知的財産の重要性は年々高まる
知的財産(知財、IP)の重要性は年々高まっています。特にAI(人工知能)の広がりとともにIPを守るための取り組みは急務となり、政府もIPを守るための仕組みづくりを急いでいます。コンテンツ分野を「戦略17分野」とする日本は、これからどのようにIPづくりや育成、保護と向き合っていくのでしょうか。ビジネスを考えるうえで欠かせないIPについて考えてみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)

2026年06月18日
知的財産(知財、IP)の重要性は年々高まっています。特にAI(人工知能)の広がりとともにIPを守るための取り組みは急務となり、政府もIPを守るための仕組みづくりを急いでいます。コンテンツ分野を「戦略17分野」とする日本は、これからどのようにIPづくりや育成、保護と向き合っていくのでしょうか。ビジネスを考えるうえで欠かせないIPについて考えてみましょう。(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)
政府は6月、「知的財産推進計画2026」をとりまとめました。主な注目ポイントは下記のとおりです。
・海賊版・模倣品対策の強化
・権利者がまとまって訴訟を起こせる仕組みづくり
・歌手や声優らの「声」の無断利用への対応
・知財や無形資産への投資促進
最初の項目は特に今後、重要となってきそうなポイントです。日本が強みとし、国の「基幹産業」と位置づけられているアニメやマンガですが、動画投稿サイトや海賊版サイトでの無断使用の被害があとをたちません。経済産業省は1月、アニメやマンガなど日本発のコンテンツについて、オンラインの海賊版による被害額が2025年は約10.4兆円に上ったとの調査結果を発表しました。このうちデジタルコンテンツの被害額は約5.7兆円で、2022年の前回調査から3倍近くに拡大しています。
知財の分野では、たとえ権利を持っている側が侵害した側を訴えて賠償金を払わせたとしても、侵害で得た利益のほうがそれを上回るという、いわば「侵害したもの勝ち」になるケースがあると指摘されてきました。これを踏まえて計画では、知財を侵害した側の利益を奪い取る民事上の「救済措置」導入を検討する、としています。
(写真・知的財産戦略本部会議で発言する高市早苗首相(中央)=2026年6月12日/朝日新聞社)
またこの計画では、複数の権利者が持つ知的財産権を集約し、交渉や訴訟をしやすくする仕組みをつくるとも記載されています。
知的財産を侵害してくるのは、場合によっては海外の巨大な企業となります。日本の企業や、個人クリエイターなどが対抗するには資金面や言語面からもかなりハードルが高くなります。集団で交渉や訴訟を起こせるようにする仕組みを整備することで、訴訟を行いやすくするねらいがあるとみられます。
特にいま懸念されているのは、生成AIの進化による著作権侵害の問題です。ご存じのように、生成AIはウェブ上にあるデータをかきあつめて新たなコンテンツを生み出します。日本のアニメ界を牽引してきた「スタジオジブリ」のタッチを模倣した絵などが、生成AIによって乱造されるようになりました。生成AI側に対して訴訟を起こす動きも出てきており、たとえば朝日新聞社と日本経済新聞社は記事を無断で利用され、著作権を侵害されたなどとして、生成AIを手がける米国の新興企業パープレキシティに記事の複製の差し止めや削除、1社あたり22億円の損害賠償などを求める裁判を起こしています。日本政府が集団訴訟を起こせる仕組みを整えることで、こういった生成AIを擁する巨大企業との交渉がしやすくなり、がんばってつくりだしたコンテンツをAIに盗まれた……と泣き寝入りしなくてもすむようになることが期待できます。
AIとの関係では今回の計画で、「声」の権利を保護するための法的整理を検討する、とも記載されました。AIを使って著名な歌手や人気アニメキャラクターの声にそっくりの音声を生成し、動画などに使うケースが広がっていることを受けたものです。実は現状、著作権法では、声そのものの権利を保護することはできないとされています。そのため声優らが無断利用の被害を訴え、新法や法改正を求めていました。
知財や無形資産への投資促進も計画の大きな柱の一つに据え、企業がより積極的に知財に投資するよう促しています。具体的には今年度中に、企業の知財投資について指標となる「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」を改訂し、さらに企業が提出する「統合報告書」や「有価証券報告書」で、所有する知財について開示することも「検討する」としました。
(写真・団体の立ち上げ会見をした「声の保護と多言語化協会」=2025年11月19日/朝日新聞社)
政府は知財分野の主軸であるコンテンツ産業を自動車産業と並ぶ「基幹産業」と位置づけ、2033年までにコンテンツ産業の海外売上高を20兆円にする目標を掲げています。そういった動きのなかで2025年、アメリカの音楽賞「グラミー賞」の日本版をめざし、国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」が新設されました。今年6月には2回目の授賞式が開かれ、3人組の人気バンド「Mrs. GREEN APPLE」が2年連続で最優秀アーティスト賞に選ばれました。アニメやゲームに比べて日本の音楽コンテンツは海外市場での存在感が薄く、K-POPに圧倒的に出遅れているという危機感を背景に、日本の音楽業界が団結して誕生したとされています。高市早苗首相は授賞式の前夜祭に出席し、「(日本の音楽の)海外展開を、長期かつ戦略的に後押しをしてまいります」とあいさつしています。
一方で、ある大学教授は「過度に産業政策やビジネスの臭いを前面に押し、工業製品のように音楽をみなせば、音楽ファンはしらけてしまうかもしれません」とも指摘しています。儲かるコンテンツだけを重視する政府の姿勢が、はたして豊かな、世界に通用するようなコンテンツの成長につながるのか、慎重に見極める必要があるでしょう。政府はコンテンツの開発を支援する事業「IP360」も展開していますが、基本的に大型の作品が支援対象になるとされており、映画監督の是枝裕和さんが「最も支援を必要としている次世代の才能に対し、(支援の)空白地帯が生じてしまうのではないか」と懸念を表明しています。
(写真・コンテンツ産業官民協議会・映画戦略企画委員会に臨む映画監督の是枝裕和氏(中央)=2025年2月13日/朝日新聞社)
コンテンツ産業に関しては、その担い手であるクリエイターに関して、十分なギャラが保障されていないという現状も浮き彫りになっています。アニメや映画といったコンテンツ産業の多くが「多重下請け構造」になっているためです。
公正取引委員会が昨年12月に公表した調査結果によると、アニメでは作画などを手がける人の52.1%、映画では監督や照明など89.4%のクリエイターが報酬水準に「満足していない」と回答したそうです。「物価の上昇に追いついていない」「そもそもの報酬/単価が低い」といった理由が多く、交渉しても納得いく水準まで達しなかったり、交渉に応じてもらえなかったりする状況もあると指摘されています。また別の分析によると、2022年のアニメの国内売上高のうち、実際にアニメをつくっている制作会社へ配分されたのは18%。海外では6%にとどまるといいます。多くは、上流部の製作委員会などに流れているそうです。これからコンテンツ産業が盛り上がっていくためには権利の保護といった方策に加えて、担い手であるクリエイターの生活水準がしっかりあがっていくことも必要です。
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