
2月8日に
総選挙の投開票が行われ、高市早苗首相(
自民党総裁)率いる自民党が結党以来最多となる316議席を獲得して圧勝し、自民単独で衆院定数の3分の2以上を確保しました。一方、総選挙直前に
立憲民主党と、自民との連立から離脱した
公明党が結成した中道改革連合は、公示前の167議席から3分の1以下となる49議席に激減しています。強力な信任を得たことで、今後高市政権はどのように国のかじ取りをしていくのでしょうか。総選挙の結果を振り返り、今後の展開について考えてみたいと思います。(編集部・福井洋平)
(写真・自民党の開票センターで、報道各社のインタビューに答える高市早苗首相=2026年2月8日/写真、図版はすべて朝日新聞社)
【選挙結果】自民党が単独で3分の2超え 高市首相「効率的に進める」

改めて、今回の総選挙の結果について基本から振り返ります。
衆議院の定数は465議席(過半数は233議席)です。自民党は前回2024年の衆院選で、派閥の裏金問題などの逆風を受け大敗しました。今回の選挙前の議席数をみると自民党は198議席、連立を組む
日本維新の会は34議席で合計232議席。無所属議員と合わせて、与党会派としてはかろうじて過半数を確保する状態でした。しかし、参院は以前として過半数に満たない状況で、法案などを可決する際に野党側の賛成が欠かせないため、慎重な国会運営が必要でした。
2025年10月に首相となった高市氏は2026年に入り、「国論を二分するような大胆な政策」を進めるには「政治の安定」が必要だとして、衆院の任期が3分の2以上残っている状態で衆院を解散しました。政治の安定とはつまり、自分たちの考え、政策や法案を通しやすい国会の状況にすることと考えられます。就任以来、高市政権は高い支持率をキープしており、その追い風を受けて真冬の解散総選挙に踏み切ったわけです。「首相でよいのかどうか、国民のみなさまに決めていただく」と高市首相は解散にあたって述べています。
その結果、自民党は316議席を獲得し、過半数を大きく越え単独で衆院定数の3分の2(310議席)を上回る圧勝となりました。衆院3分の2を確保することで、国会運営は与党に大きく有利になります。いま与党は参院で過半数割れしていますが、かりに参院で法案が否決されても、衆院で再可決することで法案を成立させることができます。高市首相は8日夜の報道番組で今後の国会運営について問われ、「効率的に進められるところは進める」と語っています。「効率的」とはどういうことか、今後の国会運営をよくチェックする必要があります。
また、
憲法改正は衆議院、参議院それぞれ3分の2以上の賛成があれば国会として発議できます。自民党はそもそも結党以来、「現行憲法の自主的改正」を党是としている政党です。憲法改正についてはどちらかといえば抑制的だった公明党との連立を解消し、自民単独で3分の2を確保したことで、憲法改正へのハードルは大きく下がったといえそうです。
【高市政権の政策】積極財政を加速、株式市場は高騰

これだけの「数の力」を得て、高市首相は今後どのような政権運営をしていくのでしょうか。高市首相は9日の会見でこう述べました。
「今回の解散・総選挙は高市内閣が掲げる責任ある積極財政、安全保障政策の抜本的強化、政府のインテリジェンス機能の強化といった重要な政策転換を自民党と日本維新の会との連立政権で進めてよいのかどうか(中略)国民の皆様に問う選挙でもありました。」
「重要な政策転換」の筆頭にあげたのは、かねて主張している「責任ある積極財政」です。会見でも高市首相は「政策転換の本丸は責任ある積極財政」と力を入れました。公約では大胆かつ戦略的な「危機管理投資」と「成長投資」を掲げ、AI(人工知能)・半導体、宇宙、造船など17の戦略分野に投資を集中的に行うとしました。また、国の予算の作り方も根本から改めるとしています。総選挙の翌日、9日の東京株式市場では、経済活性化への期待から
日経平均株価が急騰し、一時は前週末6日の終値より3000円超高い5万7300円台をつけました。
ただ、積極財政は国の借金を増やすことにつながり、その不安から
長期金利の上昇、円安が進むという心配もあります。投資がうまくいけば経済成長が実現でき、財政も安定するというシナリオを政権は描いていますが、長年低成長が続いてきた日本で本当に投資で成長を促せるのかは慎重な見極めが必要です。
くわえて先週の「イチ押しニュース」でも触れたように、高市首相は食料品の消費税2年間ゼロという公約も打ち出していました。これから野党にも呼びかけ「国民会議」をつくって議論を進めるとのことですが、安定財源がきちんと確保できなければ不安が広がり、さらなる金利上昇や円安が進み、物価高につながる可能性もあります。
【保守的政策】インテリジェンス機能強化をすすめる

