
野球の世界一決定戦
「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)が開催され、日本は1次ラウンドを勝ち上がりましたが、準々決勝で敗退しました。過去5回開催されたうち3回の優勝を誇る「王者」で、前回同様「二刀流」で知られる米
メジャーリーグ・
ドジャースの
大谷翔平選手らが参加しましたが、過去最低の成績に終わりました。とはいえ今回のWBCは、他チームも大リーグのスター選手がこぞって参加し、大きな盛り上がりをみせています。
そんなWBCですが、日本ではアメリカの動画配信大手
「Netflix」(ネットフリックス、ネトフリ)が独占放送し、テレビの地上波で見ることはできませんでした。また大会の価値が上がるなかで、大会運営の「不公平さ」も浮き彫りになっています。大きなビジネスに成長したWBCが抱える課題とは何でしょうか。これを機に、さまざまな角度からニュースをチェックしてみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・準々決勝のベネズエラ戦で、大谷翔平は遊飛に倒れ試合終了=2026年3月15日/写真はすべて朝日新聞社)
【WBCとは】アメリカのメジャーリーグ(MLB)が主催

まず、WBCとはそもそも何か、確認してみましょう。
サッカーには4年に1回開催される
ワールドカップという世界一決定戦がありますが、野球にはながらく存在していませんでした。サッカーと違い、盛んな国が限られているためです。オリンピックで野球が開催されたこともありますが、2008年北京五輪を最後に正式競技から外れ、2020東京五輪は開催都市が提案できる追加競技として実施され、2028年ロサンゼルス五輪も追加競技として実施予定です。また、世界最大のプロ野球リーグである米メジャーリーグ(MLB)に所属する選手は、オリンピックには出場していません。
このほか、もともとアマチュア野球をまとめる団体だった世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が主催する「
プレミア12」という国際大会も4年に1回開催されています。こちらにも、MLBのメジャー契約40人枠に入っている選手は出場していません。
そのMLBが、野球の世界普及をめざして2006年に創設したのがWBCです。MLBとメジャーリーグの選手会が主催し、第1回大会からMLBの選手が出場する大会となっています。MLBの開催時期(3月下旬~11月初旬)に影響が出ないよう、リーグ戦がはじまるまえの3月に開催されることになっています。
(写真・2023年大会で、優勝を決め大谷翔平(中央)のもとに駆け寄る日本代表の選手たち)
【WBC人気の高まり】観客数は前回を超える

MLBの思惑ではじまったWBCですが、人気を高めた一因は間違いなく日本にあります。第1回大会は突然アナウンスされたこともあり参加に及び腰の国が多かった中、日本はMLBのスター選手だった
イチロー(当時
マリナーズ)が参戦を決断。2009年の第2回にも参加し、日本連覇の立役者となりました。これが刺激となって回を重ねるごとにMLBのトップ選手も参加するようになり、前回の第5回大会では二刀流でMLBを席巻した大谷翔平(当時
エンゼルス)が日本代表に参加。決勝でチームメイトでありアメリカ代表の主砲・トラウト(エンゼルス)を空振り三振に仕留めて3回目の優勝を決め、多くの選手の心に火がついたといいます。
今回のWBCでは昨年MVP(最優秀選手)になった大谷翔平(ドジャース、日本代表)、ジャッジ(
ヤンキース、アメリカ代表)はじめ、MLBのタイトル獲得者、有名選手が軒並み参加。日本の準々決勝敗退は、各チームの本気度がかつてなく増したことの表れともいえます。結果、人気もあがり、MLBによれば予選にあたる1次ラウンドの総観客数は137万4232人を記録、この時点で過去最多だった前回の観客数を超えたそうです。
(写真・2009年大会のイチロー)
【地上波なし】ネトフリ独占でスポーツ観戦有料化すすむか

日本でも当然人気コンテンツとなったWBCですが、今回は地上波のテレビで見ることができませんでした。ネトフリが総額100億円を超えるといわれる金額を提示し、独占中継権を取得したのです(ネトフリについては2025年12月19日の時事まとめ「
コンテンツ界の覇者ネットフリックスはどう成長したのか、今後の展望は? 基本から知ろう」もご覧ください)。
ネトフリの日本でのコンテンツを統括する役員は朝日新聞の取材に対し、独占配信の狙いを「最終的にはネットフリックスが生活の一部になること」と語っています。新規加入者は加入後1カ月は税込み500円以下とする格安プランを提供するなど、「最大規模」というキャンペーン費用を投入し、日本市場へのさらなる浸透をはかろうとしています。日本では2016年にDAZNがサッカーJリーグの放映権を獲得。ボクシングも人気の世界戦がプライム・ビデオなどに移行して地上波放送がなくなっています。今回のWBCネトフリ独占で、スポーツの人気コンテンツが有料化していく流れが加速するかもしれません。
一方、朝日新聞の記事では、有料配信が定着しているアメリカではスポーツ中継を見るための媒体が分散し、視聴者が「重荷」と感じる状況も出始めていると紹介しています。たとえばアメリカで人気のプロフットボールだと、2025年には10の異なるサービスで放映され、全てを見る場合は年間1500ドル(約23万円)以上の負担になったという試算もあるそうです。有料配信が広がれば視聴者がたくさんのスポーツを気軽に見られる環境ではなくなり、ファン層が細くなっていくという将来も考えられます。
ちなみに一次ラウンドで日本と戦った韓国には、スポーツの放送などに関して五輪や国家代表チームが出場するサッカーW杯は全世帯の90%以上、アジア大会や国家代表チームが出場するWBCなどは75%以上が視聴できる放送手段の確保を求めるという規定があります。今回のWBCでもこの規定が影響したのか、地上波での放送が実現しています。市場原理にまかせるだけでなく、国民的関心の高いスポーツコンテンツをどのように世間にひろげ、そのコストを誰がどう負担するか、様々な方法を模索する時期にきているのかもしれません。
(写真・東京ドームで行われた1次ラウンドのNETFLIXの中継に出演する二宮和也さん(左端)、渡辺謙さん(左から2人目)ら=2026年3月6日)
【今後の課題】アメリカ、日本有利? 公平性どうする
6回目にして巨大コンテンツに成長したWBCですが、国際大会としては「不公平」な運営方法も、無視できなくなってきました。
世界各地で開催される五輪やサッカーW杯と違い、WBCは過去6回すべてアメリカで開催されています。また、1次ラウンドは4つのプールに分かれて争いますが、その組み分けの抽選もありませんでした。アメリカにくわえて多くのスポンサーを連れてくる日本は全4試合をナイターで行う日程だったのに対し、他チームはナイター翌日に昼から戦うことも強いられています。さらに8強以降のトーナメント表は、米国と日本は決勝まで当たらないように事前に仕組まれていました。
あくまでMLBと選手会が主催のコンテンツに「公平性」をどこまで求められるのかは未知数ですが、盛り上がりに大きく貢献してきた日本が果たす役割は小さくないはずです。今回はっきりとした世界との差をどう埋めるかというグラウンド内での課題にくわえ、大会の仕組みや放映権料の問題などグラウンド外の課題に対しても、日本はしっかり向き合っていく必要があります。
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