イラン最高指導者のハメネイ師が死亡
アメリカとイスラエルが中東の大国であるイランを攻撃し、最高指導者のハメネイ師を殺害しました。イランも報復攻撃に出て、中東情勢は混迷の一途をたどっています。日本への影響も避けられません。なぜアメリカはイランを攻撃したのか、日本はこれからどうしていくべきなのか。グローバル化がすすむ社会を生きる人間として、しっかりチェックしていくべきニュースです。まずはこの記事で基本的情報をつかみましょう。(編集部・福井洋平)
(イラストはiStock)

2026年03月06日
アメリカとイスラエルが中東の大国であるイランを攻撃し、最高指導者のハメネイ師を殺害しました。イランも報復攻撃に出て、中東情勢は混迷の一途をたどっています。日本への影響も避けられません。なぜアメリカはイランを攻撃したのか、日本はこれからどうしていくべきなのか。グローバル化がすすむ社会を生きる人間として、しっかりチェックしていくべきニュースです。まずはこの記事で基本的情報をつかみましょう。(編集部・福井洋平)
(イラストはiStock)
アメリカとイランの関係については、2025年6月の時事まとめ「アメリカがイラン核施設攻撃→イスラエルとイラン停戦 今後何が起こるのか? 基本からまとめ」でも解説しています。改めて、長年にわたる対立の構造をまとめます。
・中東の国イランは国土は日本の4.4倍で、人口は約8900万人。人口の多くはペルシャ人で、サウジアラビアやイラク、パレスチナなどにいるアラブ人とは違うことに注意が必要です。国教はイスラム教シーア派で、イスラム法学者が統治する政教一致の体制です。最高指導者が権力の頂点に位置づけられ、国政の重要事項についての最終的な判断を担っています。今回死亡した最高指導者のハメネイ師は、1989年に初代のホメイニ師が死去した後に就任しました。
・イランはもともとパーレビ王朝がおさめる王国で、アメリカは王朝を支援していました。しかし1979年のイスラム革命で王朝はたおれ、ホメイニ師を最高指導者とするイスラム体制ができました。ホメイニ師はアメリカを「大悪魔」と呼んで反米路線にかじをきっています。この年には首都テヘランの米国大使館で外交官らが人質になった「米大使館占拠事件」も起き、以来アメリカはイランを敵視してきたという経緯があります。
(図版は朝日新聞社)
・2002年、イランの反体制派によってイランの核開発活動が暴露され、国連や米国は制裁を発動。2015年には米英仏ロ中独との間で核開発を制限する見返りに制裁を緩和する「イラン核合意」が結ばれましたが、トランプ政権(第1次)は2018年に一方的に合意から離脱。イランは核開発を加速させました。2025年6月には、イスラエルとアメリカがイランの核施設を攻撃しています。
・2025年末からイラン当局は全国に広がった政府への抗議デモを弾圧、今年に入り「米国とイスラエルに訓練された工作員による破壊工作が広がっている」として武力を使って抑えつけ、多数の死者が出たと報じられています。トランプ氏はデモを支持し、デモ鎮圧後も「イランへ大艦隊が向かっている」と圧力をかけ続け、懸案となってきた核開発問題などを話し合う席にイランをつかせました。2月に入ってアメリカとイランは3回の高官協議を開いていますが、交渉は不調におわったとみられ、米国は協議のさなかに 攻撃に踏み切りました。
・イランとの交渉が不調となった背景は、トランプ氏が核問題を超えてイランの体制転換を狙っていることをほのめかすようになったからだ、という指摘があります。そもそもトランプ氏は第一次政権期にイランとの核合意から一方的に離脱しているという経緯もあり、イラン側にはトランプ氏への不信感もありました。
(写真・トランプ大統領=2025年10月28日/朝日新聞社)
朝日新聞論説主幹の佐藤武嗣記者は、今回のアメリカによるイラン攻撃を「暴挙」だと批判しています。今回の攻撃は国連安全保障理事会の決議も、アメリカ議会の承認も経ておらず、「一方的に武力に訴えて、主権を侵害する行為は、国際法違反」と佐藤記者は指摘します。さらにトランプ氏は「イランの体制は邪悪であり、誰かがやらなければならなかった」と語り、イラン国民に対し「我々(の攻撃)が終わった時、政権を奪い取れ」と訴えるなど、攻撃の目的は体制転換にあったとあからさまに表明しています。核開発をすすめ(イランは民生用と主張)、自国民に対しても抑圧的な態度をとるなど、イランの政権に問題があったことは事実です。だからといって、アメリカがイランの政権を転覆させていい理由にはなりません。
また、佐藤記者は、過去アメリカが介入して独裁者を排除したもののその後長く混乱が続いた例を複数あげています。
・2001年のアフガニスタン戦争では国際テロ組織アルカイダを叩きましたが、最終的に米軍は治安悪化で撤退し、イスラム主義勢力タリバンの復権を許しました。
・2003年にはイラク戦争ではフセイン政権を打倒しましたが、中東地域の混乱をまねき、最終的には過激派組織イスラム国(IS)が台頭することになります。
・2011年のリビアのカダフィ政権が崩壊後、内戦が激化しています。
大統領の拘束に至ったベネズエラに続き、イランでもアメリカは国際法を無視し、力まかせに現状変更をおしすすめています。やはり国際法を無視してウクライナ攻撃を続けているロシアは、自分たちの行為も正当化できると考えるでしょう。台湾統一を悲願としている中国の後押しにもなりかねません。力による現状変更をめざす国同士がぶつかるとどうなるかは、20世紀に起きた2回の世界大戦がよく示していると思います。
高市早苗首相は今回の米国などによるイラン攻撃について「我が国としてその法的評価をすることは差し控える」と国会で答弁しています。資源のない日本は国際情勢が安定して自由な貿易ができることが生命線で、そのためには力による現状変更ではなく、「法の支配」に基づく秩序が重要と考えてきました。しかし今回はトランプ氏に配慮して国際法無視の攻撃をするアメリカを批判できない状況となっています。日本だけでなく、欧州各国もいまはアメリカ批判に及び腰で、アメリカを止める動きはめだっていません。2026年は、世界の歴史上でもターニングポイントと位置づけられる年になるかもしれません。
イランはアメリカ、イスラエルの攻撃に対して報復に出ています。イスラエルの軍施設をはじめ、バーレーンやカタール、アラブ首長国連邦(UAE)などの米軍施設も攻撃しており 、その範囲は地域全体に広がっています。
イランの攻撃により心配されているのがエネルギー価格の高騰です。イランは液化天然ガス(LNG)施設や製油所なども攻撃したと報じられており、さらにイランとアラビア半島に挟まれ、世界で海上輸送される原油の約2割が通過するとされるホルムズ海峡も封鎖したと宣言しています。原油やLNGが値上がりすれば、さまざまな原材料価格や輸送費も上がり、モノやサービスの価格全体が上昇していくこと=インフレにつながります。インフレと景気減速が併存する「スタグフレーション」も懸念されています。
日本は原油の約95%を中東に頼り、輸送タンカーの大半がホルムズ海峡を通っています。高市首相は日本国内の石油備蓄量について、3月2日現在で254日分あると国会で説明していますが、混乱が長引けばどうなるか予測はつきません。一方、アメリカは中東の原油への依存度が低く、影響は限定的と見られています。
「暴挙」を続けるアメリカに対し、日本はどういう姿勢で向き合っていくのか。今後エネルギー価格は、物価全体はどう変化していくのか。これからの社会のあり方も左右する局面にいると感じます。これからも高い関心をもってニュースをチェックしてください。
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