2017年05月18日

旭化成が新型車開発!EV支える化学メーカーの技術

テーマ:経済

ニュースのポイント

 化学大手の旭化成が新型の自動車を開発しました。自動車と化学はさほど縁がないイメージだと思いますが、実はこれからの自動車には化学メーカーの技術力が欠かせません。化学メーカーも車を成長分野と位置づけて売上増をめざしています。いったいどういうことでしょう?(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、経済面(8面)の「化学素材 車を軽く/旭化成がEV開発 各社も注力」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

カギは「電動化」と「軽量化」

 旭化成が京都大学発のベンチャー企業「GLM」と開発したのは、電気自動車(EV)「アクシー」です。写真を見てください。タイヤのゴム、シート生地、塗料、センサー類など計27点に旭化成の素材を使ったそうです。市販の予定はなく、技術PRのためのコンセプトカーです。

 そもそもなぜ化学メーカーが車をつくったのでしょうか。車に対する環境規制が世界的に強まっていることが背景にあります。キーワードは、二酸化炭素(CO₂)を出さない「電動化」と、燃費を良くするための車体の「軽量化」です。電動化では、EVの電源となるリチウムイオン電池の部品「セパレーター」は旭化成が世界シェア1位。市場規模が年に3割増えており、2020年までに生産量を2倍近くに増やします。

 もう一つの軽量化。今の車は重さの7割近くを鉄が占めます。鉄を軽い新素材に置き換えれば、燃費はぐっと良くなります。エンジン周辺でも使える耐熱性の「樹脂」を使えば、鉄と比べて6割軽くできるとか。旭化成はこれらの車関連の売上高を、2025年に今の3倍の3000億円に伸ばす計画です。

東レの炭素繊維

 旭化成だけではありません。自動車のボディーには、東レ、帝人、三菱ケミカルの日本企業が世界シェアトップ3を占める炭素繊維も使われ始めています。炭素繊維はアクリル繊維を高温で焼いてできる黒い糸で、鉄より10倍硬く、重さは4分の1。しかもさびません。東レは、エアバックやシート素材などと合わせ、車関連の売上高を2020年ごろに1.6倍の3800億円にする考えです。

 東レの炭素繊維開発の歴史については、「東レ、炭素繊維で大型契約!こだわりの歴史あり」(2014年11月18日の今日の朝刊)を読んでください。

 課題はコストです。トヨタ自動車は「プリウス」のプラグインハイブリッド車(PHV)=写真=の後部ドアに、三菱ケミカルの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使っていますが、鉄の100倍前後と高価なため、高級車「レクサス」など3車種にしか使われていません。価格が下がれば、一気に普及しそうです。

そもそも「化学」って?

 そもそも「化学」って何でしょう? 「高校のとき全然理解できなかったあれね……」と、元素記号のことを思い出す人も多いでしょう。一方、業種としての「化学」についてはイメージが湧かないかもしれません。
 「化学」メーカーの仕事は文字通り、「物質同士がくっついたり離れたりする化学反応の力を使って様々な別の物質を作り、工業製品にしていくこと」です。かつて、農業用の肥料である「化学肥料」、衣類を作るための糸「化学繊維」が発明されました。戦後の高度成長期には、化学メーカーが石油を使って実験を繰り返し、車の燃料やプラスチックなどを生み出していきました。そう考えると、化学の世界は「何でもあり」なのです。化学メーカーが自動車の素材を作ることについて、先ほど「なぜ」と言いました。でも化学の世界に「なぜ」はなく、「どんなことでもやってみよう」なんですね。

布製の車も!

 今日の記事では、化学メーカーが関わったユニークな車も紹介されています。ベンチャーの「rimOnO(リモノ)」は三井化学や帝人フロンティアなどと、布やウレタンを使った超小型EVの試作車をつくりました(写真)。三井化学のウレタン素材のクッションを内外装に使い、帝人のテント用生地で車の表面を覆いました。リモノの伊藤慎介社長は「衝突回避の技術が進めば、柔らかい素材の可能性も広がる」と話しています。「スローで人にすごくやさしい車」がコンセプトで、「自転車以上軽自動車未満」の乗り物で、高齢ドライバーの誤操作による重大事故や生活道路での歩行者の死亡事故をなくす狙いです。

 みなさんも頭をやわらかくして、「こういう素材を使ってでこんなモノができれば、この課題を解決できる」などと思いを巡らせてみてください。

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