業界研究ニュース 略歴

2024年03月28日

海外に後れをとっているが、可能性秘める航空・宇宙産業【業界研究ニュース】

自動車・輸送用機器

 政府は2024年3月末に、国産旅客機の開発を目指す新たな航空機産業戦略をまとめました。三菱重工業が2023年に国産初のジェット旅客機スペースジェット(SJ、旧MRJ)の開発を断念しましたが、日本は自前の旅客機開発に再挑戦します。日本の航空機生産は長くアメリカの航空機メーカーの下請けの立場に置かれていましたが、自立への模索を続けることを明確にしたわけです。

 また、ロケットや人工衛星の生産、打ち上げ、サービスなどをおこなう日本の宇宙産業も活発に動き出しています。空や宇宙を活用する可能性は限りなく大きく、航空・宇宙産業には大きな将来性があります。アメリカ、ヨーロッパ、中国なども力を入れていて、今の段階では日本がそうした国々から後れをとっているのは確かです。ただ、技術力で巻き返せる分野でもありますので、政府や業界は将来性を信じて力を入れていくことにしているのです。

(写真・離陸するスペースジェットの試験機=2020年3月、愛知県豊山町/写真はすべて朝日新聞社)

三菱重工業が業界の中心的存在

 日本の航空・宇宙産業の業界団体の日本航空宇宙工業会に加入している企業は、正会員で84社です。中でも売上高が大きいのは、三菱重工業、IHI川崎重工業SUBARUなどです。三菱重工業は民間航空機、軍用航空機、ロケットのいずれの分野でも国内の中心的存在です。IHIは航空機やロケットのエンジン分野を得意としています。川崎重工業、SUBARUの両社も航空機の生産を分担して請け負っている企業です。ただ、2022年度の日本の航空・宇宙工業の生産額は約1.7兆円で、世界の主要市場でのシェアは5%前後とされています。経済産業省の調べによると、世界で売上高(2018年段階)がもっとも大きい航空・宇宙企業は、アメリカのボーイングで、2番目がヨーロッパのエアバスです。この両社は民間航空機部門で世界を二分しています。

(写真・三菱重工業本社の看板=東京・丸の内)

「空白の7年」によって日本が立ち遅れる

 日本の航空機産業がアメリカの下請けの立場に甘んじてきたのは、1945年の太平洋戦争での敗戦によって、アメリカが日本の航空機産業を解体し、製造や教育を禁止したためです。禁止は1952年まで続き、この「空白の7年」が尾を引いて、日本の航空機産業はアメリカの航空機メーカーの下請けの立場になりました。禁止が解かれると、戦前に「ゼロ戦」を製造していた三菱重工業、「」を製造していた中島飛行機(現SUBARU)、「飛燕」を製造していた川崎重工業が航空機製造に復帰しました。そして、政府と力を合わせて国産プロペラ旅客機YS11を開発製造しましたが、YS11は赤字が大きくなり、製造が中止されました。戦後、日本メーカーが自前で製造した旅客機はYS11だけで、期待されたスペースジェットはアメリカの型式証明がとれず、開発を断念しました。


(写真・ラストフライトに備える航空自衛隊点検飛行隊のYS11=2021年3月17日)

宇宙ベンチャーの挑戦も続く

 宇宙産業もアメリカやヨーロッパに後れを取ってきましたが、ここにきて巻き返しの動きが出ています。人工衛星を軌道に乗せるために打ち上げるロケット事業では、日本には主力の「H2A」と小型の「イプシロン」がありました。ただ、H2Aは打ち上げコストが高く、コストの安い新型のH3に期待が集まっていました。H3は三菱重工業が製造し、2024年2月に初めて打ち上げに成功しました。また、宇宙ベンチャーの挑戦も続いています。2023年にはispace(アイスペース)が月面着陸を目指しましたが、着陸船が月面に衝突し、失敗しました。スペースワンは2024年3月に小型ロケットを打ち上げましたが、打ち上げ直後に爆発し、失敗しました。ただ、宇宙への挑戦に失敗はつきもので、ベンチャー企業の挑戦は日本の宇宙産業の可能性を感じさせるものと受け止められています。ほかにもベンチャー企業のアストロスケールは宇宙ゴミ(デブリ)の除去を目指して活動しています。現在、自社の人工衛星を軌道に乗せて、デブリの撮影に挑戦しています。

(写真・打ち上げられた新型ロケット「H3」2号機=2024年2月17日、鹿児島県の種子島宇宙センター)

宇宙市場は2040年に1兆ドルとの予測も

 航空・宇宙産業は将来性が大きいとみられている業界です。日本航空機開発協会の予測では、2042年の世界の民間航空機の運航機数は約4万500機と予測しています。これは2022年に比べて6割増の数字になります。旅客も貨物も、スピードの速い航空機を使った移動が増えると考えられています。また、宇宙産業の伸びはもっと大きいとする予測があり、アメリカの証券大手モルガン・スタンレーは2040年には1兆ドル(約150兆円)もの大きな市場になるとしています。楽観的過ぎる予測にも思えますが、資源確保、通信、旅行など宇宙利用の可能性が大きいことを考えると、市場が飛躍的に大きくなることは想定されます。

半導体と同じように巻き返しを本気で狙う

 航空機の生産や宇宙に関する事業は、日本が巻き返しを本気で狙っている分野です。半導体の生産と同じように、これ以上海外に引き離されると、巻き返し不能になり、日本の経済全体の停滞につながるという危機感が政府や業界にはあります。逆に言えば、巻き返すことができれば、日本の経済には大きなプラスになります。そうした注目の業界のひとつなのです。リスクはありますが、やりがいもある業界のはずです。業界には大企業から中小企業やベンチャー企業まであります。関心のある人は調べてみてはどうでしょうか。

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