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2015年10月02日

日立が米証券取引委員会へ約23億円?海外腐敗防止法の威力

家電・総合電機

米SEC、日立を訴追 南ア与党に不適切支出か(朝日新聞2015 年9月29日朝刊)

 米証券取引所(SEC)は、日立製作所が南アフリカの与党への不適切な支払いを正確に処理しなかったとして、海外腐敗行為防止法(FCPA)違反の疑いで訴追。日立製作所は訴追内容について認否しないまま1900万ドル(約23億円)の制裁金を支払うことで和解する。

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 日立製作所は日本有数の総合電機メーカーで、海外へのプラント輸出に積極的です。朝日新聞の古い記事(2007年11月14日朝刊)を検索すると、日立グループは当時、南アフリカ国営電力会社の火力発電所向けボイラー6基を約3200億円(当時)で受注しています。冒頭の記事によれば、この事業にからんで、日立グループは現地に設立した子会社の株式のうち25%を南アの政権与党関連企業に売却。発電所設備の受注に成功してから、この子会社に約500万ドルを「配当」として、さらに100万ドルを「成功報酬」として、支払っていたというのです。実質は外国の政党へ支払いだったのに、日立はそうとはせず適切な会計処理をしていなかったとしています。
 
 でも、日本の企業が南アフリカで起こした問題なのに、直接関係のない米国のSECが乗り出してきたのはなぜでしょう。記事に出てきた米国の海外腐敗行為防止法がポイントです。じつはこれ、1976年に発覚した日本のロッキード事件を発端にして翌1977年に出来た法律です。ロッキード事件は、米航空会社が大型旅客機売り込みで世界各国に賄賂(わいろ)攻勢をかけ、事件当時首相だった田中角栄首元首相が逮捕されました。日本では戦後最大級の贈収賄事件です。今回、米国の法律なのに日立が訴追されたのは、日立が米国内で活動しているグローバル企業だからという理屈です。これまでも、この海外腐敗行為防止法で、日本の大手グローバル商社がインドネシアでの発電所事業をめぐって国営電力会社幹部に賄賂を贈ったとして摘発されています。同社は罰金8800万ドルを支払うことで合意したといいます(朝日新聞2014年3月20日朝刊)。

 南アフリカは発展著しいBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の一角として、重電機、自動車、食品など、多くの日本企業が進出しています。それだけでなく欧米のグローバル企業もぞくぞく参入し、激しいビジネス競争が繰り広げられています。しかし、そこでなりふりかまわず利益獲得に走るすがたは現地の人びとにどう映るでしょう。日立の現地子会社と政権与党との関係は以前から南ア国内で批判されていたようです。グローバル化のなかで、一部の発展途上国の「賄賂や接待など利益供与はあたりまえ」といったゆがんだローカル・ルールは、もはや通用しなくなっている。このことを肝に銘じるべきです。グローバル企業のたいへんさを新聞記事から感じ取ってください。

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