
高市早苗首相が、
通常国会冒頭での
衆議院の解散を検討していると報じられています。今年の通常国会は1月23日に召集されます。その冒頭で解散されれば、衆議院選挙は2月上中旬の投開票日になるとみられています。高市首相はなぜこのタイミングで衆院を解散しようとしているのでしょうか。そもそも解散とは何なのでしょう。解散報道によって円安・株高が進行しているのはなぜ? 基本から理解していきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・首相官邸に入る高市首相。この翌日から衆院の「冒頭解散」の報道が出始めた=2026年1月9日/写真、図版はすべて朝日新聞社)
【解散とは】内閣の一方的都合での解散は「不当」とされる

まずそもそも、解散とは何でしょうか。
日本の国会は
衆議院と
参議院があり、衆議院議員の任期は4年、参議院議員は6年です。衆院議員が4年の任期を終えるまえに、議員の資格を失わせることが「衆院解散」です。参議院には解散はありません。有権者の意思は選挙により国政に反映されますが、さまざまな情勢に応じて民意は変化していきます。解散にともなう衆院選により、よりタイムリーに民意を国政に反映することができるというわけです。このため、衆議院は参議院よりも
予算や首相を決める際に強い権限を持っています。
では、解散は誰が決めるのでしょうか。日本国憲法で解散について規定しているのは7条と69条の2つです。このうち7条の3項では、天皇が内閣の助言と承認に基づいて衆議院を解散すると定められています。この条文を根拠に、内閣に事実上解散をする権利があると解釈され、これまでの解散はほぼ7条を根拠に行われてきました。ちなみに69条は、衆議院が
内閣不信任案を可決(または信任案を否決)したときに内閣は総辞職か衆院解散をするという規定です。内閣不信任案の可決は現行憲法下で4回あり、いずれも内閣は解散を選択しています。
内閣、特にそのトップである首相は、自由に衆院を解散するかどうかを決めることができると考える人もいます。ただ、憲法学の通説では、内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は「不当」と解されていることに注意が必要です。選挙で一度選ばれた議員を全員クビにして、ばくだいなコストをかけて民意を問い直すわけですから、そこには野党も国民も広く納得できる
大義名分が必要と考えるべきでしょう。
(写真・2024年に衆議院が解散され、万歳する与党議員(奥)と起立する野党議員(手前)=2024年10月9日)
【なぜいま解散?】新たな政権の枠組みで選挙し政権基盤を固めたい

では改めて、なぜ今回高市首相は解散をしようとしているのでしょうか。見えてくるのは大義名分よりも、高市首相の個人的な思惑です。
直近の衆院選は2024年10月に石破政権下で行われており、高市政権はその後に誕生しています。またその誕生をきっかけに長年自民党と連立を組んでいた
公明党が離れ、自民党は新たに
日本維新の会と連立を組んでいます。内閣支持率は政権発足から高水準を維持しており、高市首相としては高支持率を追い風に新たな政権の枠組みで選挙を戦い、民意を受けて政権基盤を固めたいという思惑があるとみられます。
一方で、解散の大義名分は見えにくくなっています。通常国会では来年度の予算案が審議されるのですが、このタイミングで解散をすると今年度中に予算が決まらない可能性が高くなり、
暫定予算で対応せざるを得なくなります。首相は就任以来、物価高対策や経済対策に最優先で取り組み、国民にその効果を実感してもらう重要性を再三強調してきました。その対策が盛り込まれた予算案の審議をあとまわしにしてなぜ解散をこのタイミングでするのか、高市首相はしっかりと説明する必要があるでしょう。
台湾有事をめぐる首相発言が引き金で悪化した日中関係、官邸幹部による「核兵器保有論」への見解、連立を組む日本維新の会の「
国保逃れ」問題など、国会で追及されるであろう課題もたくさんあります。国会召集冒頭での解散は、こういった追及をかわすためだと受け取られても仕方がありません。野党側も解散報道に対して「物価高対策と言いながら政治空白をつくる動きだ。理屈も大義もない」(
立憲民主党・野田代表)、「(当初予算の)年度内成立がほぼ不可能になる状況まで作ってなぜ今解散なのか」(公明党・斉藤代表)と批判。
国民民主党の玉木代表は「与党が有利なときに解散する仕組みがいいのかどうか、そろそろ考えないといけない。ルール化が必要ではないか」と7条解散の是非についても触れています。
(写真・立憲民主党常任幹事会で発言する野田佳彦代表=2026年1月13日)
【衆院選はどうなる?】公明の連立離脱がどう影響するか

実際に解散があった場合、その後の衆院選はどのようになるでしょうか。確かに高市内閣の支持率は、朝日新聞の2025年12月の調査でも68%となるなどかなり高く、与党にとっては追い風の情勢ともいえます。ただ、これまで述べたように予算審議をあとまわしにし、悪化した日中関係など懸案をたなざらしにしての衆院解散がどの程度国民の心に響くかは未知数です。
また、これまで連立を組んできた公明党が野党にまわった影響も見逃せないでしょう。公明党は伝統的に支持基盤が強く、多くの自民議員が各選挙区で1万~2万票あるとされる「公明票」に支えられ当選してきました。この票がそっくり野党候補に流れれば、苦戦する自民議員は多くなるでしょう。新たに連立相手となった日本維新の会とはそもそもこれまで対立してきた選挙区も多く、維新の支持基盤も大阪以外はそれほど強いとはいえないため、連立が選挙にプラスに働くかはこれも未知数です。これから高市氏がどう解散の大義をアナウンスしていくのか、その解散戦略が、結果を大きく左右するでしょう。
【なぜ株高・円安に?】市場は高市氏の政策に期待
今回の解散報道で興味深いのは、株価がはねあがり、円安が進んだことです。13日の東京株式市場では日経平均株価は史上初めて5万3000円を超え、14日は2日連続で最高値を更新、5万4341円23銭で取引を終えました。りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・エコノミストは朝日新聞のインタビューに対して、自民党が衆院選に勝利して政権基盤を固めれば「高市政権が掲げる危機管理投資・成長投資などの政策を、反対を押し切ってでも進められる。その期待感が市場で高まっている」と語っています。
一方、高市政権が掲げる積極財政政策により財政悪化が進む心配も強く、円安も進行しています。円が安くなると輸出企業の業績は上がるので株高につながりやすいのですが、物価があがる原因にもなるため、高市政権の支持率にもかかわってくる可能性があります。前述の黒瀬氏は、円安をとめるために日本銀行の利上げが前倒しされるのでは、という見方を示しています。円安の要因のひとつはアメリカに比べて日本の金利が低く、資金がアメリカに流出していることです。日本の金利をあげることでこの流れをとめ、円高をすすめるという効果が期待されています。
高市政権が誕生し、政治と経済の動きの連動性が高まっています。就活生のみなさんにとっても、今回の選挙結果は他人ごとではありません。有権者の方はぜひ考えて投票していただき、その結果に注目してほしいと思います。
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