AI進化で雇用奪われる?
仕事や生活に幅広く浸透し、いまや欠かせないインフラになった感もあるAI(人工知能)。生産性の向上にもつながり、データセンターや半導体などAI関連事業への巨額の投資が株価の上昇にもつながっています。しかし一方で、AIの進化はこれまで人間がやってきたさまざまな仕事を奪うことにつながり、雇用を減らしかねないという心配材料もあります。また、アメリカなど海外が主戦場となっているAI開発競争にどう日本が立ち向かっていくのかについてもウォッチしていく必要があります。
みなさんの就職活動、これからの働き方に、AIはこれからどのように影響していくのでしょうか。幅広く関連ニュースをチェックし、考えるくせを身につけていきましょう。(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)
【AI投資】株高を牽引するAI関連企業
景気の良し悪しをはかる指標のひとつである株価は、一昨年以来史上最高値を更新しつづけ、今年はついに日経平均株価の終値が一時7万円台に到達しました。その好調な株式市場をひっぱっているのが、AI関連の株です。
世界を席巻しているAIの開発には巨額の費用が必要です。いまはグーグル、アマゾンやマイクロソフト、メタ、オラクルといった、データセンターやクラウドサービスを提供するアメリカのIT大手=「ハイパースケーラー」がこの巨額の費用を投資し、AI市場の覇権を争っています。半導体メーカーやAI搭載のロボット開発企業などのAI関連企業はその恩恵を受け、業績が向上。積極的なAI投資を進めるソフトバンクグループ、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス、半導体検査装置大手のアドバンテスト、半導体製造装置大手の東京エレクトロン(TEL)、AIデータセンターに欠かせない光ファイバーなど電線・通信機器大手のフジクラ、AI搭載ロボット開発をめざすファナックなどが日本の株式市場を牽引しています。メーカーを志望している就活生は、企業の強みとAIとの関係性についてもぜひ調べて、今後の成長性を判断する材料にしてください。
(写真・キオクシアホールディングスのロゴ/朝日新聞社)
7月中旬には株価急ブレーキも
ちなみに日本銀行が3カ月ごとに全国9地域の経済状況をまとめる地域経済報告(さくらリポート)で、最新の7月の報告では9地域の景気判断は「緩やかに回復」「持ち直し」「緩やかに持ち直し」で、すべての地域で前回4月の判断から据え置きとなりました。データセンター関連製品などの需要が活発で、AI需要が経済を底上げしているとみられています。
一方、好調に推移していた株式市場は、7月中旬に急ブレーキがかかります。7月17日には2694円42銭値下がりし、史上5番目の下げ幅となりました。6万5千円台を割り込むのは、約1カ月ぶりです。前日のアメリカ・ニューヨーク取引市場では、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の公表した設備投資計画への懸念が高まったことからハイテク株を中心に株価が下落。それが東京市場にも波及した形です。キオクシアホールディングスはこの日だけで16%超下落しました。株価が激しく上昇したのちに、AI投資の回収に対する懸念をきっかけに売られるということが、これまでも度々繰り返されています。IT関連企業の動きで今後も株式市場の動向、景気の動きは大きく変化していくと予想されます。日々の株式市場の動きにもぜひ注目してください。
【AI主権】クロード・ミュトスが主権を脅かす?
