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2016年08月05日

通販大手ニッセンを完全子会社に セブン&アイの悩みのタネって何?

流通

セブンHD、事業本格見直し、ニッセン完全子会社化(2016年8月3日朝日新聞デジタル)

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、グループの不採算分野の見直し策を打ち出した。通販大手ニッセンHDを株式交換で完全子会社化すると発表。ニッセンは東証1部上場を廃止され、セブン&アイの子会社セブン&アイ・ネットメディアの完全子会社になる。百貨店のそごう・西武も2店舗を閉めて人員を減らす。両社の将来像は見えず、建て直しは難航しそうだ。

崖っぷちだったニッセン

 ニッセン(本社・京都市)は1970年創業、3000万人を超す会員を誇ってきました。衣料品を中心としたカタログ通販で一世を風靡(ふうび)。2016年初めには、アイドルグループ「NEWS」を日本製裏毛パーカーのテレビCMに起用し、「触ってみたくなる」のフレーズがファンの間で話題になりましたね。ところが、最近の業績はとんでもないことになっていたのです。2016年12月期(2015年12月21日~2016年12月20日)の業績予測を8月2日に発表しましたが、それによると純損失は105億5000万円にのぼるとみられ、「今後何らかの対応を実施しない場合、年度末において債務超過となる見込み」であり、2016年8月上旬には、「ホールディングスの資金繰りに重大なリスクが生じる現実的な可能性も生じています」。まさに経営は崖っぷちに立たされていました。同時に発表されたのが「セブン&アイ・ネットメディアの完全子会社の道」でした。

ネット通販に舵を切れなかった?

 業績悪化についてニッセンは①経営合理化の一環として実施した大型家具事業からの撤退と、それに伴うインテリア関連売上の減少②カタログ多頻度発行戦略の見直し③スペシャルカタログの統廃合--などを挙げています。しかし、長期的に見れば業績悪化の理由は、通販のお客さんがカタログからインターネットに流れたからです。ニッセンもいまはWEBに力を入れていますが、カタログ中心の業態で成功してきたため、ネット通販に大胆に舵(かじ)を切れず出遅れたことは否めません。

背景にオムニチャネル戦略?

 一方、セブン&アイHDの2016年3-5月期の連結営業利益は前年比0.5%減の814億円。第1四半期が減益になるのは4期ぶりです。ニッセンの低迷に加え、百貨店のそごう・西武は既存店売上高が4.6%減、総合スーパーのイトーヨーカ堂も既存店売上高が2.9%減でした。セブン&アイHDは2006年にミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を、2014年にニッセンと、つぎつぎに異業種の流通企業を買収しました。その背景にあったのが、セブン&アイのCEO(最高経営責任者)だった鈴木敏文氏が打ち上げた「オムニチャネル」です。リアル店舗とネット、コンビニ、スーパー、百貨店、宅配……さまざまな場所で顧客対応し商品やサービスを提供しようというグループの総合戦略です。

鈴木氏が後継の井阪社長に残した宿題

 鈴木氏は今年5月にCEOを退き、セブン&アイHDの新社長になった直後の井阪隆一氏は朝日新聞のインタビューで、「グループ内のニッセンHDや百貨店事業は、収益面で苦戦しています」との質問に、「もともとニッセンは、持っている経営資源を評価して資本提携しました。商品製造のパートナーだったり、カタログ制作技術だったり。百貨店も、デザイナーや仕入れノウハウなど他事業にない資源がある。相乗効果をどう引き出せるか、原点に立ち返って再構築したい」と答えています。オムニチャネル化のアイデアはすばらしかったのですが、それぞれの歯車がまだ嚙み合っていないといったところでしょう。それどころかニッセンや百貨店の業績悪化は下手をするとグループ全体の足を引っ張りかねません。それは鈴木氏が井阪氏に残した大きな宿題です。業界研究では、それぞれの企業の短期的な業績をウォッチしながらも、長期的にどんなヴィジョンを持っているのかも見ていきましょう。

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