防衛装備移転三原則の運用指針を見直しへ
アメリカがイラン攻撃に踏みきり、連日ニュースを騒がせていますが、日本でも大きな国の方針転換に向けての議論が進んでいます。高市政権のもと、武器輸出を規制する防衛装備移転三原則の運用指針を見直そうとしているのです。「平和国家」として国際的な信用を築いてきた日本が、大きな曲がり角にさしかかろうとしています。
アメリカのトランプ大統領はイランが影響力をもつホルムズ海峡への艦船派遣をめぐり、一時日本にも協力を要請してきました。高市首相は訪米し、現地時間19日(日本時間20日未明)にトランプ氏との会談に臨みます。日本の今後の方向性、景気の動向にもかかわる大きなテーマですので、ぜひいま何が起ころうとしているのかをニュースをチェックして把握しましょう。(編集部・福井洋平)
(写真はiStock)
【武器輸出規制の歴史】1976年から事実上禁輸も
まず、現在高市政権が見直しをすすめている「防衛装備移転三原則」とは何か、確認しましょう。
日本は憲法9条で戦争放棄を定めている平和国家です。そのスタンスのもと、武器の輸出を厳しく規制する政策をとってきました。
戦後は一時期武器製造が禁止されていましたが、1950年に朝鮮戦争が始まると米軍の発注で弾薬などの生産を再開しています。1967年には、当時の佐藤栄作内閣が①共産圏②国連決議で禁じられた国③国際紛争当事国、またはその恐れのある国の3つに対して武器の輸出を禁止する方針を示しました。これを「武器輸出三原則」といいます。さらに1976年には当時の三木武夫首相が、事実上全面禁輸の方針を明らかにしました。
ただここから、規制は徐々に緩んでいきます。1983年には中曽根康弘内閣が米国向けの武器技術供与を容認。そのあともさまざまな例外化がつづき、2011年には民主党の野田佳彦内閣が三原則そのものを緩和して、国際共同開発などにおける輸出を認めるようになりました。
(写真・三木武夫元首相/朝日新聞社)
【防衛装備移転三原則】輸出目的は「5類型」にしぼる
現在の「防衛装備移転三原則」は、2014年の安倍晋三内閣時に策定されました。これは、
① 紛争当事国などを除く
② 輸出を認める場合を限定し厳格に審査する
③ 目的外使用や第三国移転の事前同意を相手国に義務づける
の3つの原則で、また運用指針で国産装備品の輸出目的を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」のいわゆる「5類型」に限る、としました。
自民党はながらくこの5類型撤廃をめざしてきましたが、連立を組む公明党の反対で実現できませんでした。今回、高市政権のもとで公明党が離脱し日本維新の会と新たに連立を組むことで、撤廃に向けて一気に動きだしたわけです。自民と維新は5類型を撤廃し、殺傷能力のある武器の輸出を全面的に可能にする提言を打ち出しています。武器の輸出先は、日本と防衛装備移転協定を結ぶ国(現在は17カ国)とするほか、現在戦闘が行われていると判断される国への武器輸出は「原則不可」ながら、政府が「特段の事情がある場合」と判断すれば、例外的に輸出可能としました。
(写真・いわゆる「5類型撤廃」に関する提言を高市早苗首相に提出した自民党の浜田靖一(中央左)、日本維新の会の前原誠司(同右)の両党安全保障調査会長=2026年3月6日/朝日新聞社)
【見直しの狙い】防衛産業発展させ経済成長につなげる
見直しの狙いは、2点あるとされています。1点目は、同盟国・同志国との防衛協力を深めることです。
日本の武器は、各国から高い関心が寄せられているそうです。武器を輸出するとメンテナンスなども必要となり、むこう数十年にわたって相手国との関係を強めることができます。
もう1点が、武器輸出の拡大によって日本の防衛産業を発展させ、経済成長につなげるという狙いです。防衛産業はいま、世界的に活性化しています。高市政権は集中的に投資する17の「戦略分野」のひとつに防衛産業をあげており、国がバックアップしてこのマーケットに食い込もうとしているのです。
高市政権は安全保障政策を抜本的に強化すると打ち出し、そのために防衛費を大幅に増やそうとしています。財源はどうするのか、という問題に対して、武器輸出を広げて経済成長につなげるという理屈でかわそうという狙いも背後にあるとみられています。
(図版は朝日新聞社)
【歯止め策】国会の関与も必要か
防衛力を強化し、経済成長にもつなげたいという意図は理解できますが、一方で武器輸出を厳しく規制することで築いてきた「平和国家」というブランドを捨てていいのかという疑問も残ります。かつて三木武夫首相のもとで外務大臣をつとめた宮沢喜一元首相は、「たとえ何がしかの外貨の黒字が稼げるとしても、我が国は兵器の輸出で金を稼ぐほど落ちぶれていない」という発言を残しています。公明党の西田実仁幹事長からこの発言に対する認識を国会で質問された高市首相は、「日本をとりまく情勢は厳しいものになってきている。同志国を増やして一緒に地域の安定を実現しなければいけない時代になっている。時代が変わったと感じる」と述べています。武器輸出を拡大することで日本の地位はどう変わっていくのか、国際的にどう日本は位置づけられるようになるのか、今後の動きに注意が必要です。
また、武器が歯止めなく輸出されれば、非人道的な使われ方をしたり、日本が紛争に直接的にかかわっているとみなされたりすることもありえます。現状、初めて輸出する武器についてはこれまで同様、国家安全保障会議(NSC)で審査する方針となっています。ただ、アメリカでは一定額以上の取引については、連邦議会の承認が必要とされているように、日本でもなんらかの形で国会がかかわるべきという意見もあります。拓殖大の佐藤丙午教授(安全保障論)は朝日新聞のインタビューで、輸出前に公開の場である国会で審査することは望ましくないとして、国会は事後検証に関与すべきだとし、「米国やドイツが参考になると思いますが、国会から委託を受けた調査機関が検証するのが理想的です」と述べています。
武器輸出の方針転換は日本の国際的地位を左右し、景気動向にも大きくかかわるテーマです。高い関心を持って、ニュースをチェックしてください。
(写真・参院予算委で、公明党の西田実仁幹事長の質問に答弁する高市早苗首相=2026年3月17日/朝日新聞社)
【イラン情勢】ホルムズ海峡に艦船派遣? 日本の対応は
武器輸出の議論が日本ですすむさなか、アメリカのトランプ大統領は3月14日、イランによる「ホルムズ海峡封鎖の試み」をめぐり、「中国、フランス、日本、韓国、英国など」と具体的な国名を並べて、ホルムズ海峡へ艦船を派遣してほしいという期待感をSNSで示しました。
日本政府はイラン情勢については、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」や、米軍の後方支援などが可能になる「重要影響事態」にあたらないとして、自衛隊の中東地域派遣には慎重な姿勢をとっています。しかし、トランプ政権からのプレッシャーを受け、日本はなんらかの立場を表明する必要にせまられています。ちょうどこのタイミングで高市首相は就任からはじめて訪米、トランプ大統領と会談します。苦しい立場ではありますが、高市首相の政治家としての力量が問われる局面になるでしょう。
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