「静岡工区」着工にゴーサイン
東京・品川と名古屋を最速40分で結ぶ「リニア中央新幹線」。すでに工事は始まっていますが、南アルプスを貫くトンネル工事のまんなかにあたる「静岡工区」が静岡県の反対により、長年着工できないままになっていました。しかし7月7日、静岡県知事が着工を認める方針を県議会で表明し、リニアは完成に向け大きく動き出すことになりました。
もともとは2027年、つまり来年にも開業予定だったリニア中央新幹線ですが、静岡県の反対以外にも高架橋や駅の工事が遅れ、建設コストもふくらんでいます。そもそもリニアはなぜ造られることになったのでしょうか。リニアができることで、日本はどう変化するのでしょうか。就活生の皆さんはもしかしたら頻繁に使うことになるかもしれないリニアについて、この機会にぜひ整理してみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真・リニア中央新幹線の先頭車両=2021年10月8日、山梨県都留市/写真、図表は朝日新聞社)
【リニアとは】品川―名古屋を40分で結ぶ構想
そもそも、リニア中央新幹線とは何か、基本的なことから整理しましょう。
リニア中央新幹線の工事がはじまったのは2014年、いまから12年前です。東京都の品川駅から神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜の各県を通過し、愛知県の名古屋駅までの286キロを結ぶ路線です。いま東京と名古屋の間は東海道新幹線が走っていますが、海寄りを走る新幹線と違い、リニアは中部地方の山岳地帯をほぼ直線的に突っ切って結ぶルートで、全区間のうち86%がトンネルになる予定です。現在新幹線のぞみで東京・品川から名古屋までは約1時間30分かかりますが、リニアが完成すれば品川―名古屋間は40分で結ばれることになります。将来的には大阪までの延伸が予定され、品川―大阪間は最速67分と現在の約2時間20分の半分以下の時間で結ばれることになります。
これだけのスピードアップができる理由は、リニアの走行方法にあります。新幹線などの鉄道はレールの上を車輪で走りますが、スピードが上がると車輪が空転してしまいます。一方のリニアは、磁石が引き合ったり反発したりする力により、「ガイドウェイ」と呼ばれるU字形の走行路を浮かんで走ります。このため、新幹線を大きく上回る時速500キロでの走行が可能になっているのです。磁石により超高速で走るリニアの開発は古く1962年に始まり、1979年には宮崎の実験線において無人で当時の世界最高スピードである時速517キロを記録。2003年には山梨実験線で、人を乗せた状態でこれも当時の世界最高速度である時速581キロを記録しています。
【なぜつくる?】災害をみすえ、三大都市圏の融合も
中央リニア新幹線を建設しているのは、東海道新幹線も運営しているJR東海です。実は、いま建設が進んでいる北海道新幹線(新函館北斗―札幌間)などほかの新幹線と違い、リニアは税金を使わず、JR東海が単独で建設することになっています。ただし、名古屋から先、大阪までの開業を前倒しにするため、国が3兆円を低い利息で貸し付けています。
JR東海はリニアをつくる理由について、東海道新幹線は開業から60年以上が経過し、経年劣化や南海トラフ巨大地震などの大規模災害に対する抜本的な備えが必要だ、と説明しています。また、中央リニア新幹線は駅も地下にあり、路線もほとんどがトンネルのため、地震はもちろん雨や雪、風といった気象による影響を受けにくく、東西を結ぶ大動脈を二重化できると期待されています。さらに、東京・名古屋が最速40分、東京・大阪間が最速67分で結ばれることで、首都圏・中京圏・近畿圏の三大都市圏がひとつになり、「経済の活性化だけでなく、豊かで多様な暮らしの実現」も可能になるとJR東海はうたっています。
【遅れの原因】「命の水」が枯れると静岡が猛反発
リニアは当初、2027年に品川―名古屋間が開業する予定でした。しかし大きな障壁となったのが、静岡県の反対姿勢です。リニアのルートには、山梨、静岡、長野3県にまたがる南アルプストンネル(25キロ)がありますが、このうち真ん中にある静岡工区(8.9キロ)をめぐり、静岡県は大井川の水量が減ったり、南アルプスの自然環境に悪影響が出たりする恐れがあるとして、着工を認めてきませんでした。静岡県の川勝平太・前知事は、大井川を「命の水」と表現し、工事着工を認めない姿勢を崩しませんでした。
その背景には、リニア沿線の7都県で唯一、静岡県だけが駅がないということもあげられています。リニアは静岡県内はほぼ人の住んでいない場所を通るためやむをえないともいえますが、リニア開通で県内に6つの駅がある東海道新幹線の利便性がいまより下がる可能性が高いことを考えると、静岡が自分たちにメリットがないと考えるのも無理はなかったといえます。JR東海の幹部は朝日新聞の取材に対し「静岡は駅ができないため、当初は地元への説明が足りなかったことは否めない」と振り返っています。
県の姿勢が変わるきっかけは2年前、反対派の急先鋒だった川勝前知事が辞職し、リニア「推進」を掲げる現在の鈴木康友知事が就任したことです。最大の課題だった水問題については、大井川上流の田代ダムの取水量を制限して川の水量を維持する案などをJR東海が提示し、2026年1月には県とJR東海が補償に関する確認書を結びました。また、リニア開業時には静岡駅と浜松駅に止まる新幹線「ひかり」を増便する方針をJR東海側が伝えるなど、関係改善を進めた結果、今回の着工容認に至りました。
【今後どうなる】建設費はすでに当初見込みの2倍に
とはいえ、リニア開業までのハードルはまだまだ高そうです。まず、開業がいつになるのかいまだに決まっていません。当初の2027年開業案はすでに撤回されていますが、難工事が予想されている南アルプスのトンネルは完成に10年はかかるとみられているため、すぐに着工しても開業は2036年以降になります。
すでに工事が始まっているところでも、周辺の井戸やため池が枯れる、道路が隆起するなどさまざまな問題が起きています。くわえて、建設費用の高騰もネックです。建設開始当初は5.5兆円と見込んでいたのですが、2021年には7兆円に、さらに2025年には資材費や人件費の増加などもあって11兆円になりました。つまり、当初の倍ということです。JR東海が単独で進める工事とはいえ、国から低い利息で3兆円を借り受ける案件でもあり、工事の成否が国のゆくすえ、活動に大きな影響を与えることは間違いありません。
開発開始から60年以上、建設開始からも10年以上が立ったリニア。その間にコロナ禍があり、リモートワークやオンライン会議が市民権を得て、旅客需要は減少傾向にあります。これから10年以上たった将来、完成したときにリニアは日本にどういう変化をもたらすのか、想像が及ばない部分もあります。就活生のみなさんにとっては身近な存在になるであろうリニアについて、ぜひこれからもチェックをしてほしいと思います。
(写真・リニア中央新幹線・神奈川県駅(仮称)の建設工事現場=2026年6月)
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