2016年04月15日

アルゼンチンの財政破綻に学ぶ、日本は大丈夫?(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:国際

ニュースのポイント

 アルゼンチンが外国で国債を発行するということが大きなニュースになっています。これがどうして大きなニュースなのか、分かりますか。アルゼンチンは2001年に財政が破綻(はたん)しました。以来、国の信用を失い外国からお金を借りること(外国で国債を発行すること)ができなくなっていました。この状況が、日本を連想させるからです。日本もいつ財政破綻してもおかしくないレベルの大借金国です。アルゼンチンのようになる可能性を意識しながら、この記事を読まないといけません。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、6面(経済面)の「アルゼンチン、国債発行へ/15年ぶり米ファンドとの係争にめど/改革進み各国が関心/インフレ・財政に課題/2001年に財政破綻 日本の投資家も影響」です。
 記事の内容は――南米第2の経済大国アルゼンチンが、2001年の財政破綻以来、約15年ぶりに外国で国債を発行する見通しとなった。昨年12月の政権交代が流れをつくった形で、投資先として外国企業の関心も高まっているが、物価高騰で市民の生活は苦しく、課題は多い。米メディアによると、アルゼンチンは来週にも、最大で150億ドル(約1.6兆円)規模の国債を外国で売り出すことを検討している。プラットガイ財務相らが今週に入って米国を訪れており、投資家への国債の売り込みに回っている。滞っていた借金の返済などに充てる。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 日本政府は、毎年大きな借金をして予算を作っていることは知っていますよね。国は国債という借金の証文を売り出し、それを金融機関などが買うという方法でお金を集めています。大体毎年40兆円程度の国債を新しく発行していますので、国の借金の残高は毎年40兆円くらいずつ増えています。そして、その残高は積もり積もって今や1000兆円を超えています。日本のGDPは500兆円弱ですので、GDPの倍以上の借金があることになります。先進国の中では、この割合は最悪といっていい水準です。

 アルゼンチンは20世紀の前半まではとても豊かな国でした。一時は、1人当たりGDPが世界4位になり、首都ブエノスアイレスは「南米のパリ」と言われました。しかし、20世紀の半ばあたりから政策を失敗し、インフレがひどくなっていきました。通貨のペソの価値をドルに対して固定することにしてインフレを抑えようとしたのですが、今度は輸出が急減して国の借金が急増しました。財政を立て直そうとしたのですが、国民の協力が得られず、21世紀に入るころには、アルゼンチン国債とペソが暴落してしまいました。つまり、新たにお金を貸してくれるところがほとんどなくなり、ペソを買ってくれるところもほとんどなくなったのです。これによって、外国からの借金も返せなくなり、いわゆる破綻となりました。

 日本にも破綻の可能性はあります。担保なしで借りることができる消費者金融のことを考えてみましょう。仮に私が借金を収入だけでは返せなくなり、あちこちの消費者金融から借りては返すという自転車操業をしているとします。ある日、どこかの消費者金融が「こんなに借りていては返せる見込みがないと思うので、もう貸せない」と言います。それはほかの消費者金融にもあっという間に伝わり、どこも貸してくれなくなります。そうすると、借金を返せなくなり、破産することになります。私はすべての財産を失い、周りの人には相手にされず、一から出直さなければならなくなります。

 これは、日本国の財政にもあてはまるシミュレーションです。今のところは、国が金を貸してほしいと言って国債を発行すれば金融機関などの投資家が買ってくれますが、「こんなに借金をすれば、返せなくなるかもしれない」と思う投資家が出れば、あっという間に不安心理が広がります。そうなれば、よほど高い利息を付けないと、買い手がなくなります。

 高い利息を付けるということは国債の価格が下がるということです。つまり、98円で売り出して10年後に100円で買い戻す場合の利息は、90円で売り出して10年後に100円で買い戻す場合の利息より低いですよね。高い利息がつくのは90円のように安い値段で売り出すということと同じです。だから、高い利息をつけないと売れなくなることを「価格が暴落する」と言います。価格が暴落すれば、利息分で国の財政はもっと苦しくなりますし、ひどくなれば買い手がいなくなってこれ以上借金ができなくなります。すると、私たちが今のような生活を続けることはできなくなります。

 アルゼンチンだけでなく、ギリシャやロシアもおなじような国債の暴落を経験しています。実は日本も、過去に財政破綻を経験しています。戦後すぐのころです。戦前から戦中にかけて戦費調達などのために膨大な国債を発行したため、すごいインフレになりました。インフレをおさめるために、すべての国民の預金を封鎖し、新しい紙幣を発行し、高率(25~90%)の財産税をかけました。インフレとこの政策により、過去の国債はほぼ紙切れになり、国民の多くの資産は国に没収されました。実は、アルゼンチンも預金を封鎖して増税をしています。財政が破綻する国の処方箋は似ています。

 日本の国債は、アルゼンチンやギリシャとは異なり、大半を国内の金融機関(もとをたどると国民の貯蓄)が買っており、逃げ足の速い海外マネーに頼っているわけではないから暴落はしない、という主張もあります。しかし、日本も財政を健全にする努力を怠れば、インフレ、預金封鎖、新円切り替え、財産税といったことを経験する可能性は高いと思います。アルゼンチンを遠い国の出来事とは思わない知識と感受性を持ちましょう。

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