中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年10月31日

全社員で毎月お客様訪問 サービス濃度で大手に勝つ住宅メーカー (第23回)

 中小企業が仕事をする場は、特殊なところではありません。ときには、大企業と同じ土俵のうえで競争しなければなりません。
 知名度は……、大企業がうえです。
 資金力は……、これも大企業がうえです。
 ここまでは、大企業に軍配をあげざるをえません。中小企業の応援団であるわたしとしても。でも、あげるのはここまでです。
 人材の数……。ここは実は、中小企業でも勝てるんです。

 みなさんの中には、うそだ、と思った方がいるでしょう。大企業のほうが社員がおおいのですから、人材の数だって大企業のほうが圧倒的におおいに決まっているじゃないか、と思うかもしれません。

 それは、まちがっています。たしかに社員数は、大企業のほうがおおい。でも、同じタイプの人ばかりがあつまっていたとしたら、人材としては「ひとり」として考えるべきです。組織の歯車として動く人員がおおいだけです。

 かりに1千人の社員がいても同じタイプの人間ばかりあつまっていたら、人材としては、ひとりです。かりに100人の社員の会社だとしても、いろんなタイプ、いろんな経歴をたどってきた人があつまっていたら、人材としては100人です。
 だから、人材の数では、中小企業が勝つこともできるのです。

 さらに、サービスについても考えてみましょう。これは、中小企業でもおおいに勝てる分野です。社員の知恵と勇気とそしてド根性があれば、ちいさなアリでも、巨大なゾウにかつことができます。
佐賀県の神埼(かんざき)市にある住宅メーカー「プレースホーム」。創業は21年まえ、社員は40人ほど、年商およそ21億円。いまのところ、佐賀、福岡、長崎で住宅づくりと販売、リフォームの仕事をしています。

 ここの会社はこれまで20年間、全社員が手分けをして、毎月かならずお客さんのところをたずねています。毎月の第4土曜と日曜にひとり30~40軒をまわり、家の状況や会社への要望をきく、いわば御用聞きをするのです。
 新築やリフォームはお客さんから何百万円、何千万円ものお金をいただく仕事です。だったら、とことんお客の立場にならなくては、と決意した会社なのです。

 お客の立場にたつ「顧客第一主義」という考え方は、日本中、いたるところにあります。おそらく、あなたの会社は顧客第一主義ですか、と聞くとほどんどすべての会社が「はい」とこたえます。とくに名のある大企業は絶対「うちは顧客第一主義です」と答えます。
 でも、その主義には、徹底度の差があるのです。
(プレースホーム社長の山崎さん。ここでは家の壁や天井を実際に目で確かめることができます)

 「プレースホーム」を起業した山崎清二社長は学生時代、アルバイトで酒屋の御用聞きをしていました。サザエさんの登場人物でいうさぶちゃんと言えば、わかりますでしょうか? 顔なじみになったお客さんと、よもやま話をすることが楽しかったのだそうです。

 そして、会社をつくってから、社員たちに御用聞きをしてもらったのですが……。当初は、クレームの嵐でした。家がイメージとちがう、雨漏りする、壁の向こうが見える……。つまり、怒りの声しかあつまらなかったのです。

 社員から、「御用聞きをやめたい」という声があがります。山崎さんは、悩みます。顧客第一主義を徹底するのか、でも、大切な社員の気持ちも尊重しなくては……。

 悩んだすえに山崎さんは、顧客第一主義を選びました。クレームをひとつひとつ吸い上げていって、家づくり、サービスに生かしていったのです。

 やがて、お客からの苦情が減っていきます。そこまで親身になってくれるのだからと、お客が家族、親戚、知人に紹介してくれるようになります。そして、つぎつぎにお客さんが増えてきました。

 仕事の進め方も顧客第一。これから仕事をもらう、つまりお客さんになってもらえる方に、どんな家をつくってほしいのか、とことん聞きます。神埼市には、家のイメージを体験できるプレースホームの施設があります。天井、床、玄関、ドア、階段などの高さ、大きさ、色といったものを実際に体験しながら、家の図面をえがいていくのです。

 その結果、たとえば、ペットの犬用の階段がある家というのもつくったそうです。
(この施設では階段のイメージも体感できます)

 競争相手である大手住宅メーカーなどからは、「効率が悪すぎるね」とも言われるそうです。でも、住宅は、一生の買い物です。お客さんには、それぞれ、家への思い入れ、ドラマがあります。そこに耳を傾けないで住宅メーカーとはいえない、社長の山崎さん以下、社員みなさんの覚悟と決意があるのです。だから、「おたくに客を紹介するよ」「実家のリフォームをお願いね」などという声が、つぎつぎに舞い込むのです。

 ところで、この徹底した「顧客第一主義」には、じつは、「弱点」があります。

 それは、毎月訪問できそうもない地域の人の家を建てることはできない、という点です。この理由で、いくつも仕事をことわってきました。
 全社員で分担しても、月に30~40軒はお客様の家をまわることになります。お客様の話をきちんと聞きだせるまでには、何度も何度もたずねます。いまでもたいへんです。でも、会社を発展させていくには、お客を増やしていかなくてはなりません。

 せっかくのお話を、ことわりたくないなあ。ゆくゆくは、関東などでも家づくりができたらなあ……。プレースホームは、本格的に新卒採用をはじめることにしました。そう、今これを読んでいるみなさんに、出番がまわってきたのです。

 山崎さんの言葉で、締めくくりましょう。
「うちはいままで、中途採用で固めてきました。おそらく毎年5人前後になると思いますが、若いみなさん、そんなわたしたちを変えてください。わたしたちは、みなさんに学びたいのです」

 やる気と、すこしの根性があれば大丈夫。きっと味わえます、アリがゾウをたおす快感を!