◆ニュースのポイント
サッカー・ワールドカップで24年ぶりに優勝したドイツ。移民やその子どもたちが加わった「新生ドイツ」の勝利だったと言われています。背景には、移民の受け入れ拡大などのため2005年に施行された「移民法」があります。働き手として外国人の手を借りたいが、定住されるのは困るという日本。かつてドイツでも同じような議論が交わされていました。
今日取り上げるのは、オピニオン面(15面)の「移民政策 ドイツの経験/敬意を持って共存 歓迎示せる文化に 利点に目を向けよ」です。記事は、移民受け入れへの抵抗感が強かったドイツが「移民国家」へと看板をかけ替えるきっかけを作ったベテラン保守系政治家リタ・ジュスムートさんのインタビューです。
記事の概要は――ドイツは1950年代以降、戦後復興を担う外国人労働者を本国に戻る前提で受け入れた。70年代に受け入れを中止するとむしろ定住が加速。80年代後半には外国人の女性や若者の貧困や差別などが問題になり、90年代には高度な外国人技術者受け入れの要望が経済界から出されるようになったほか、旧ユーゴスラビアなどの地域紛争で難民申請者が増えた。
「いかに国を開くか」。数年間の大議論を経て移民法が成立。移民法では定住外国人にドイツ語やドイツの文化・法律・歴史などの講座受講を課す。外国出身者がドイツ社会に溶け込めるよう促す政策は「統合政策」と呼ばれる。
2012年、ドイツに移住した外国人は前年比38%増の40万人。米国に次ぐ世界第2位の移民受け入れ国に。好調な経済にひかれて人材がドイツをめざし、移民がもたらす知識と発想がドイツ経済のさらなる牽引力(けんいんりょく)となっている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
◆就活アドバイス
15日朝刊の記事「統一・融合 『壁』越えた独/トルコ系エジルら V貢献」は、W杯優勝の陰には移民との融合があったと分析しています。決勝の先発メンバーのうち、クローゼはポーランド、エジルはトルコ、ボアテングはガーナがルーツ。ケガで先発を外れたケディラはチュニジア系です。記事は「異なる文化的背景、身体的特徴を備えた移民の子どもたちが入ることで、ドイツ持ち前の粘り強さに、これまでになかった個性が加わった」と書きました。
もともと民族国家としての意識が強く、「移民国家ではない」(コール元首相)という原則を掲げてきたドイツにとって移民受け入れは、「国のかたち」を変える大転換でした。移民は、単なる労働力の受け入れではなく、家族を含めた人生を引き受けること。ドイツ社会の構成メンバーになるからにはドイツの原則や理念を受け入れてもらうが、移民固有の文化も尊重されなければならない。ジュスムートさんのインタビューを読むと、さまざまな壁を乗り越えて実現したことがわかります。
「おもてなしの国」を掲げる一方、島国でもある日本はときに「排他的」との指摘も受けます。朝日新聞社の2010年の世論調査では、「将来、少子化が続いて人口が減り、経済の規模を維持できなくなった場合、外国からの移民を幅広く受け入れることに賛成ですか。反対ですか」との問いに、賛成が26%、反対は65%でした。聞き方にもよるでしょうが、移民への抵抗感は強そうです。
日本政府は経済政策「アベノミクス」の成長戦略の一つとして、「外国人実習生」を増やす方針です。これについては、6月11日の今日の朝刊「人手不足、人口減…外国人労働者増やすべき?」で解説しましたが、「実習生」の名の下、実際には労働力として劣悪な条件で働かせる今のやり方が限界に来ているのは明らかです。安倍首相は今年2月、国会で「わが国の将来のかたちや国民生活全体に関する問題として、国民的議論を経たうえで多様な角度から検討していく必要がある」と答弁しました。移民受け入れは、みなさんの働き方にも関わる問題です。考えてみてください。