AI進化で雇用奪われる?
ここ数日ニュースをにぎわせている「協調介入」という言葉。円安是正のために日米両政府が動き、円買いでの協調介入は28年ぶり――と言われても、つまり何が起こっているのか、何のために誰が介入しているのか、ぴんとこない人も多いのではないでしょうか。
今年に入ってからの円安は「歴史的」な水準と言われています。円安・円高の動きは海外旅行の行きやすさや物価の動向にかかわるだけでなく、今後の日本経済のありかたまでも大きく左右します。28年ぶりに行われた「協調介入」の動きを知って、社会に出ても役立つリテラシーをぜひ身につけていきましょう。
来週の就活ニュースペーパーは「28年卒の学生ルポ」以外のコンテンツは更新をお休みさせていただきます。充実した夏をお過ごしください。
(編集部・福井洋平)
(写真・記者団の取材に応じる片山さつき財務相=2026年8月3日、東京・霞が関の財務省/写真、図版はすべて朝日新聞社)
円をドルに替えたい人が増える=円安
まず、為替市場における「介入」とは何なのでしょうか。
為替相場は、たとえば円・ドル相場なら1ドル=○○円○○銭という形であらわされる、通貨同士の交換比率のことです。円・ドル相場は1973年から「変動相場制」という、毎日需要と供給のバランスによって相場が決まる仕組みで動いています。円をドルに替えたい人が増えたらドルの価値は上がって円の価値は下がり(円安)、逆にドルを円に替えたい人が増えればドルの価値は下がって円の価値は上がります(円高)。
ちなみに「今日の東京外国為替市場は1ドル=○○円○○銭」というニュースをよく耳にしますが、株が取引されている証券取引所と違い、東京外国為替市場という特定の場所や建物があるわけではありません。取引はすべて売り手と買い手が直接やりとりして価格や数量を決めて決済まで行う「相対取引」で、電話や電子機器を通じて行われています。ニュースで扱われる円・ドルのレートは、銀行間が取引を行う「インターバンク市場」での数字を指すことが一般的です。
(写真・ドル円相場が1ドル=155円台に急騰したことを示すボード=2026年8月3日)
【為替介入】財務大臣が決定、円安止める場合はドルを売る
今年初めは1ドル=150円台で動いていた円相場ですが、7月下旬には1ドル=163円台まで下がりました。これは1986年12月以来、じつに39年半ぶりのことといいます。急激な円安の原因は7月の就活ニュースペーパー「円安が急激にすすむ 一時は約40年ぶりの円安水準に いったいなぜ?」で詳しく触れましたが、中東情勢の混乱で超大国アメリカの通貨の人気が高まったこと、アメリカが金利を上げる可能性が高まり円を売ってより儲かりそうなドルを買う動きが強まったことなどがあげられます。
円安があまりに進むと、輸入品の値段が上昇します。多くの食料やエネルギー資源を輸入に頼る日本では物価高につながることもあり、急激な円安は決して好ましいものではありません。「就活ニュースペーパー」の記事では、政府・日本銀行がこの円安を止めるため「為替介入」を行う可能性についても触れています。これは政府・日銀が外国為替市場で円やドルなどの通貨を大量に売り買いすることで、円安を抑える場合はドルを売って円を買うことになります。為替介入の決定権は、財務大臣がもっています。
なお、ドルを売って円を買う場合、政府が持っているアメリカ国債を売るなどしてドルを調達し、そのドルを売って円を買うことになります。この資金は財務省が管理している「外国為替資金特別会計(外為特計)」で管理されており、1兆ドルあまりあります。あります。ドルを買うのは、この資金の範囲内に限るということです。4~5月には総額11.7兆円の為替介入を行いましたが、円安傾向を止めるには至りませんでした。
【協調介入】円買い介入は28年ぶり アメリカは中間選挙にらむ?
今回行われた「協調介入」とは、日本とアメリカが足並みをそろえて為替介入を行うことです。日米が協調介入するのは2011年の東日本大震災後に円売りをして以来15年ぶり、円安を止めるための円買いの協調介入は、金融危機があった1998年以来実に28年ぶりのことです。為替市場に対する影響は日本が単独で行う介入に比べて格段に大きいとされ、8月3日には片山さつき財務大臣が日米協調介入を認める大臣談話を発表し、この日には一時1ドル=155円20銭まで円高ドル安が進みました。アメリカのベッセント財務長官もSNSで、円の大幅な過小評価を是正するための日本の措置を「強く支持する」と表明しています。
今回なぜ、アメリカは28年ぶりの円買いに踏み切ったのでしょうか。前回は通貨危機という特殊事情だったことを考えると、今回の協調介入は異例の事態といえます。ベッセント財務長官は4日、アメリカのテレビのインタビューで、円の大幅な下落がアジアのほかの通貨にも波及する可能性があるとし、「円の安定は米国だけでなく、地域全体にとっても非常に重要だ」と介入の理由を語っています。トランプ米大統領は介入について「友情の証しだ」と述べていますが、これらの言葉を額面通りに受け止める人は少ないようです。円安阻止は、トランプ政権にとっても有利な材料になるためです。
円が安くなれば、日本からアメリカへの輸出品を安く売ることができるようになるため、日本の輸出業者にとっては有利になります。この状況に対する警戒感がアメリカにはあるとみられているのです。また、円安は物価上昇をもたらし、長期金利の上昇にもつながります。これがアメリカの長期金利上昇にも波及することで住宅ローン金利などが上昇し、国民の不満につながるという観測もあります。いずれにせよ、今年11月に控えている中間選挙をにらんで、トランプ政権が人気取りのために介入したのではないか、とみられているのです。
【円安は続くか】高市首相の財政拡大路線続けば円安も続く?
日米の協調介入により大きく円高が進んだ外国為替市場ですが、引き続き円を売る圧力は強く、再び円安の流れになっています。市場では、「根本的な原因」が解消されない限り、円安の流れはかわらないという見方が強いようです。
根本的な原因のひとつは、高市早苗首相がすすめる財政の拡大路線です。高市首相は就任当初から「責任ある積極財政」を掲げ、17の成長戦略分野を定めて官民が2040年度までに総額370兆円の巨額投資を進める方針を示すなど、大胆にお金を投じる姿勢をみせています。さらに食料品の消費減税も決めましたが、かわりの財源については明確に示していません。財政は大丈夫だろうかという不安から、円を売る動きが強まっているのです。また、アメリカでは利上げ観測が高まっている一方、高市政権が日銀利上げに否定的とされていることから、日米の金利差が開く可能性があることも原因のひとつです。アメリカの金利が相対的に高くなれば、アメリカに資金が集まり、円が売られることにつながるわけです。
円が安定して高くなるためには、投資がうまくいって日本が高成長の路線に乗り、財政への信頼感が高まることが欠かせません。すぐに結果が出るものではなく、長い目でチェックしていく必要があります。皆さんの会社選び、今後の社会人人生にも影響のある動きです。今回の「協調介入」を機にぜひ円相場や日本の財政状況にも高い関心をはらうようにしてください。
(写真・経済財政諮問会議・日本成長戦略会議合同会議で発言する高市早苗首相=2026年7月21日)
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