「安全保障政策の抜本的強化」「インテリジェンス機能の強化」という言葉からは、これから高市政権が保守的政策を強く推し進めるという方向性が見えます。高市首相は「
スパイ防止法」の制定や、アメリカの
CIAをモデルにした「対外情報庁」創設などをめざすとされています。インテリジェンス機能の強化は、国民のプライバシーの侵害や表現の自由の制約につながりかねないということも留意する必要があります。
高市首相は会見で、日本の外交安保政策の基本方針となる「国家安全保障戦略」など、いわゆる「
安全保障関連3文書」を前倒しで改定すると明言しました。あわせて、
国内総生産(GDP)比「2%超」に向けた防衛費の大幅増額が検討されるとみられています。
このほか、日本の国旗を損傷する行為を罰する「日本国国章損壊罪」の制定や外国人政策の厳格化、さらに旧姓の通称使用法制化など、高市政権がめざしてきた政策が実現に向け一気に加速する可能性も高くなっています。旧姓の通称使用法制化については、
選択的夫婦別姓の議論の停滞につながるおそれがあるとの指摘もあります。本来は国会などで多角的に時間をかけて議論を深めていくべき問題ですが、高市首相が「効率的」に政策を進めたいと思えば進められる状況が、今回の総選挙で誕生したわけです。高市首相は会見で、「憲法改正に向けた挑戦も進めていく」と語っています。
【勝利の要因】政権幹部「余計なことは言わない」リスクマネジメント

朝日新聞の報道によると、首相が「悲願」と語っていた食料品の消費税ゼロについては、選挙期間中の街頭演説では一言も触れませんでした。今回は選挙戦が短く、公示後唯一の党首討論となるのはNHKの討論番組でしたが、手を痛めたとして出演を直前で取りやめました。同じ日、東海地方での街頭演説は予定通りこなしています。朝日新聞は、政権幹部が「余計なことは言わないことが首相のリスクマネジメント」と選挙戦略を解説するコメントを載せています。高市首相は9日の会見で、「国論を二分する政策」について首相の口から具体的に語られる機会が少なかったと記者から指摘され、「私は街頭演説で国論を二分する政策についてほとんどの時間を割いて訴えてきたつもりだ」と反論しています。
朝日新聞では、「人のことを批判しないし、話がわかりやすい」(東京都・41歳女性)、ガソリン減税で「初めて内閣に期待できる」(東京都・35歳女性)といった高市氏支持の声を紹介しています。これから高市政権が「国論を二分する」政策を進めていくなかで、いまの高い支持率をキープできるかどうかは、首相がこうした政策について丁寧に議論を進めるかどうかにかかっているといえます。
また、自民党圧勝の大きな要因として、本来対抗軸になるはずだった中道改革連合が大きく人気を落としたことも見逃せません。公示前勢力から3分の1以下に議席数が落ち、しかも公明党出身の候補者28人が全員当選したのに対し、野党第一党だった立憲民主党出身の候補者は幹部級も含め軒並み落選、21人しか当選しませんでした。「中道」という名前が浸透しなかったことなどさまざまな敗因が指摘されていますが、特に若い世代の中道支持率は極めて低かったといい、党の立て直しは容易ではないことが予想されます。今回の選挙では
共産党も議席を大きく減らし、いわゆるリベラル勢力の衰退は顕著です。これが今後の日本の動きにどう影響していくかも注目が必要です。
(写真・テレビで開票状況を見守る中道の野田佳彦共同代表=2026年2月8日)
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