中島隆の輝く中小企業を探して 略歴

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2016年04月20日

仕事を任せて成長させる 若い力求む!漢検協会(第35回)

 こんかい探したところは、「企業」ではありません。でも、若いみなさんがおおいに実力を発揮できるところだと思いましたので、ご紹介したいと思います。

 師走の恒例になっているものに、今年の漢字、というのがありますね。2014年は「税」、去年は「安」、でした。京都の清水寺で、大きく書かれる光景を見たことがあると思います。
 また、漢検というのがあるのもご存じでしょうか。漢字の能力を測る技能検定のことです。受検者は年間200万人を越えています。みなさんの中にも、級をもっている人がいるかもしれませんね。この6月には、京都・祇園に「漢字ミュージアム」もオープンします。

 これらの事業をしているところ、公益財団法人「日本漢字能力検定協会」が、若いみなさんの力を求めていると聞きました。そして、若い人に仕事をどんどん任せている。若い人でも大活躍している。そんな噂を聞きました。本当なのでしょうか。
 そもそも、漢検協会と聞いて、わたしが思ったのは、ある事件のことでした。2009年に、元理事長のファミリー企業がらみの不祥事が明るみに出たのです。
 もちろん、その事件を教訓に、漢検協会は変わっているはずですが……。
 京都市に、久保浩史理事長をたずねました。
(久保理事長)
 1947年生まれ、京都大学法学部卒。住友化学工業に入り、グループ会社の社長などをした人です。2012年に漢検協会の理事に、2015年に理事長になりました。
理事長になった経緯を聞きました。
 「2011年の暮れでした。会長をつとめる高坂から、わたしに声がかかったのです……」

 漢検協会の高坂節三会長の兄は、国際政治学者としてしられていた故・高坂正堯氏。久保さんは、京大法学部時代、高坂氏のゼミ生。そんな縁からの誘いでした。
 漢検協会の改革、人材育成などを手伝ってくれと頼まれた久保さん。はじめは、週3日来てくれればという話だったのですが、実際には担当する分野が広く、毎日出勤ということになります。そして、理事長になってしまったのだそうです。
 では、何を変えたのでしょう。
 「うちは、人材育成をあまり重視していませんでした。それを、抜本的に変えようと考えました」
 部長だけあつめての研修、これからの協会のあるべき姿についての議論。
 外から講師を呼んできて、職員研修。そして、部門をこえた数々のプロジェクト。
 100人ほどの職員が生き生きとしはじめ、協会内の風通しも格段によくなっていきました。

 仕事は若い人に任せている、って本当ですか?
 「人は、任せられることで成長するんです。投げてやれば受け止める、それが若い力です」
 理事長の話を疑うわけではありません。ですが、本当なのかは検証しなくてはなりません。

 そこで、若い社員、おおっと間違えた、若い職員3人にお話を聞きました。
 そのまえに、用語を確認しておきましょう。
 ここは、営利目的の企業ではない公益財団法人です。なので、ここに就職することを「入社」とは言いません。「入職」と言います。

 もうひとつ。一般企業でいうところの「営業」という言葉も使いません。漢字検定をすこしでも多くの方に知ってもらい、受験してもらいたいという意味で「普及」と言います。
 そして、会社で働いているのではないので、「社員」ではなく「職員」となります。
(左から大江清貴さん、永瀬友里加さん、末迫太一さん)
 さて、まずは普及部の永瀬友里加さん(27)に、話を聞きましょう。入職5年目です。普及部(つまり営業部)で、漢字検定や文章検定をしませんか、漢字や日本語のことでお困りのことはありませんか、と小中高の先生たちに会って提案する仕事です。

 現在の担当地域は、東京、埼玉、茨城。先生たちと話をしていて感じることは、危機感です。漢字が苦手な子どもたちが増えていることにくわえ、さらにパソコンやスマホの普及で先生たち自身も漢字を書くことが減っている、というのです。
 そんな先生たちから感謝の言葉をもらう。そして、漢字検定に合格してうれしい、という子どもたちの声を聞く。永瀬さんのやりがいは、ぐんぐん増しています。
 さらに永瀬さん、「今、あなたに贈りたい漢字コンテスト」という企画運営プロジェクトの一員でもあります。
 さらにさらに、高齢者が楽しめる漢字コンテンツを検討するプロジェクトにも中心メンバーとして参加しています。

