国主導で振興をはかる
アニメやゲームなどのコンテンツ産業をめぐり、政府が国主導で振興をはかるため、新たな「司令塔組織」をつくる方針を固めたと朝日新聞が報じました。シンクタンク機能や補助金などの予算執行を担う組織になる方向といいます。
日本のアニメやゲームは世界的に高い評価を受けており、高市早苗政権はコンテンツ産業を「戦略17分野」のひとつに位置づけ、多額の投資を行う方針です。コンテンツ産業はIP活用を通じ、さまざまな業界にまたがる分野でもあります。コンテンツ産業にかかわりたい方もそうでない方も、日本のコンテンツ産業に対する取り組みの方針を知っておくことはとても重要です。今回の記事を機に、ぜひ現状を理解しておきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・サウジアラビアで開かれたイベントで日本のサッカーマンガ「ブルーロック」の展示の前で記念撮影する来場者たち。日本のマンガは世界各国にファンを増やしている=2025年8月/写真はすべて朝日新聞社)
コンテンツの海外売上高を6兆→20兆にする目標
日本のコンテンツの海外売上高は現在約6兆円ですが、高市政権はこれを2033年に20兆円にする目標を掲げ、官民で34兆円を投資する計画といいます。朝日新聞の記事では関係者の話として、この分野の政府の支出は今後5年間で年間1千億円超となる見込みだと報じています。政府は、この予算をどこにどう使うか考える役割を担う認可法人を設立するため、来年の通常国会での法案提出をめざすそうです。認可法人には民間から人材を集め、トップも民間から招く方針と朝日新聞は報じています。
政府が参考としているのが、おとなり韓国が2009年に設立した政府系の機関である「韓国コンテンツ振興院(KOCCA)」です。放送映像やK-POP、アニメ、漫画、ゲームなどのコンテンツの普及やビジネス活性化のサポートをする組織で、日本など国外に事務所を設けて相手の国にああわせたさまざまイベントや普及活動を手がけています。7人組グループBTSが世界的な人気を博したり、韓流ドラマが日本だけでなく世界的にも有力なコンテンツになったりした背景には、こういった政府の後押しがあったわけです。
クールジャパン機構は廃止の方向
日本も遅ればせながら、コンテンツ市場拡大のサポートに政府が本腰を入れるようになった――という動きに見えますが、実はすでに日本には、コンテンツを海外に売り込む司令塔組織「クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構、CJ機構)」という組織があるのです。しかしこの組織は巨額の累積赤字を抱え、所管する経済産業省が廃止に動き出したと報じられています。いったい、何があったのでしょうか。
CJ機構は安倍政権下の2013年、日本のアニメなどのコンテンツを海外に売り込むことを成長戦略とし、その司令塔として設立された官民ファンドです。2025年に開業したテーマパーク「ジャングリア沖縄」を手がけた企業に出資していることでも知られています。
ただ、機構は設立当初から赤字を積み上げていきました。そもそも、「官民ファンド」という仕組みに無理があった、という指摘があります。おいしい事業は民間が抱え込んでしまうため、政府側はリスクマネーを投じるばかりで回収ができないという構図が生まれました。
「クールジャパン」というとアニメやゲームを思い出す方が多いと思いますが、CJ機構の投資状況はエンタメなど「メディア・コンテンツ」は27%に過ぎず、一番ボリュームがあるのが「ライフスタイル」の36%。「食」も11%を占めています(2025年11月)。朝日新聞の報道によれば、設立当初はアニメやマンガなどのエンタメの輸出をがんばろうとしていたのですが、有力な投資先は民間がすでに手をつけていたため、エンタメ以外に投資先を広げざるを得なかったそうです。先端繊維などの事業に投資しましたが、残念ながら多額の損を出す結果に終わりました。
(写真・投資の失敗が続くクールジャパン機構の開所式。成長戦略の一つとして、当時の安倍政権が大々的に打ち出した=2013年11月)
経団連は日本のコンテンツ「深刻な危機」と定義
さらに、事業を選ぶ目利きができる優秀な人材がいなかった、という指摘もあります。報酬水準は霞が関の省庁の事務次官レベルを上回らないような設計にしたといい、人材確保に難儀したと報じられています。10年あまりで積み上がった累積赤字は540億円に達し、ついに廃止の議論が伝えられるようになりました。赤沢亮正・経産相は会見で「第一義的な責任は経営陣が負っている。経産省としては監督する者として責任がある」と発言しています。政府が新たな司令塔組織をつくるにしても、CJ機構の失敗を検証し、その失敗を繰り返さないようにする必要があるのです。
コンテンツ産業成長への後押しを提言する経団連は、日本のコンテンツは「深刻な危機に直面している」とみています。経団連のクリエイティブエコノミー委員会委員長を務める、ソニー・ミュージックエンタテインメント社長の村松俊亮氏は朝日新聞のインタビューに対して、日本のコンテンツはチャンスロスしている部分があると感じているといいます。たとえばマンガにしても、最近流行している縦読みマンガについては韓国のほうが先進的に取り組んでいると村松氏は指摘します。経団連は、CJ機構のように手を広げず、注力する分野をマンガ、アニメ、音楽、ゲーム、実写映画・ドラマという5分野に絞って提言しています。
韓国は「支援はするけど中身に口は出さない」
各コンテンツの課題について村松氏は、たとえば映像系は制作費に困窮しているし、マンガは海賊版対策や翻訳のコストなどが問題になると語っています。さらに、すべての分野に共通している課題は「人材育成」と指摘。クリエーターとサポートするプロデューサー的な人材が必要として、「芸術大学などはありますが、経済的に意義のあるコンテンツを実際に創出できる人材を育成する機関が求められています」と語っています。
売れるコンテンツをつくる人材の育成といっても、『鬼滅の刃』や『ちいかわ』といったコンテンツをつくる人を育てるのはそう簡単な話でないことは想像がつきます。そもそもアニメやマンガ産業にたずさわるクリエーターの待遇、仕事環境は整備されているとはいえず、多くの関係者が作り手の環境を改善すべきと訴えてきています。育成も重要ですが、いまこの産業に飛び込もうとしている人たちに希望を与えられるよう、作り手の待遇改善をすすめることが非常に重要な課題だと考えられます。
韓国のコンテンツ産業強化を推進した金大中・元大統領は、「支援はするけど(事業の中身には)口は出さない。干渉しない」ということを常に強調していたとも言います。隣国の成功例をしっかり検証し、CJ機構の失敗を繰り返さないように日本のコンテンツ産業を広げていく政策が今後求められていくでしょう。コンテンツ産業の活性化は、みなさんの社会人生活にも影響を与えていくかもしれません。ぜひこれからもニュースをチェックしつづけてください。
(写真・東京駅の一日駅長に就任した「ちいかわ」(右)=2026年6月10日)
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