2014年12月02日

消費増税先送りで国債「格下げ」なぜ?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 日本の国債の「格付け」が下がりました。安倍首相が解散・総選挙の理由として挙げた「消費増税の先送り」が理由です。そもそも国債って? 「格付け」って何? 今回どうして下がったの? これからどうなるの……基本的な仕組みを説明します。

 今日取り上げるのは、1面の「日本国債 1段階格下げ/ムーディーズ 消費増税延期が影響」です。総合面(3面)の「財政再建の遅れ懸念/国債格下げ 金利の動き不透明」にも関連記事があります。
 記事の内容は――米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは日本国債の格付けを「Aa3」から、「A1」に1段階引き下げた。21段階ある格付けの上から5番目。消費税率の再引き上げの延期などで、財政赤字の削減目標が達成できるかどうか、「不確実性が高まった」とした。格付けは、各国が発行する国債に対する信用力を示すもので、国債に投資したお金が将来返ってくるかを格付け会社が分析し評価している。ムーディーズの「A1」は、中国や韓国を下回り、イスラエルやチェコ、オマーンなどと同水準。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 国債と格付けの仕組みを簡単に説明します。国は国民が納める税金だけではお金が足りないので、毎年たくさんの借金をしています。国が借金をするときに「いつまでに必ず返す」と約束する借用書が国債です。国債を金融機関や個人に買ってもらい、その代金を財政資金の穴埋めに使います。国債を買ってお金を貸してくれた人には利息を払います。日本は長年、公共事業などにたくさんお金を使ってきたほか、高齢化で医療・介護などの社会保障にかかる費用が増えているため国債を大量に発行し、発行残高は800兆円近く。その他の借金と合わせると、1000兆円超という膨大な借金を抱えています。

 国の約束だからといって「安全」とは限りません。数年前のギリシャのように、国が財政破綻して借金を全額返せなくなるかもしれません。その参考情報として、民間の格付け会社は国ごとに信用度を調べた「格付け」を発表しています。米国のムーディーズ、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)、欧米系のフィッチ・レーティングスの3社が有名です。一般的に、借金が増えすぎると借金を返せないんじゃないかと思われて格付けは下がります。格下げなどで信用が落ちると、買い手にとってはリスクが高くなので、国は国債を買ってもらうために金利を上げなければなりません。金利が高くなれば国の支払いは増えて財政はもっと悪くなるという悪循環に陥ります。反対に、格付けが高い国の国債は安全性も高いため、値段が高くて金利が安くても売れるので、格上げされると国は助かります。

 日本の国債の格付けは、1990年代後半までは最上級でしたが徐々に下がり、2002年にはムーディーズで上から6番目の「A2」に。2007年から上がって2009年には上から3番目の「Aa2」になりましたが、東日本大震災後の2011年8月に「Aa3」に下がりました。今回はそれ以来の格下げです。

 政府は、国債の返済などを除いた政策予算をその年の税収で賄えるかどうかをみる「基礎的財政収支」(プライマリーバランス=PB)の赤字を、2020年度までにゼロにする目標を掲げています。長期の借金返済は別として、まず年ごとの収支を均衡させて財政再建の第一歩にしようという考え方で、国際的な公約にもなっています。政府の試算では、当初の予定通り消費税を再増税したとしても、2020年度の目標達成には赤字をさらに11兆円減らさなければならないのに、具体的な道筋は示されていません。再増税を2015年10月から2017年4月に延期することで、2020年までに追加の増税や大幅な歳出カットを決めるのはさらに難しくなりました。このため、ムーディーズは「財政目標達成の不確実性の高まり」を格下げの第一の理由に挙げ、アベノミクスの成長戦略の効果にも疑問を呈しました。

 格下げは私たちの暮らしにも無関係ではありません。3面の記事では、今回の格下げの影響について書いています。最悪は、債券市場で信用が落ちた日本国債が売られ金利が上昇するケース。金利が上がると借金返済が膨らみ、財政を圧迫します。国債を持つ銀行にも含み損が出るほか、企業の借金や住宅ローンの金利もすべて国債金利に連動するため、金利上昇はあらゆる国民生活に影響します。みなさんの就活も直撃することになるのです。

 ただ、今は日本銀行が金融緩和のために市場から大量の国債を買い入れているため、金利は低い水準のまま。また、日本の国債は大半が日本の金融機関や個人が買っているため、外国人投資家による大量売りなどのリスクは少ないと言われています。すぐに日本国債の価値が急落したり、金利が急上昇したりする可能性は低そうですが、景気回復と財政再建の両方をうまく進めないと、どうなるかわかりません。この問題も、今日公示された衆院選の大きなテーマの一つです。今回の格下げと選挙を機に、消費税先送り、国債の大量発行、1000兆円の借金、成長戦略など、国の大きな課題について考えてみてください。

※朝日新聞デジタルの無料会員は1日3本の記事全文を、有料会員になればすべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。ぜひ登録してください。

アーカイブ

テーマ別

月別