2016年07月29日

最低賃金引き上げで「中流層の厚み」増す?(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 厚生労働省の中央最低賃金審議会が、今年度の最低賃金(時給)について、引き上げの目安額を全国加重平均で24円とする答申を厚労相に出しました。24円の引き上げ額は過去最高で、低い賃金で働いている人には朗報です。ただ、これでも引き上げ額が少ないという声は少なくありません。大企業が大きな利益を上げているのに、実質賃金が下がっているのは、中小企業で低い賃金で働いている人が増えているためです。最低賃金を1000円に引き上げたいと政府は言っていますし、野党からは1500円の声も聞かれます。格差拡大による中流層の崩壊が、日本経済の低迷の原因と言われます。もっとドカンと上げてほしいと私は思っています。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、5面の「最低賃金24円増 国に答申を提出/厚労省審議会」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。

国際的にも高くない日本の最低賃金

 大学生ならアルバイトをしている人が多いかと思います。時給の感覚はあるはずです。都会ではだいたい、時給900円は安い、時給1200円ならまずまず、時給1500円はめったにない、という感じでしょうか。
 でも、日本の最低賃金は、国際的に見て高い方ではありません。為替によって変動しますので厳密な比較はあまり意味がありませんが、オーストラリア、ルクセンブルグ、ベルギーなどは1500円レベルです。アメリカでもニューヨーク州は、今年引き上げて15ドル、つまり1500円以上の最低賃金を決めています。日本は、24円上げるといっても、全国平均の金額は822円です。仮に毎日8時間、月に20日働いても、一年で157万円にしかなりません。一昨年までは、地域によっては生活保護水準を下回っていました。一生懸命働いても、生活保護水準に届かないのは理不尽なことです。昨年の18円引き上げで生活保護水準を下回ることは解消しました。そこからさらに24円上がるわけですから、いい方向に向かっているのは間違いありません。
(写真は最低賃金の時給693円で働く女性の給与明細。ここから社会保険料や税金が引かれ、手取りは月9万円台になる)

「1000円」には7年以上かかる

 ただスピードが問題です。安倍政権はこれからも毎年3%上げていくとしていますが、当面の目標の1000円になるには、まだ7年以上かかります。仮に1000円になったとしても、毎日8時間、月20日働いて、年収192万円です。憲法で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を送るには苦しいと思います。
 どうしてもっとスピードアップしないのかと思うでしょうが、それは中小企業の経営者から強い反対があるからです。ただでさえ経営が苦しいのに、これ以上人件費が上がるとやっていられないという悲鳴です。こうした声にも耳を傾けなければなりません。そのためにも最低賃金引き上げと並行して企業に助成金を払ったり、融資の条件を緩めたりすることが必要ですが、最後にはこの程度の賃金も払えないのでは事業継続不能もやむを得ないという割り切りも必要になると思います。

実質賃金低下は中流層の崩壊

 最低賃金の引き上げが重要なのは、中流層を厚くすることが今の日本にとって必要なことだからです。戦後日本は、高度経済成長を遂げ、1980年代には世界でもトップクラスの中流層の厚い国になりました。「1億総中流」という言葉がはやりました。でも、バブルの生成から崩壊を通じて格差が徐々に広がり始めました。経営の中にもアメリカ型の新自由主義的グローバル経営が入り、成果を上げる人にはたくさん配分するが、成果を上げない人にはあまり配分しないという流れになりました。
 実質賃金が1990年代後半をピークにずっと下がり続けているのは、この二極化の中で下流層が多数派だったことを示しています。一方で、年功序列に基づく賃金も残っていますので、下流層にとどまるのは若い人が多くなっています。こうした若い人は将来への不安を大きく持ちますので、あまりお金を使いません。本来、最も買いたいものがある年代が散財しないそうなのですから、消費が伸びるわけありません。消費というのは、普通にやっていればみんな同じくらいの生活ができるという安心感があって盛り上がります。だから中流層の厚みが大事なのです。

最低賃金の動向に注意を

 大企業は最低賃金と無関係だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。最低賃金のアップは中小企業の賃上げにつながり、物価を上げる圧力にもなります。それは大企業の賃上げにも必ず波及します。ただ、大企業のサラリーマンは中流層から上流層にいるといってもいいでしょう。ここを温めても、中流層は厚くなりません。最低賃金を上げて下流層を中流層に押し上げれば中流層が厚くなります。そのほうが、日本経済のためにも日本社会の安定のためにも重要だと思います。皆さんのアルバイト代にも関係する最低賃金の動向に注意しましょう。

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