2017年07月14日

「残業代ゼロ」どこまで広がる?・・・専門職対象の「高プロ制度」を知ろう!

テーマ:社会

ニュースのポイント

 日本最大の労働組合の組織、連合(日本労働組合総連合会)の神津里季生(こうづりきお)会長は、安倍晋三首相と会談し、専門職で年収の高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、働きすぎを防ぐ対策を手厚くする修正を求めました。連合は高プロに強く反対してきましたが、要請が受け入れられれば、容認に転じる予定です。経営者から出ていた「労働時間に関係なく成果に対して報酬を払いたい」という声が一定の制約の下で実を結びそうです。ただ、「今よりもっと働かされることになる」と警戒する人もおり、本当に働く人のためになるのかどうかの答えはこれからです。(朝日新聞教育コーディネーター・一色 清)

 今日取り上げるのは、総合面(1面)の「『残業代ゼロ』首相と会談 連合会長、容認へ修正案」、総合面(2面)の「連合『変節』調整後回し 執行部政府交渉を優先/過労死遺族ら『話が違う』/『実を取る』修正案 効果疑問」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(写真は、安倍首相との会談後に記者の質問に答える神津連合会長)

2年余り“棚ざらし”

 高プロは、成果に対して報酬を払う制度です。これまでの労働法では労働者は労働時間が決められ、残業や休日労働は割り増しの報酬を払わないといけなくなっています。これに対して、知的な労働の分野が広がっていて、会社にいる時間と成果との関連は薄くなっているという意見が経営者などから出ていました。露骨に言うと、「能率の悪い人がダラダラ会社にいてたくさんの残業代をもらっているのはおかしい」というわけです。この高プロ法案は第1次安倍政権で議論されましたが「残業が無制限に増えて過労死を招く」などの反発を受けてつぶれました。第2次安倍政権では2015年4月に法案が国会に提出されましたが、一度も審議されずに“棚ざらし”になっています。
(図表は、高プロ制度の政府案の説明です=2015年6月24日朝日新聞朝刊に掲載)

働きすぎを防ぐには

 高プロは、名称の通りすべての労働者を対象にする制度ではありません。今の政府案では「年収1075万円以上の高度な専門知識を持つ働き手」が対象です。たとえばアナリストコンサルタント、為替のディーラー、研究開発者、金融商品の開発者などが想定されています。ただ、成果だけを基準にすると働きすぎてしまうことが心配されますので、働きすぎ防止策もあわせて取り入れています。それが①年104日以上の休日取得、②勤務と勤務の間に休息を確保、③在社時間などに一定の上限を設ける、の三つのうちどれかを選択しなければならないというものです。
 一方「これでは不十分だ」というのが連合の立場です。そこで連合は働きすぎ防止策をさらに強化しようとする修正案を政府に出したわけです。政府案では選択肢の一つであった年104日以上の休日取得を義務とし、選択項目として①2週間連続の休日取得、②心身の状況をチェックする臨時の健康診断を追加しました。
(図表は、「高度プロフェッショナル制度」「裁量労働制」に関する政府案と、それに対する連合の修正案です)

対象が広がることが不安

 この連合の修正案でも、まだ不十分だという労働組合も少なくありません。背景には、この法案は入り口に過ぎないのではないかという不安があるからです。つまり、最初は年収1075万円以上の高度な専門知識を持つ働き手に限定したとしても、だんだん年収レベルが下がり、働き方の幅も広がり、多くの労働者をカバーするようになるのではないかという不安です。経営者は、成果を出す人にはもっと報酬を払ってつなぎ留めたいと思うし、成果を出さない人にはやめてほしいと思っているはずです。でもこうしたむきだしの考え方が実行されるようになると、貧富の差が激しくなり、心身の健康を壊す人は増え、とても幸福な社会とは言えなくなります。

自由の弊害、平等の弊害

 これから社会に出ようという皆さんはどう考えますか。「一部の高度な仕事をしている人は自由に時間を使えるようになっていい」と思う人もいるでしょう。ただ、こうした考え方が多くの働く人に適用されるようになると、成果ばかりを求められて息苦しくなりそうな気もしますよね。私は今の法案くらいなら問題は少ないでしょうが、対象が徐々に広がっていけば社会に与える影響は無視できなくなると思います。第2次世界大戦後、ヨーロッパや日本が比較的貧富の差が小さい安定した社会を作ることができたのは、労働法や労働組合が機能して、成果だけで報酬を払うことをしないで、労働時間や年功といった要素を大きく考えて報酬を払ってきたためだと思います。一方で、平等を強くうたった共産主義国家は失敗しました。自由の弊害もあれば、平等の弊害もあります。結局、この二つのいい頃合いを見つけていくのが、いい政治ではないかと思います。

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