
日本の通貨である円の価値が下がる「
円安」が急激に進んでいます。6月30日の東京
外国為替市場で一時、1ドル=162円台半ばまで円安が進みました。162円台をつけるのは1986年12月以来で、実に約40年ぶりの円安ドル高水準となっています。
円安が進み円の価値が下がると、海外からものを買うときにこれまで以上にたくさんの円が必要になります。日本は原油や小麦などを輸入に頼っているので、それらの仕入れ費用が上がる結果、石油製品や食料品などが値上がりするという構造になっています。つまり円安は、みなさんの生活にも直接関係してくる動きなのです。円の価値が下がれば、海外旅行なども行きづらくなってしまいます。なぜいま円安が進んでいるのか、今後はどうなるのか、基本的なことから理解しておきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・ドル円相場を表示する証券会社のボード=2026年6月30日、東京都中央区/写真は朝日新聞社)
【円安の理由】中東情勢混乱でドルに人気集まる
円安・円高の指標は、アメリカのドルとの関係で示される対ドル円相場がもっともメジャーです。1ドルと交換できるのは何円か、という形で示されるため、数字が低くなれば「円高」、高くなれば「円安」となります。この対ドル円相場が、4カ月で10円近く下落しています。6月30日に一時162円台まで円安が進みましたが、これは1986年12月以来じつに39年半ぶりの水準とのことです。
円安が進んだひとつの理由は中東情勢の混乱です。世界情勢が不安定になると、安心して保有できるのは大きな国の通貨だという見方が広まり、超大国であるアメリカのドルを買おうという動きが進みます。今回もその動きが広がり、円を押し下げました。
【円安の進行】日本利上げも、アメリカがさらに利上げ観測

急激な円安には、日本とアメリカの「金利差」も影響しています。先週の「
週間ニュースまとめ」でも触れましたが、日本は
中央銀行である
日本銀行が、6月に
政策金利をそれまでの0.75%程度から1%程度に上げることを決めました。一般的に金利を上げると企業や個人がお金を借りづらくなり、需要が抑えられ、物価が下がってインフレが抑制されると考えられています。日銀はいま進んでいる物価高を抑える意図もあり、利上げに踏み切ったとみられます。
しかし、アメリカでも中央銀行にあたる
米連邦準備制度理事会(FRB)がやはりインフレを心配し、年内に複数回の利上げをするとの観測が高まってきました。日銀の利上げのペースはFRBの利上げより緩やかとみられ、円を売って、金利があがってより儲かりそうなドルを買う動きが強まった結果、円安が加速したのです。利上げをしたにも関わらず日銀が期待したような物価抑制効果は起こらず、物価高がしばらく続くことが予想されます。
【為替介入】「デジタル赤字」拡大で介入の効果薄く
物価高をもたらす円安が進むことは、日本政府にとっては歓迎できることではありません。そういうときに政府、日本銀行が行うのが「為替介入」です。円安をとめたい場合、政府・日銀がドルを大量に売り円を買うことで、為替を円高方向に振り向けようとする「為替介入」を行うのです。市場では、政府・日銀が為替介入に踏み切るのではないかという警戒感が出てきています。
しかし近年、この為替介入の効果が薄れてきているといいます。政府・日銀は4~5月に過去最大の11兆円規模の円買いドル売り介入を実行したのですが、円相場は1カ月ほどで元の円安水準に戻りました。朝日新聞の記事で、ある金融アナリストは為替介入の効果が薄くなっている理由は円の「構造的な弱さ」にあるといいます。
その背景となっているのは、グーグルやアップル、マイクロソフトといった米IT大手のデジタルサービスの普及です。もはやインフラといって過言ではないほどにこういったサービスが普及した結果、使用料などが膨らむ「デジタル赤字」が急拡大しているといいます。使用料は最終的にドルで決済されるため、つねに円を売ってドルを買う圧力がかかっている、というのです。この分析をもとに考えれば、円安から円高に流れを変えるのは簡単なことではなさそうです。
【円の長期トレンド】39年前と比較して円の価値半分以下に

別のアナリストは、1ドル162円台をつけた39年前といまとを比較し、39年前は円の実力が上り坂で、いまは下り坂の長期トレンドになっていると分析します。多くの貿易相手との貿易量や物価の差を考慮して指数化した「
実質実効為替レート」という指標でみると、39年前と比較していまの円の価値は半分以下に落ちているといいます。
円が安くなる長期トレンドの一因は、日本の国際競争力の低下です。39年前は円高が急激に進んでいたことに加え、日本製の自動車や家電が世界で存在感を示していました。しかし1990年代に中国やアジア諸国が台頭し、それ以降日本の製造・輸出大国としての地位は下がり続けています。教科書通りであれば円安なら輸出が伸び、国内の景気がよくなるはずですが、1990年代以降に日本企業が海外へ工場移転を進めたこともあり、そういった図式があてはまりにくくなったとこのアナリストはいいます。また、人口減少などによって、経済の地力を示す
潜在成長率が低迷していることも、円安の要因になっています。
円の価値を引き上げるには、こういった長期トレンドを変える必要があります。つまりは、国際的にも競争できる企業がどんどん出てきて日本が再び経済成長路線に乗る必要があるということで、もちろん容易ではありません。円安の短期的な理由はなにか、その影響はどういうところに現れるか、今後円が再び価値を取り戻すにはどうなればいいか――みなさんの社会人生活にも大きく関わるテーマですので、ぜひ高い関心をもって為替市場をチェックしてください。
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