 「教育の仕事をしたいと思っていました。就活のとき、塾と漢検協会の二つから内定をもらいました。より多くの子どもたちの役に立ちたいと考えて協会を選びました。この選択は、大正解でした」
 そんな永瀬さん、現役の就活生へのメッセージです。
 「わたしは、自分は何がしたいのかをつきつめて、その思いをかなえました。最初は、いろんな業界を見るのもいいと思いますが、けっきょく、答えは自分の中にあります。自分がしたいこと、社会に何ができるかを考えて就活すれば、きっと、ずっと働ける会社が見つかります」

 昨年の春に入職した末迫太一さん(23)。永瀬さんと同じように普及部に所属、千葉と栃木の小中学校を担当しています。
 高校、大学とラグビーでならしました。高校時代、広島県の代表として全国大会にもでました。さまざまな大学からオファーがありましたが断り、実力はあるけれど、あと少しで伸び悩んでいた関西大学のラグビー部へ。入部した当初は、二部リーグだったチームは、いまや強豪の一角を占めています。
 そんな男気のある末迫さん。ラグビーばかりやってきたので、漢字は苦手だとか。そんな彼がなぜ漢字協会に入職したのでしょう。その理由も、男気そのものでした。
 ある就活のセミナーにいったとき、漢検協会のブースに学生がだれもいなかったのです。かえって面白いかも、と説明を聞きました。ラグビーで成功した体験が、いまの自分を支えになっている。子どもたちが漢字を通じて成功体験をすれば、子どもたちの未来が開けるかもしれない。そう思って入ったそうです。
 「任せてもらっていると、ひしひしと感じています。協会に入って正解でした」
 ちなみに、ただいま漢検の3級(中学校卒業程度)をとりたいなあ、なんて思っているとか。「いいえ、ぜったい、年内にとります」。有言実行、それがラガー、期待しています。

 末迫さんと同期入職の大江清貴さん(26)は、海外事業部に所属しています。担当は、インドネシアとミャンマー。進出している日系企業につとめる外国人らに、様々な検定を受けてもらう担当です。
 大江さんは就活のとき、興味をもった企業には、エントリーシートを送っていました。その社数は40~50になるとか。もちろん漢検協会にも。
 フィリピンに留学したとき、ルームメートだった台湾人と、漢字でコミュニケーションがとれたことに感動したことがありました。字そのものに意味がある漢字を、日本人、そして、海外の人に知ってもらえたらと考えたのだとか。そして、最初に内定をくれたのが漢検協会でした。

 ことしにはいって中国に出張しました。おそらく、すぐにインドネシアやミャンマーにも飛ぶでしょう。「ぜったい、この2国のプロフェッショナルになります」
 現役の就活生へのメッセージをもらいました。
 「わたしは留学したので、卒業が2年遅れました。まわりが大企業に就職が決まっていくと、焦ってしまったこともありました。でも、自分が何をしたいのかを見つめることが大切です」
「自分がしたいことが大企業でできると判断したのなら、大企業に入るのは素晴らしいことだと思います。でも、まわりが、大企業、大企業と言っているので行くのなら、それは違います。きっと後悔すると思います。人と異なることを恐れてほしくありません」
(毎年恒例「今年の漢字」の発表風景)
 若いみなさんの熱気にあおられました。若い人に任せる、というのは真実のようです。
 そして、理事長の久保さんに戻りましょう。どんな人材がほしいですか?
 「次世代の日本のために頑張ってくれる人、チャレンジングな人です。そして、自分の強みと弱みを把握できている人がいいですね」
 「職員みんなには、『しがくきょうしん』を期待しています。就活中のみなさんには、少なくとも『し』は持っていてもらいたいですね」
 ちょっと待ってください。しがくきょうしん? 何でしょう、それは?
 「漢字では、『志学協新』と書きます」
 「志」は、情熱や使命感を意味します。「学」は、自主的に学び、視野を広げようする姿勢のことです。「協」は、相手を理解し、自分を理解してもらおうという謙虚さです。そして、「新」は、発想力や柔軟性、を意味します。

 「この4つの漢字が意味することをつづけていけば、思いは実現するものです」
 さすが、漢検協会の理事長です。
 毎年5~7人の新卒を採用しています。本当はもう少し採用しないと、と思うのだけれど、就職戦線は売り手市場なので……、とか。
 もちろん、漢字が苦手でもかまわないとか。「入職すれば、きっと好きになります」

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