
7月14日、IT大手
GMOインターネットグループの熊谷正寿代表がコロナ禍で導入した在宅勤務の廃止を表明し、大きな話題となりました。熊谷代表はその後、朝日新聞のインタビューで「在宅勤務を一律に禁止するものではない」と事実上軌道修正しましたが、在宅勤務では「QOL(生活の質)は上がるが、事業としての生産性はトータルでは高まらない」という考えも示しています。
コロナ禍以降リモートワークは一般化しましたが、近年はこういった出社回帰の動きも出てきています。リモートワークは生産性を下げるのか、下げないのか、自分はどちらの働き方を選ぶのか――会社選びの際には欠かせない視点ですので、昨今の動きをしっかりチェックしておきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)
GMO代表「AI時代だからこそオフィス大事」

熊谷代表は7月14日に自身のXアカウントで、コロナ禍以降6年半続けてきた在宅勤務制度を「昨日付で『グループとしての推奨』は完全廃止を致しました」とポストしました。理由について、こう投稿しています。
「在宅で生産性が上がる方もいる。否定しない。
しかし、データ上時間当りのPCタイピング数は確実に減少。
トータルで在宅勤務はマイナス。
人類最大の産業革命の真っ只中。 負ける要素は排除する。」
在宅勤務は「負ける要素」として、「排除」の方針を示したのです。
この投稿は賛否両論をまきおこし、熊谷代表は21日にXで「今回の判断は、『在宅勤務』という働き方そのものを否定するものではありません。見直したのは、『グループとして在宅勤務を推奨する』という基本方針です。」と投稿。介護・育児・通院など個別の事情がある場合は柔軟に対応するとしました。そのうえで、「AI時代の人間の働き方」についての意見として下記のように語り、出社の価値はAI時代により高まったとしました。
「結論として、AIに任せられる作業はAIに任せ、人はより創造的な議論・意思決定・学び合いに時間を使うべき時代だと考えています。
多様な専門性を持つ仲間たちと直接議論できる場がオフィスです。
私たちは、AI時代だからこそ、顔を合わせて議論し、判断し、学び合う時間の価値が高まっていると考えています。」
(写真・GMOインターネットグループの熊谷正寿代表=2023年11月/朝日新聞社)
アクセンチュアも出社義務化

コロナ禍以降に定着した在宅勤務を含むリモートワーク制度ですが、出社回帰の動きが進んでいます。2025年1月にはアメリカのIT大手
アマゾンが社員の在宅勤務を原則禁止して週5日のフル出社を義務づけ、「就活ニュースペーパー」でも取り上げました。その後も、コンサル大手のアクセンチュアが2025年6月から自社か顧客先オフィスに週5日の出社を原則として義務化。
メルカリも週2日以上のオフィス出社を基本ポリシーとするようになりました。アクセンチュアの江川昌史会長は
「文春オンライン」のインタビューで、「社会からお預かりした人材を成長させるのは会社の責務だと考えているので、育児や介護が必要な方などは除き、今のところは週5日を徹底して、社内の仲間やクライアントとのコミュニケーションを通じたスキルアップの場を提供しています」と語っています。
在宅勤務で生産性「向上」が「低下」上回る

リモートワークにはさまざまなメリット、デメリットがあります。通勤時間がなくなり、好きな環境で集中できる、ワークライフバランスが取れた働き方ができるというメリットがある一方、コミュニケーションが不足し孤立感が高まるというデメリットもあります。
通勤時間と在宅勤務については、ニッセイ基礎研究所が2025年に行った調査をもとにしたレポート
「通勤時間で異なる在宅勤務頻度と在宅勤務の生産性評価の関連」が興味深い分析を行っています。これによると、在宅勤務を月1回行っている社員対象のアンケートで出社時よりも生産性が「向上した」と答えたのは36%、「変わらない」は41%、「低下した」は24%となり、「向上」が「低下」を少し上回りました。これは継続的に在宅勤務をしている人を対象として分析しているので、在宅勤務すると生産性が下がると感じる人は出社を選択し、分析の対象外となっている可能性があることにも注意が必要です。
このリポートでは、通勤時間や在宅勤務の頻度によって、生産性の感じ方がどう変わるかも検証しました。その結果、まず通勤時間が30分未満の層では、週2~4日の在宅勤務頻度で生産性の向上を感じている人の割合が最も高く、そこから頻度が高くなると向上を感じる人の割合は下がることが示されました。これは、通勤負担がそれほど大きくないため、在宅勤務が増えすぎるとコミュニケーションの難しさなど、在宅勤務の負の要素が大きくなるからではないかとリポートでは分析しています。通勤時間が30~90分未満の層では、在宅勤務の回数が増えるにつれて生産性の向上を感じる割合が一貫して上昇していました。これは通勤負担の軽減効果が大きいことが影響していると考えられます。
(写真はiStock)
自身の状況に応じて柔軟に働き方を選べるかが重要
不思議なことに、通勤時間が90分以上の場合、生産性向上を感じる人の割合は在宅勤務の回数が増えるほど減少し、生産性が下がったと感じる人の割合は在宅勤務回数が比較的少ない層でも高く、ほぼ毎日在宅勤務している人の場合は50%近くまではねあがりました。これは、在宅勤務を選ぶ理由が生産性の向上ではなく、通勤時間を削ることで生活利便性を上げたいという理由の人が多いから、という可能性が考えられます。こう見ると、在宅勤務は生産性の向上と必ずしも直結しない、ということは言えそうです。
在宅勤務により生産性が上がるかどうかは仕事の内容、自身の仕事に対する習熟度、オフィスや自宅の環境などによって大きく変わります。特にまだ仕事に慣れないうちは、できれば近くに先輩社員がいてコミュニケーションをとりやすい、相談しやすい環境のほうが仕事をしやすいということもありえます。一方で、家庭の事情やワークライフバランスを考えて通勤時間を減らしたいというケースもあるでしょう。会社を選ぶ際に大切なのは、自身の仕事や生活の状況に応じて出社とリモートワークを柔軟に選択できるか、リモートワークの制度があるとして本当にそれを選択しやすい雰囲気があるか、ではないかと思います。気になる人は会社説明会やインターンシップ、OB・OG訪問などを通じて、ぜひチェックしてみてほしいと思います。
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