2016年02月25日

正社員でも「副業OK」、どうして?

テーマ:社会

ニュースのポイント

 大手企業の正社員でも兼業(副職)が認められるようになった、というニュースをときどき新聞やテレビで見かけます。「就業時間外は自由だから」と聞けば、それもそうだと思いますが、こういったニュースでしっかりチェックしなくてはならないのが、企業が「副業OK」とした社員の「対象」と、その「目的」です。たとえば、2009年には世界同時不況の影響を受け、減産を余儀なくされた製造業では、工場で働く正社員などを対象に副業を認める方針が複数の大手企業で打ち出されました。これは賃金減額を補うためのもので、いわゆるホワイトカラー正社員は対象外でした。さて今回の「副業OK」はどう受け止めればいいでしょうか。(副編集長・奥村 晶)

 今日取り上げるのは、経済面(6面)の「ロート製薬、兼業容認へ」です。
 記事の内容は――ロート製薬は4月から、国内の正社員約1500人を対象に、ほかの会社やNPOなどで働く兼業(副職)を認める。会社の枠を超えて培った技能や人脈を持ち帰ってもらい、自社のダイバーシティー(多様性)を深めるねらい。就業先を届け出れば、平日の終業後や土日祝日に他社で働き、収入を得ることを認める。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 ロート製薬(大阪市)といえばテレビCMでも長く親しまれてきた目薬大手。決算短信などを見る限り、売上高、営業利益、一株当たり純利益など、すべて前年同期を上回っていて、特に経営状態が悪いとは思えません。そして、同社の従業員数は会社概要を見ると1516人(2015年3月末)ですから、つまり今回の「副業OK」の対象は、正社員の一部ではなく、ほぼ全員ということがわかります(条件は勤続3年以上)。

 これから就活をして「本業」を決めるというのに、「副業」の話なんて気が早い、とみなさんは思うかもしれません。しかし、最近はリクルートホールディングスなど人材系や、サイボウズといったITベンチャーなどを中心に、社員のスキルアップや視野を広げるために、「副業OK」の企業が増えてきました。ウェブサービスのエンファクトリー(東京)のように、必ず一つは副業を持たねばいけない「専業禁止!!」を企業理念に掲げているところまであります。
 ロート製薬の場合、社員有志の発案で導入を決め、山田邦雄会長兼最高経営責任者は「社内ではない刺激や気づきがあれば、座学より社会経験が積める」と理由を説明しています。多様なバックグラウンドを持つ社員がいなくては、イノベーションが進まない、「金太郎飴(あめ)」のような社員ばかりの組織は変化に弱い、というのはビジネスの世界では常識になりつつあります。今回はその一環のようですね。

 もちろん、国内ではまだ、就業規則などで兼業を認めない企業がほとんどです。就業時間内は本業に集中し、就業時間外はしっかり体を休める、というのが、いまも働き方の主流に変わりはありません。
 しかし、技術革新や少子高齢化、市場の変化によって、成長産業と衰退産業が激しく入れ替わる今の時代、新卒で就職した会社、あるいは就いた職種で四十数年間、安定した収入を得られるとは限りません。勤める会社は同じままでも、自分にとって畑違いの部署へ異動する可能性もあります。転職を考えることもあるかもしれません。そんなとき、「自分はこの業界でしか通用しない」あるいは、「この職種以外は一切できない」というのは、よほどスキルの高い人でない限り、確実に不利です。
 
 いきなり知識も経験もない仕事をするのはだれにとっても大変です。企業で正社員として働きながら、他の企業の仕事内容や待遇を詳しく知ることは難しいですが、就活中ならそれができます。第1志望の業界や企業がはっきり絞れている人も、自分がそこで働く姿がイメージできる企業であれば、規模の大小にこだわり過ぎず、「将来の転職先になるかも」と幅広く見てほしいと思います。
 そして幸いにも志望企業に入社できたとしても、目の前の仕事をただこなすだけに終始せず、会社人間としての自分以外の「何か」を持つように心がけてください。副業は無理でも、趣味のスポーツでも、語学の勉強でも、地域活動でも、なんでもいい。広がった視野や人脈が、本業に還元できたり、次のステップにつながったりする日がきっと来ます。自分の中にたくさんの引き出しを持つ、「ひとりダイバーシティー」を目指してみてください。

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