2016年06月10日

三菱UFJが仮想通貨 現金なくなると世界連邦できる?(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 三菱東京UFJ銀行が、仮想通貨を来年秋から一般の利用者向けに発行します。三菱東京UFJ銀行といえば、日本で最も大きな銀行で、とても信用されている銀行です。すでにある仮想通貨ビットコインに比べても信用力は格段に高いと思われます。この仮想通貨が普及すれば、少額の決済にもこのネット上の通貨が使われるようになります。最終的には現金のない世界に向かいます。ITを活用した金融サービスである「フィンテック」の行きつく先です。現金のない世界になると、今と何が違うようになるのか。そんなことを考えたことのある人はいますか。金融機関を志望する人はもちろん、それ以外の会社を志望する人も、頭の体操をしてみましょう。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、1面の「仮想通貨 来秋一般向けに/三菱UFJ大手銀で初/「送金」手数料割安」です。
 記事の内容は――三菱東京UFJ銀行は、独自に開発中の仮想通貨「MUFGコイン」を来秋、広く一般の利用者向けに発行する。ITを活用した金融サービス「フィンテック」の一環で、大手行が仮想通貨を一般向けに発行するのは世界で初めて。利用者同士が手軽にやり取りをしたり、割安な手数料で外貨に交換したりできる。信用力が高いメガバンクの本格参入で、仮想通貨の裾野が広がりそうだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 今回のMUFGコインが、Suicaなどの電子マネーと違うのは、利用者同士でお金のやり取りができることです。ビットコインとの違いは、発行・運営が三菱東京UFJ銀行という信用力の極めて高い銀行であることと、交換比率が1コイン=1円と一定していることです。使い方はスマホなどのネット端末にコインを取り込んで、支払いや受け取りをします。コストがあまりかからないため送金手数料は、今の銀行窓口やATMからの手数料より格段に安くなります。

 普及が進めば、現金を持つ必要がなくなります。自分のお金はすべてバーチャルな形でネット上にあることになり、それですべてを済ますことができるようになります。

 日本中がそうなった時を考えると、きっと社会は大きく変わるでしょう。たとえば、今話題のマイナス金利を考えてみましょう。デフレからの脱却のためにお金を使わせようと日本銀行は金融機関から預かっているお金にマイナス金利を付けました。金融機関はお金を預けるとお金が減ることになるので、預けないで貸し出したり運用したりするようになり、お金が市中にたくさん出回って物価が上がると、日銀は考えたわけです。でも、金融機関は預金金利をマイナスにすることはできません。預金者は、損をしてまで預けるくらいなら現金で引き出してタンス預金にするからです。となると、貸出金利は下がるのに、預金金利はゼロより上に張り付き、金融機関の利ザヤという名のもうけが少なくなります。これがマイナス金利政策の限界で、結局、インフレにはなかなかなりません。

 ところが、すべてが仮想通貨になって現金がなくなればどうでしょう。現金で引き出すという手段がないわけですから、金融機関は預金の金利もマイナスにし放題です。いやな人は使うしかありません。あっという間にインフレになるでしょう。

 こうした金融政策の技術的なことだけでなく、資産がガラス張りになることのほうが大きいかもしれません。脱税というと、家の押し入れの中にある金庫や庭に埋められた壺のなかに現金がある光景が浮かびます。1987年にヒットした映画「マルサの女」をはじめ、様々な映画やテレビドラマにそうした脱税を摘発する場面がたくさん出てきました。でも、現金がなくなるので、こんな脱税はできません。すべてがネット上にあるということは、国が個人の資産を見ようと思えばいつでも見ることができるということになります。

 リスクもとてつもなく大きくなります。ネット上のデータが流出したり盗まれたりすると、一瞬で全財産が消えることもあるでしょう。大震災があってネットが使えなくなれば、誰も買い物もできなくてお手上げになります。

 もっと大きな視点で考えると、三菱東京UFJ銀行のような民間銀行が発行し、そうした仮想通貨が主流になっていくと、通貨をコントロールできない日本銀行は必要あるのかという問題も出てきます。国家の存立基盤は通貨発行権だという考え方がありますが、通貨発行権が民間に移ると、国家の基盤が大きく揺らぐのではないでしょうか。まさに世界連邦に向かう第一歩なのかもしれません。

 現金が全てなくなる社会は、すぐには来ないでしょう。でも、みなさんが生きているうちには来ると思います。社会の変化の先を読んで、その時には社会はどうなっているかを考える癖をつけると、就活にもその後の仕事にも役立つと思います。

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