
ふだん意識せずに使っている水道水。その水道を運営する事業は市町村などが経営していますが、2024年度の
経常収支で2割が「赤字」となっていることがわかりました。利用者からの水道料金収入でコストをまかなえない水道事業者は全体の66%にのぼり、さらに税金で穴埋めしても穴埋めしきれない事業者が2割いるのです。赤字が続くと、必要な補修もできなくなります。水道という重要な生活インフラがいま、大きな岐路に立たされているとも考えられます。日本の社会は今後どうなっていくのか、なんらかのブレークスルーは生まれるのか。水道事業の現状をぜひ知っておきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・日本では安全な水が毎日安定して供給されている=2026年2月19日/写真、図表はすべて朝日新聞社)
料金収入でコストまかなえない事業者6割超え

水道は、おもに市町村単位で運営されています。水道事業だけで採算を確保する「
独立採算制」が原則で、川やダムの水を浄化する費用、水道管の維持・管理費、人件費などのコストは、家庭や企業などからの料金収入でまかなっています。
朝日新聞は国のデータをもとに、2024年度の水道事業者の経営状況を分析しました。その結果、この料金収入でコストをまかなえていない事業者は全体の65.6%に達し、税金で穴埋めしてもなお赤字の事業者も23.2%となりました。過去10年間で、はじめて2割を超えたそうです。人口減、節水機器の普及といったこれまでの傾向にくわえて、近年めだってきた人件費や資材費の高騰が苦しい経営に追い打ちをかけているとみられます。
赤字が続くとどうなるか。専門家は、将来に向けた浄水設備や水道管の更新費にまわす「貯金」がつくれなくなる、と指摘します。水道管はだいたい40年で交換が必要になるとされていますが、40年を超えている水道管は全体の26%(2024年度)に及ぶといいます。
漏水事故も目立つように

その結果、近年は水道管の破損による漏水事故も目立つようになりました。たとえば2025年4月には京都市内の国道1号で水道管(鋳鉄製、直径30センチ)が破損し、市街地中心部が広い範囲で冠水しました。その2カ月後には、神奈川県鎌倉市でも水道管の破損が原因とみられる大規模な道路冠水が起こっています。2024年元日の能登半島地震では水道管が寸断され、断水が長期化しました。上水道管ではなく下水道管の破損が理由ではありましたが、2025年1月に埼玉県八潮市で1人が亡くなった道路陥没事故も記憶に新しいところです。
これからどんどん必要になってくる水道管の補修費をまかなうためには、水道料金の値上げが欠かせないとも考えられます。日本水道協会は、水道料金に「資産維持費」を算入するよう指針に盛り込んでいます。しかし協会の2024年のアンケートによると、アンケートに回答した自治体のうち半分以上が算入していませんでした。「大幅な値上げとなって、住民への説明が困難」といった理由が挙がったそうです。「水道は安全に安く供給されるもの」という意識が根強い日本では、議会の承認が必要な水道料金の値上げは敬遠されがちだったのです。
(写真・水道管が破裂し、冠水した京都市の五条通=2025年4月30日、京都市下京区)
都道府県によって水道料金は倍違う

そもそも、水道料金は自治体によって大きく違うことをご存じでしょうか。朝日新聞の記事によれば、都道府県ごとの平均をみると約2倍の差があるのです。
さきほども書いたように、水道事業は市町村ごとに独立採算でまかなわれています。きれいな水をつくるためには川やダムなどの水源が必要で、自治体のなかになければよそから引いてくる必要があります。水をきれいにするコストももちろんかかりますし、人口密度が高ければ効率的に水を配ることができるために料金が安く、反対に低ければ料金は高くなるなど、さまざまな要因で料金は決まります。
その結果、都道府県別の平均水道料金でみると、いちばん安い神奈川県(1カ月20立方メートルあたり2311.8円)といちばん高い青森県(同4548.6円)では、倍近くの差となっています。市町村別でみたときに全国2番目に高い北海道の羅臼町(6950円)は、各家庭などに送り出した水のうち、実際に利用者が使って料金が支払われる「有収水量」は、わずか3割だそうです。これは漏水などで、7割が収益につながっていないことを示す数字です。施設の老朽化が、こういったところにも影響しているのです。
「広域化」が有効だが……
やむなく、水道代の値上げに踏み切る自治体も増えているようです。たとえば長崎市は2026年3月、2029年度からの水道料金を平均12.27%値上げする案を示しました。水道施設の老朽化による維持費の増大と人口減少が重なるため、赤字が現実化する前に検討に入ったとのことです。
過疎地では浄水場でつくった水を配管網をつかって各家庭にくばるのではなく、給水車でタンクなどに水を運び、そこから各家庭に水を配る仕組みを導入する取り組みも、本格的にスタートしています。加速する人口減少で、水道のあり方も見直しを迫られているのです。
水道事業の安定化のために国がすすめているのが「広域化」です。市町村独自で水道を運営せず、複数の自治体が一体となって水道事業を行うというもので、浄水場をひとつにまとめたりすることで効率化がはかれます。たとえば奈良県では、26市町村と県が奈良県広域水道企業団を設立して2025年から水道事業の共同運営を開始。国や県からの補助金などを活用して、水道料金を大きく下げることに成功しました。ただ、広域化をすすめるには料金の設定など決めなければいけないことが多く、簡単にはすすめられないといいます。
生活に欠かせない水道が、いま変革のときを迎えようとしています。水道だけでなく、電気やガス、交通などさまざまなインフラ事業も、変化は避けられません。これからどのように日本のかたちが変わっていくのか、そこにはどんなニーズが生まれ、ビジネスチャンスがやってくるのか。ぜひ興味関心をもって、ニュースをチェックするようにしてください。
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