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2017年06月09日

「まるで和牛?」な米国産牛肉 住友商事・住商フーズが勝負

食品・飲料

「かたい」イメージ脱却

 とかく“かたい”というイメージがある輸入牛肉。ですが、住友商事の子会社である住商フーズが輸入するブラック・アンガス牛「アイオワ・プレミアム・ビーフ」(写真)は、「口に入れると、すっと歯が入り、かんでいるうちに溶けてゆく」「適度に入ったサシ(霜降り)が和牛のよう」実際に試食した朝日新聞記者がそう報告しています。しかしなぜ今、和牛のような米国産が求められているのでしょうか。
(2017年6月7日朝日新聞デジタル)

米国アイオワ州の肉牛はトウモロコシ育ち

 住友商事と住商フーズは、米国アイオワ州の日本向け輸出認可牛肉工場アイオワ・プレミアム社と業務提携、2016年度から同社のブラック・アンガス牛の取り扱いを開始しました。「早期に年間5000トンの取扱体制を目指していく」と強気です。米国の肉用牛は1万頭以上の規模で集中肥育されるのが一般的ですが、アイオワ・プレミアム社のブラック・アンガス牛は、200~300頭を肥育する家族経営の肉牛農家から買い付けられます。アイオワ州は全米一のトウモロコシ産地。農家は、このトウモロコシでブラック・アンガス牛を育てています。日本の肉牛農家のように小規模経営で丁寧に育てられるだけでなく、トウモロコシ育ちの牛は、肉の脂の融点が低く、触感が柔らかいのです。和牛に近い味わいが実現されました。
(写真は、アイオワ州のブラック・アンガス牛=住商フーズ提供)

高騰する和牛価格が背景に

 ちなみに和牛とは、生まれも育ちも日本で「黒毛和種」「褐(あか)毛和種」「日本短角種」「無角和種」の4種類と、これらの間で交配させた交雑種などを指すとされています。和牛のような輸入牛肉が求められる背景には、和牛人気の一方で和牛価格が過去最高の水準になっていることがあげられます。2017年4月29日朝日新聞デジタルの記事「和牛高騰、商機狙う 農家高齢化、企業は投資」では、「(和牛の高騰は)根強い人気の一方、高齢化した農家らが子牛の繁殖をやめたからだ」と指摘しています。農畜産業振興機構によると、和牛の肩肉の小売価格は2017年3月の全国平均が100グラム789円と、3年前より2割高だそうです。
(図表は、子牛の減少と和牛の高騰を示すグラフ=2017年4月29日朝日新聞朝刊大阪版に掲載)

和牛繁殖のため“乳牛の代理母”も

 和牛の繁殖を促進させるために、乳牛として飼われているホルスタインの母体を借りて代理出産させる畜産ベンチャーも現れています(「高騰の松阪牛、代理出産で繁殖へ 乳牛の母体借りる」2017年4月28日朝日新聞デジタル)。松阪牛の産地である三重県の百五銀行や、みずほ銀行などのファンドが出資し、北海道帯広市に「AGエンプリオサポート」が設立されました。乳牛のお腹を借りて生まれますが遺伝子は和牛と同じ。生まれも育ちも日本なので「和牛」を名乗れます。その一方で、日本人好みの味の牛肉なら、米国産でも関税や流通経費を差し引いてもビジネスになると計算したのが、住友商事・住商フーズというわけです。
 ビジネスの課題解決には、さまざまなアプローチがある。そういうことにも業界研究では関心を持ってください。

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