
日々めざましい進化をとげている
AI(人工知能)ですが、そのAIをつかって「
ウイルス」を設計するという研究が進んでいます。
コンピューターウイルスではなく、本物のウイルスです。これにより病原菌を効果的に殺すウイルスがつくれるようになるといいますが、悪用される危険性も十分にあります。進化する技術を、私たちはどう扱うべきなのか。最新のニュースをチェックしながら、ぜひ考えるきっかけにしてみてください。(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)
薬剤耐性菌にも攻撃できる「ファージ」

AIを使って設計したウイルスによって、世界で初めて細菌を殺すことができた――2025年9月、アメリカ・スタンフォード大などのチームがそんな論文を発表しました。細菌に感染して増殖するウイルス「
バクテリオファージ」をつくり、
大腸菌の複製を止めることに成功したというのです。
細菌は抗生物質などの薬剤で治療しますが、あまり使いすぎると薬剤の効かない「薬剤
耐性菌」が生まれ、治療が難しくなります。ところがファージは、この薬剤耐性菌にも攻撃をすることができるそうです。開発したチームは「新たなバイオテクノロジーや治療法の実現を期待させる」としています。
それにしても、コンピューターウイルスではなく本物のウイルスを、どうやってAIが設計するのでしょうか。
(写真・AIで設計したファージ=2026年2月20日、米シリコンバレー・パロアルトのアーク研究所/朝日新聞社)
「ゲノム言語モデル」つくって遺伝子配列をつくりだす

ウイルスは、
DNAや
RNAなどの遺伝情報(
ゲノム)がたんぱく質のからに入った、単純な構造をしています。DNAは「
塩基」という物質がつらなってできており、その塩基はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類あります。A、T、G、Cの4つの塩基がどのように並んでいるかで、ゲノムの性質は決まるのです。
チャットGPTなどの対話型AIは、事前に大量の文章を学習し、それをもとに人の問いかけに対してそれらしい文章の並びを予測して返すことができます。この仕組みを利用して、さまざまなゲノムがもつ塩基、つまりA、T、G、Cの配列パターンをAIに学習させるのです。これが「ゲノム言語モデル」で、細菌に感染するウイルスの遺伝情報を学習させると、そうした機能をもつ可能性のある遺伝子の配列候補をAIがつくりだしてくれるのです。
AIにはものごとを推論する性能があがり、またこういった遺伝情報など大量のデータを学習した専用モデルが開発されるようになったことから、生物学分野でのAIの活用はどんどん進むようになりました。また、遺伝子情報をもとにして実際にDNAを合成するサービスも広がり、AIの提案をもとにウイルスをつくるハードルも下がりました。
(図版は朝日新聞社)
ルールの外で活動する人が出てきたら
これまでにないウイルスをつくることで、新たな治療法を生み出せる――AIと生物学の組み合わせがもたらす未来は明るいようにも思えます。しかしこの技術には、人間が制御できない危険なウイルスを生み出すリスクも指摘されています。
今回作成したファージは、人に感染する恐れはないともいいます。しかし、チームをまとめたスタンフォード大のブライアン・ハイ助教授は、朝日新聞の取材にこう語っています。
「自然界の何百万ものシステムを学び、生物学のあらゆる原則と複雑さを習得したAIモデルがあれば、ファージより複雑な設計もできるようになる」
このチームでは、AIにDNAの配列データを学習させる際、人に感染するものは除外したといいます。生物学の分野では、危険なウイルスを扱う研究をする場合は所属機関の審査を受けるというルールもあります。しかし、そんなルールの外で活動する人が出てきてしまう可能性も、否定はできません。
パンデミック再来の危険性も

遺伝情報をつかってウイルスを改変・合成する技術はこれまでもあり、悪用されないよう、危険な病原体はリストにして規制してきたという歴史があります。しかし、今回のように新しく合成した病原体は対象外だといいます。DNA合成を受託する会社は国際的なコンソーシアムを立ち上げて、危険な配列の合成はしないという自主規制を始めましたが、あくまで自主規制のためどの程度効果が出ているかは未知数です。
さらに、AIで次々とウイルスが設計されるようになると、いまの規制では検知できないような危険な配列ができてしまう可能性すらあります。故意ではなくても危険なウイルスができてしまい、それが流出してしまうという可能性も、ないとはいえません。かつて世界が覆われた新型コロナウイルス・
パンデミックのような事態が、再来しないとも限らないのです。
(写真はiStock)
適切な規制、ルールづくりが欠かせない
どんな技術でも、悪用のリスクはつねにつきまといます。技術が発展していく過程では、適切な規制、ルールづくりが欠かせません。
アメリカでは、バイデン前政権期に「パンデミックの潜在性が強化された病原体」にかかわる研究を取り締まるルールをまとめていました。しかしトランプ政権になって廃止され、新たなルールはいまだにできていません。
日本では、高市政権があげている17の成長戦略のひとつに「合成生物学・バイオ」が位置づけられています。ただ、ウイルスの研究を審査する仕組みや、危険な遺伝子配列を監視するような体制はまだ弱く、研究機関や企業に委ねられている部分が多いのが実情といいます。
劇的なスピードで進化し、転びようによってはパンデミックの引き金すら引けるようになったAIを、止めることができるのは人間しかいません。急速に発達するAIに、人間の仕組みづくりはおいつくことができるのか。ぜひこのニュースを参考に、AIがどんな未来をもたらすか、そこで自分はどう生きていくべきか、考えるきっかけにしてみてください。
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