2016年06月17日

イチロー5つのすごさ ①素質②環境③目標…あと2つは?(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:スポーツ

ニュースのポイント

 イチローが、日米通算の安打数で大リーグ記録を破りました。「レベルの低い日本での記録を加えるのはおかしい」という声がアメリカにはありますが、歴史上、日米のプロ野球選手として最も多くのヒットを打った打者がイチローであることは間違いありません。イチローのすごさの源は、いくつかに分解できます。①素質②環境③具体的な目標づくり④努力⑤野球にささげる心、あたりでしょうか。鈴木一朗(イチローの本名)は、この5つが組み合わさってイチローになったと思います。きっと野球だけでなく、どんな世界でも成功者に共通する要素だと思います。就活の成功においても社会人としての成長においても、イチローの要素を心にとめておくといいでしょう。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、1面の「4257/『笑われたこと 達成してきた』/イチロー日米通算で最多安打」です。

 記事の内容は――大リーグ・マーリンズのイチロー外野手(42)=本名鈴木一朗=が15日(日本時間16日)、日米通算の安打数で、ピート・ローズの大リーグ最多記録4256安打を抜いた。通算4257安打目を放った米カリフォルニア州サンディエゴでの試合後に記者会見を行った。「僕は子どもの頃から人に笑われてきたことを常に達成してきている、という自負がある。日本で首位打者をとり、アメリカに行くときに首位打者になってみたいと言ったら、やっぱり笑われた。でもそれも2回達成した」「常に人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にある。これからも、それをクリアしていきたいという思いはあります」
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 不世出という言葉があります。めったにこの世にあらわれないことです。イチローは正真正銘の「不世出の野球選手」と言っていいと思います。打者ではなく野球選手と書いたのは、打者としても不世出ですが、走塁や守備でも不世出と言っていいレベルだと思うからです。あの張本勲さんがテレビで「100年に一人」と言っていましたが、もっと希少性のある野球選手かもしれません。

 そのすごさは、少しの先天的なものに多くの後天的なものが加わってできあがっていると思います。もちろん、まず生まれ持った素質があります。180センチ、79キロのスピード野球には最適な体、足の速さ、肩の強さなどは、生まれ持った素質によるところがかなりあります。

 家庭環境も良かったと思います。お父さんはイチローが3歳のときにバットとボールを与えました。イチローはバットとボールで遊ぶのがすぐに大好きになったそうです。小学3年で地元のスポーツ少年団に入ったのですが、練習は休日だけだったので、平日は学校から帰るとお父さんがキャッチボールに付き合いました。バッティングセンター通いは小学2年からでした。お父さんと一緒に毎日のように通いました。高学年になると120キロのスピードボールでは満足できなくなり、特別に130キロのボールを投げられるイチロー用バネを取り付けてもらったそうです。お父さんがイチローの野球の練習に付き合い、お金もかけてくれるという環境がイチローの土台を作ったのは間違いないでしょう。

 ただ、ここから先は、イチロー自身が後天的に切り開いた要素に入ります。イチローは、目先の具体的な目標をたてて、それをひとつずつクリアしてきました。小学校の卒業文集にイチローは「僕の夢」として、こんな内容の文章を載せています。まず、「僕の夢は一流のプロ野球選手になることです」と書き出します。そして、「そのためには中学、高校と全国大会に出て活躍しなければなりません」とし、「必ずプロ野球選手になれると思います。そして、その球団は中日ドラゴンズか、西武ライオンズです。ドラフト入団で契約金は1億円以上が目標です」と書いています。イチローが今回の記者会見で「子どものころから笑われてきたことを達成してきた」と言ったのは、このことも含まれているでしょう。とても具体的な目標ですから、「本気か」と笑う友達や大人はいたでしょう。でも、球団名や契約金額が多少違いますが、大きな目標は「超一流のプロ野球選手」となって十二分に達成しています。イチローの具体的な目標はその後も節目で表われます。大リーグ挑戦の時には、「首位打者」が目標でしたが、これも達成しました。今は「50歳までプレーする」と公言していますので、イチローなら達成するような気がします。

 努力は、人一倍してきています。小学校の卒業文集でも「365日中360日は厳しい練習をしています」と書いています。その後もずっと厳しい練習を続けてきました。イチローは努力している姿を他人に見せるのが好きではないと言いますが、よく知る記者は、毎日のルーティンである入念なストレッチやストイックにトレーニングをする姿に、彼の努力のすごさを感じています。そうでなければ42歳の今、故障も脚や肩の衰えもなく、プレーできるわけがありません。

 あとひとつすごいのは、「野球にささげる心」です。イチローが用具を大切にするのは有名です。試合終了後もグラブやバットを念入りに手入れしてから引き上げます。用具も体の一部と考えているのかもしれません。また、イチローのオフシーズンは隠密行動になります。多くの有名プロ野球選手はテレビのバラエティ番組やゴルフコンペなどに出ますが、イチローはほとんど出ません。何をしているかは定かではありませんが、野球のためにならないことはしないという意識が徹底しているのだと思います。

 イチローのすごさの源を5つの要素に分解しましたが、勉強や就活や仕事でも同じことは言えると思います。素質と環境が重要なことは間違いありませんが、もっと重要なのは、後ろの3つです。具体的な目標を立てること。そのために努力すること。ささげる心を持つこと。私もえらそうに言うほどできていませんが、イチローのことを思い出すときには、少しはまねをしないといけないとは思います。みなさんも頭の片隅においておくと、ときどき、「これではいけない」という心の声が聞こえるかもしれません。

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