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2017年06月16日

三菱重工、大型客船撤退で、次の一手は“造船所同盟”?

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 日本最大の総合重工業メーカー三菱重工業が、造船事業で苦しんでいます。受注が減ったところに工事の失敗が重なり、大きな赤字を抱えたからです。そこで造船コストを削減するため、中堅の大島造船所(長崎県西海市)と提携することになりました。今後は、三菱重工が最先端の省エネ船などを設計し、実際の建造はコスト競争力のある大島造船所に任せるという「分業」の構想です。
(2017年6月15日朝日新聞デジタル)
(写真は、三菱重工の長崎造船所=2017年3月25日朝日新聞朝刊に掲載)

「戦艦武蔵」を造った長崎造船所

 三菱重工の造船部門の長崎造船所といえば戦前、旧日本軍の軍艦「戦艦武蔵」(全長約263メートル)を建造した造船所です。戦後も商船や客船を建造してきました。今年5月にはドイツの船会社が発注した大型客船アイーダ・ペルラ(約12万5000トン、全長約300メートル)を初クルーズの出航地であるスペインに向けて出港させたばかりです。
(写真は、戦艦武蔵=三菱重工提供)

アイーダ・ペルラが「最後の大型客船」に

 実は、三菱重工は2016年10月、10万トンを超える大型客船の建造から撤退を表明していて、アイーダ・ペルラが「最後の大型客船」になりました。同社がドイツの船会社から約1000億円で2隻の大型客船を受注したのは2011年。ところが、建造ノウハウが足りず、無線LANの整備や欧米人好みの装飾に合わせた作り直しが相次いぎ、建造時間と経費が積み上がって計2540億円もの特別損失を計上しました。(「『最後の大型客船』長崎から出港 三菱重工、事業撤退」2017年5月3日朝日新聞デジタル)
(写真は、三菱重工の最後の大型客船「アイーダ・ペルラ」)

ばら積み客船が得意の大島造船所

 この反省を踏まえ、長崎造船所では今後、液化天然ガス(LNG)船や液化石油ガス(LPG)船などの商船建造に舵を切る方針を立てました。(「三菱重、大型客船こりごり?巨額損失で受注凍結を検討」2016年10月9日朝日新聞デジタル)
 三菱重工のニュースリリースでは、「グローバル市場における事業競争力強化に向け、互いの独立性を尊重しながら、相互補完やシナジーを追究し、持続的な成長を目指します」と、うたっています。大島造船所は、ばら積み貨物船(梱包されていない穀物・鉱石・セメントなどを船倉に入れて輸送する貨物船)を得意とする造船所です。

生き残るためのアライアンス

 三菱重工は、今治造船所(愛媛県今治市)や名村造船所(大阪市西区)とも今年3月末、同じような提携で合意しています。三菱重工のニュースリリースは、今治、名村、大島の3造船所との提携について、「この新たなアライアンスを通じて事業競争力を強化し、世界規模で急激に変化する造船業界で日本の造船業のプレゼンス工場につなげていきます」と言っています。アライアンス(alliance)とは、もともと「同盟」という意味ですが、ビジネス分野では、「企業同士が互いにメリットを享受するための緩やかな協力関係」というような意味です。技術力はあるがコスト競争力はイマイチだったガリバー三菱重工。はたして中堅造船所との同盟で浮上するでしょうか。
 これからの時代、一つの企業が何から何までやっていける時代ではないのかもしれません。業界内の合従連衡(がっしょうれんこう)=アライアンスにも目を向けてください。

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