さて、AIはご承知のとおり、アメリカを中心に海外が開発競争の主戦場となっています。日本はAIを使う側になっているわけですが、AI依存度が高まっていくと、国力の基礎を海外メーカーに頼ってしまうことになりかねません。この状況に対して政府が打ち出したのが、「AI主権(AI Sovereignty)」という考え方です。これは、「特定の国や企業への過度な依存を避け、様々なAIを継続して使える状況を保つ(戦略的自律性)」「強みを生かした独自のAI開発力で、日本の存在が必要だ、という状況を強化する(戦略的不可欠性)」といった考え方をさします。
この考え方が議論されていた今年6月には、日本のみならず世界中が「AI主権」の重要性を意識させられる出来事が起きました。アメリカ・アンソロピック社の高性能AI「クロード・ミュトス」について、アメリカ政府の命令により、外国人の使用が突然停止されたのです。
ミュトスはあまりに性能がよすぎてサイバーセキュリティーの弱点を見つける能力が飛躍的に高まっているため、アンソロピック社は当初、公開を見合わせていました。逆にうまく使えばサイバー防御に活用できるということで、日本が米国政府と交渉し、日本政府やメガバンクが使用できる見通しになっていました。ところが、その10日後、米政府が外国人使用を改めて制限したのです。今後、さらに高性能になり圧倒的なサイバー攻撃能力を持ったAIをどこかの国が独占的に使えるようになってしまうと、国防上の大問題にもなりかねません。「AI主権」という考え方が必要になってきた背景にはこういった技術のとんでもない進化があるのです。
(写真・米アンソロピックのAIモデル「クロード」のロゴ=2026年6月10日、東京都内/朝日新聞社)
【フィジカルAI】「ノエトラ」設立、フィジカルAI勝ち筋に
日本政府は「AI主権」という考え方のもと、特定分野に特化した「バーティカルAI」と、ロボット産業の強みを生かせる「フィジカルAI」を「勝ち筋」に設定しました。このうちフィジカルAIは、実世界の物理法則などを理解したAIで、高機能のロボットや自動運転の車が社会に浸透するために重要な技術とされています。この技術が進歩すれば、いずれ四次元ポケットのないドラえもんが誕生するかもしれないわけです。政府も2040年度までに官民でバーティカルAIに23.1兆円、フィジカルAIに10.5兆円を投資すると想定しており、官民一体となってこの分野で頭ひとつ抜け出そうとしているわけです。
このフィジカルAI分野を牽引する会社として設立されたのが「ノエトラ(Noetra)」です。ソフトバンク、NEC、ソニーグループ、ホンダの4社が中心となって2026年1月に新しく設立され、社長にはソフトバンクの幹部が就任しました。出資する企業は公表されているだけでも下記のとおり、IT・電機のほか金融、物流、化学メーカーも名前があがります。いかに幅広い業種がフィジカルAIに注目しているかがわかります。みなさんの志望企業も含まれているかどうか、ぜひチェックしてみてください。また、ノエトラと共同研究する国の研究所には、政府も2030年度までに1兆円規模の支援をする見込みです。
旭化成、SGホールディングス(HD)、オークマ、OKI、オムロン、鹿島、川崎重工業、KDDI総合研究所、神戸製鋼所、Sakana AI、島津製作所、シャープ、JERA、JFEスチール、住友生命保険、ソニーグループ、ソフトバンク、第一三共、ダイキン工業、大和ハウス工業、DMG森精機、東京エレクトロン、東芝、TOPPANHD、日本製鉄、日本生命保険、NEC、日立製作所、ファナック、富士通、Preferred Networks、ホンダ、松尾研究所、みずほ銀行、三井住友海上火災保険、三井住友銀行、三菱電機、三菱UFJ銀行、村田製作所、安川電機、ヤマザキマザック、楽天グループ
(写真・事業内容を説明するノエトラの丹波広寅社長(中央)ら=2026年7月16日、東京都港区/朝日新聞社)
【雇用を奪う】経済学者ら「大規模な雇用喪失のリスクもたらす」
AIの進化が世界を大きく変えていこうとしているなかで、雇用が奪われるという懸念もひろがっています。ノーベル経済学賞受賞者16人を含む経済学者ら200人超は7月13日、AIが「大規模な雇用喪失のリスクをもたらす」と懸念を示す共同声明を発表し、政策や制度づくりを急ぐ必要があるとしました。
すでにアメリカでは、メタが従業員の1割に当たる約8千人を削減する計画を明らかにし、マイクロソフトも7%に当たる約9千人を対象に早期退職を募っています。業績好調な両社の人員削減は、AI投資の資金をひねりだすためと見られています。
日本経済新聞7月20日の記事「エンジニア賃金、二極化」では、ITエンジニアのなかでも全体的な進行を担ういわゆるプロジェクトマネジャーと、発注を受けてコードなどを制作するエンジニアとでは、単価の差が大きく開きつつあるという調査結果を紹介しています。今後どういった仕事がAIによって奪われるのか、逆に奪われない仕事は何なのか。いまは常に考えておかなければいけないテーマだと感じます。幅広くニュースをチェックして、感度を磨いておきましょう。
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