中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

2014年09月09日

被災地にソフトを無料で提供 中小企業の「コンシェルジュ」目指す(第20回)

 みなさん、日本の経済社会は、たいへんなことがつづいています。アベノミクスで浮かれている場合じゃないんです。

 中小企業が、ものすごい勢いで減っているんです。

 政府の統計では、2009年には420万の中小企業がありました。ところが、2012年には380万になっています。つまり、年間10万を越えるペースで中小企業が減っているんです。

 日本にある会社の99.7%が中小企業です。大企業が栄えたって、中小企業が元気じゃなければ日本の社会は回らないんです。

 中小企業の数が減っているのなら、増やさなくてはなりません。つまり、起業家を増やさなくてはなりません。

 何とかがんばっている中小企業が、技術、商品、サービスの開発に力を出せるようにしなくてはなりません。
(写真:左から新卒エンジニアの辻野健太朗さん、昨春入社の関川舞さん、新卒社員の加納大輔さん。主力商品の会計ソフトは家電量販店などで買えます)

 その役目の一端を担っている会社が、東京・神田に本社がある「弥生」です。中小企業向けの会計ソフトでは、シェアは販売本数で6割、売り上げでは8割をこえます。創業は1978年で、正社員はおよそ260人、名古屋、大阪、福岡などに拠点をかまえている会社です。

 この会社の会計ソフトの最大の特徴は、会計のド素人でも、パソコンができれば使えることです。

 みなさんの中には、会計とか簿記とか聞くだけで、苦手だ、お手上げだ、と思う人がいるかもしれません。

 でも、もしあなたが会社をつくろうと思ったら、どうでしょう。自分で会社の帳簿をつけていかなければならないんです。営業とか商品開発とかに全力をそそぎたくても、いやでも、簿記、会計をしなくてはならないのです。

 大企業は、いいんです。だって、専門の部署があるのですから。

 でも、中小企業は、社員数がすくないので、専門の部署がないところがほとんどです。だったら、やさしく会計業務ができたら、どんなにいいでしょう。

 だれでも使える、やさしーい会計ソフトがあれば、起業家さんも中小企業も、どんなに救われるでしょう。

 弥生という会社は、だれでも使える会計ソフトをつくっています。お小遣い帳をつける感覚でできる、のだそうです。起業家のために、中小企業経営者のために、やさしく使いやすく、を徹底しようとしています。
(写真:若手社員3人。事業コンシェルジュを目ざす弥生のキャラクター「パオ・シェルジュ」とともに)

 東日本大震災による大津波で、東北・三陸地方にあった中小企業がおおきな被害を受けました。シェアナンバー1ですから、おおくのお客である中小企業がありました。会社もろとも、おおくが流されてしまいました。

 弥生は、立ち上がりました。まずは、従来からのお客に、会計ソフトを無償で提供しました。でも、弥生の人たちは、これで満足しません。お客さんだったかどうか関係なく、ソフトを無償で提供しはじめました。

 さらに、ソフトを使えない人がいるかもしれないと考え、被災各地で、運用のセミナーをしています。ついには、岩手・陸前高田には、駐在員も配置しました。

 あの大津波で、被災地の水道、電気、道路といった社会的基盤(インフラ)がおおきな被害をうけました。中小企業にとって、会計ソフトはインフラだ、だからそれを提供するのは当然だ、という考えなのです。

 お客さんからの問い合わせを電話で受ける「カスタマーセンター」。これまでは、弥生の会計ソフトにかんする問い合わせだけを受けてきました。弥生の人たちは、それだけでは満足しません。でっかく行こうということで、何でも相談を受ける体制を整えました。お客である中小企業と二人三脚で、事業を成功に導こう、というのです。

 大きなホテルには、「コンシェルジュ」という仕事をしている人がいます。宿泊客から「演劇のチケットをとって」「航空券の手配をして」といった相談や要望を受ける。よろず相談係です。弥生は、中小企業の「事業コンシェルジュ」になろうとしています。
 すばらしい。でも、わたしは思いました。きっと、めちゃくちゃ残業があるんだろうなあ、と。

 人事総務部の部長、辻元弘幸さん(48)はいいます。「いいえ、いまは、1日1時間半、月平均28時間ぐらいでしょうか」

 「いまは」、の3文字が気になります。ということは、かつては残業は多かったのでしょうか。

 「5年ほどまえまでは、事実多かったです。社員はみんな、やりたいことを全部やろうとしていたんですね」

 いまいる陣容で、効率よく、最大の成果を追求する、という方針に変えたそうです。

 中小企業のインフラでありつづけるには、会社を長つづきさせなくてはなりません。社員がしっかり仕事をして、しっかり休めなくては、社員が疲れ切ってしまいます。会社が崩壊します。インフラの役割が果たせなくなります。

 でも、本当に残業が少ないのでしょうか。ことしの新卒社員でエンジニアの加納大輔さん(24)に聞くと、こんな答えが返ってきました。

 「残業がほとんどないので、空いた時間、自分で勉強して技術を習得しようとがんばっています」

 どうやら、本当のようです。

 部長の辻元さん、どんな学生がほしいのですか?

 「みずから行動、チャレンジし、しかもチームワークを大切にする。そんな自律した人に来ていただきたい」

 でも、みずから行動、チャレンジ、っていうのも本当でしょうか。昨年の春に入社した営業担当の関川舞さん(23)、本当ですか?

 「自分流の営業のスタイルを認めてもらっています。提案すると、ではやってみなさい、と言ってくれる。挑戦のチャンスを、たくさん
もらっています」

 どうやら、これも本当のようです。
(写真:チームワークが売りです。社長だろうが部長だろうが、「さん」で呼びます。右端が人事総務部部長の辻元さん)

 ことしの新卒エンジニア、辻野健太郎さん(23)にも、入社してからの感想を聞いてみました。

 「会計ソフトを、使いやすいように使いやすいように、と突き詰める日々です。学ぶことがおおくて、あっというまに半年です。いまも学ぶことがおおくて、本当に社会人になれているのかという不安もあるんです」

 大丈夫ですよ。そういう不安は、だんだん解消されていくものなのですから。

 社員のみなさんがいつも持っている小さなカードがあります。そこには、こんな「弥生の使命/理念」が記されています。

 「日本の中小企業、個人事業主、起業家の事業を支える社会的基盤として、日本の発展に能動的に貢献します」

 弥生のみなさん、日本の中小企業をよろしくお願いします。