2016年01月19日

バス事故15人死亡…悲劇繰り返さないために

テーマ:社会

ニュースのポイント

 長野県で起きたスキーツアーのバス事故で亡くなった人が15人になりました。このうち運転手2人を除く13人は、みなさんと同じ大学生です。厳しい就活を乗り越えて志望企業への就職が決まり、入社を心待ちにしていた4年生もいました。バス会社のずさんな運行管理が次々と明らかになっており、許されない事故です。こんな悲劇を繰り返さないためにはどうしたらよいのでしょう。今日は、人の命を預かる仕事と、報道の役割について考えます。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、社会面(39面)の「『高速料金自己負担』『睡眠4時間』/バス運転手 過酷さ激化/規制緩和で競争厳しく」です。オピニオン面(16面)には「社説・夜行バス事故/生かされなかった教訓」も載っています。
 記事の内容は――長野県軽井沢町で15人が死亡したスキーツアーの大型バス事故で、同業の運転手から「業界の構造的な問題が一因だ」との指摘が相次いでいる。過当な価格競争、運転手の過酷な負担、高齢化。規制緩和による業者の急増で、運転手を取り巻く環境は厳しさが増しているという。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 私も学生時代には、冬になると夜行バスを利用してスキーに行ったものです。新宿などから乗り込み、目を覚ますともうゲレンデ。便利ですし、何より価格の安さが学生には魅力的です。しかし、どんなに安くても「安全」は大前提でなければなりません。

 今回の事故では、運転手の体調を出発前に確認しない▽それなのに書類に体調管理の済み印を押した▽運転手に健康診断を受けさせない▽ツアー会社は国が定めた限度額を下回る運賃で提案――など、各社の管理態勢がひどかったことがわかってきました。貸し切りバス業界は、2000年に規制が緩和され、国の免許制から一定の条件を満たせば参入できる許可制になりました。2013年度の業者数は4512社で緩和前の2倍近くに。新規参入のハードルを下げ、企業間の競争を促してサービス向上をはかり、価格を下げるための規制緩和ですが、安全をないがしろにすることは絶対に許されません。旅行、航空、鉄道、バス、船などの業界は、多くの人の命を預かる重大な責任を負っているのです。

 「人事のホンネ」のインタビューで、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、JR東海の採用担当者は、「安全」という言葉を繰り返しています。JR東海の小峰宏夫さんは、新たなことに挑戦する気持ちがある人に来てほしいと言いつつもこう語っています。
 「一番大事なのは安全・安定輸送であり、いくら挑戦しようが大きな事故を起こしてはいけません。愚直で地味な日々の仕事を繰り返して安全・安定輸送を守ることに共感できなければ全然ダメです」
 運輸関連の業界を目指す人は、心にとどめてください。
 
 報道についても考えます。今回のように事件や事故で犠牲者が出ると、その人がどんな人だったのかを紹介する記事が出ます。17日の朝日新聞の第1社会面(39面)は、その時点でなくなっていた大学生12人全員の顔写真と人となりを紹介した「学生12人、描いた夢」がページを埋めました。
 「世界中の人が幸せに暮らせるような住まいの環境づくりをしたい」と語り大手不動産会社に4月に入社する予定だった早稲田大4年生、教師を目指していた法政大3年生、「福祉の資格を取って働きたい」と言っていた首都大学東京の2年生……。テレビでも、彼らがどんな人だったのか、たくさんのニュースが流れました。

 こうしたニュースに接すると、みなさんと同じように、平和に暮らしていた学生の人生が、今回の事故によって理不尽に突然断ち切られ、たくさんの夢が奪われたことが伝わります。「大学生Aさん」「Bさん」などと紹介されるよりも、読者や視聴者の心に深く刻み込まれると思います。「こんなにいい子がなぜこんなことに?」という悲しみや、「安全管理がいい加減だったなんて許せない」という怒りが広がります。こうした報道による世論が原因究明や再発防止を後押しして、同じような事故を繰り返させないことにつながるわけです。

 亡くなった早稲田大4年の小室結(ゆい)さん(21)の母久美子さん(52)は「娘の死をむだにしてほしくない」と語り、結さんとの思い出をたくさん話してくれました。もちろん、ご遺族の気持ちを踏みにじるような取材は許されませんが、記者も「同じ悲劇を繰り返してはならない」との思いで懸命に取材しているのです。

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