百貨店と阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリングが6817億円(25年3月期)、三越と伊勢丹を傘下に持つ三越伊勢丹ホールディングスが5555億円(2025年3月期)などとなっています。このほか、そごうと西武百貨店を傘下に持つそごう西武や電鉄系といわれる鉄道会社のグループ企業である近鉄百貨店や東急百貨店なども大手になります。
(写真・東京の高島屋日本橋店=2025年4月15日)
食料品や雑貨の比重が大きくなる
百貨店の売れ筋は時代とともに変わっています。かつては女性向け衣料品が大きなシェアを持っていましたが、専門店やネット通販に押され、シェアを落としています。代わりにシェアを伸ばしているのは食料品と雑貨です。「デパ地下」と呼ばれる食料品売り場では人気の総菜や菓子などに行列ができる光景が日常化しています。雑貨で最近伸びているのが貴金属、宝飾品、美術品といった高額商品です。資産価値が上がるとして、株高などを背景にした富裕層が購入しています。
(写真・大阪の阪神百貨店梅田本店の地下食料品売り場=2022年4月6日)
顧客囲い込みのデジタル戦略も
ビジネスモデルを徐々に変えていく動きもあります。自前の販売スペースを減らし、テナントに貸すスペースを増やしています。また、丸ごとテナントに貸す複合商業ビルにする動きもあります。デジタル化も進めています。たとえばオンラインストアでは、食料品のギフトなど百貨店ブランドが生きる分野で充実をはかっています。ほかにもアプリを顧客とのコミュニケーションツールとして使ったり、顧客のニーズ把握に使ったりと活用する動きもあります。百貨店専用のクレジットカードの発行などとも組み合わせてポイント経済圏をつくって、顧客を囲い込もうという戦略です。
歴史ある業界で女性比率は高い
百貨店は歴史のある業界です。日本では1904年(明治37年)に三越呉服店がデパートメントストア宣言をしたことが始まりとされています。こうした歴史のある業界なので、都市の一等地に重厚で巨大な店舗を構えているのが一般的で、それが資産になっています。正社員の従業員も多く、小売業界の中ではその待遇もいいとされています。また、女性比率が高いという特徴もあります。成長性には欠けると言われますが、新しいことに挑戦する余地はまだたくさんあります。再び「小売りの王様」になることを目指す意欲のある人が求められている業界です。
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