2017年01月20日

「天下り」で文科省処分 なぜ起きるの?何が問題?

テーマ:社会

ニュースのポイント

 「天下り」(あまくだり)が久しぶりに大きなニュースになっています。文部科学省が、国家公務員法に違反して同省前局長を早稲田大学への天下りを組織的にあっせんした疑いがある問題です。この問題で官僚トップの文科事務次官など7人が懲戒処分とされ、事務次官は辞任することになりました。天下りは中央省庁などの官僚が退職したあと、官僚時代の関係を利用して民間企業や団体に再就職することをいいます。官民癒着の温床として批判され、規制されてもきました。みなさんが就職すると、官僚をリタイアした人が上司の席や窓際の席にいることがあるかもしれません。あるいは仕事で官僚と接することがあるかもしれません。官僚は会社員とは違う論理や仕組みを持っているということを知っておきましょう。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、1面トップの「天下りあっせん30件前後 文科次官辞任・幹部7人処分へ 監視委調査に証拠隠しも」です。総合面(2面)の「時時刻刻・次官辞任 動いた官邸/世論警戒 幕引き急ぐ」、社会面(35面)の「あっせん『文科省だけか』/天下り問題 霞が関に波紋」も関連記事です(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)。

あっせんも利害関係もある露骨なケース

 問題になったケースは、こういうものです。文科省高等教育局の前局長が2015年8月に退職し、10月に早稲田大学教授になりました。大学が年度途中に教授を採用するのは極めて異例です。内閣府の再就職等監視委員会が経緯を調べたところ、同省人事課が履歴書を早大に送るなどしていました。国家公務員法では、官庁が再就職のあっせんをすることや職務と利害関係のある企業・団体への求職活動をすることは禁じられています。今回のケースは、官庁が組織的にあっせんしており、なおかつ高等教育局長は大学の監督もしており、早大とは利害関係がありました。

官僚は年金受給年齢前に退職

 中央省庁の官僚は、同期の一人が事務次官になるまでにやめるのが慣例になっています。最近は55歳から60歳前後でやめる人が多くなっています。この年齢ではまだ元気ですし、年金受給年齢にもなっていませんので、働く必要があります。かつては再就職のあっせんは官庁の仕事とされ、官庁に恩を売りたかったり官庁の情報が欲しかったりする会社や団体が官庁の打診を受け入れていました。そこには当然癒着の弊害が生まれますし、何度も天下りを繰り返し、そのたびに多額の退職金を得るようなケースもありました。官僚のおいしい特権と見えて、国民の怒りも買います。そこで、2007年に国家公務員法が改正され、官庁のあっせんや、職務と利害関係のある企業・団体への求職活動、OBによる口利きなどが禁止されました。

霞が関では天下り横行

 禁止されても、霞が関の多くの官庁では天下りがおこなわれてきました。は、これまでに違反が明らかになった例ですが、これ以外にも、職務と関係のある会社に「顧問」などの肩書で再就職している元官僚はたくさんいますし、そうした官僚が官庁の助けを借りずに独力で求職活動をしていたとは考えにくいのも事実です。チェックするのは再就職等監視委員会ですが、露骨でないケースは見逃されてきたのだと思います。

会社では「お客さん扱い」

 私の知り合いにも天下りした人がいますが、あまり幸せそうには見えません。本人は、ほとんど仕事はなく、新聞を読んだりネットサーフィンをしたり。会社側にとっても、雇うことに意味があるだけですから、あくまでも「お客さん扱い」になります。お互いに矛盾を感じながら、他にいい方法がないので続けているのだと思います。

65歳まで勤め続ける制度に

 実はいい方法があります。65歳まで勤め続ける制度にすればいいのです。天下りがなくならないのは、官僚が早めに退職する慣例があるからです。今、多くの会社は65歳定年制の検討に入っています。官僚も65歳まで勤め続けられるようにすればいいだけです。こんな簡単なことなのに、どうしてそうしないで天下りを続けようとするのか不思議で仕方ありません。天下りの方がおいしいから、というのなら謎は解けるのですが。

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