2016年01月15日

なぜ経済不祥事は起こるのか? 覚えてほしい「二つの行動基準」(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:社会

ニュースのポイント

 「ココイチ」の壱番屋が産業廃棄物処理業者に廃棄を依頼したビーフカツがスーパーの店頭に並んでいた事件は、驚きでした。食品という健康に関わる商品が、かくもいい加減に流通しているとは。社会に出てビジネスの現場に臨むと、してはいけないことをしてしまいそうになることがあります。そうした局面で行動の基準にするのは、「法律に違反していないか」と「お客さんの信頼を裏切ることにならないか」の二つだと思います。今回の事件はこの二つともクリアしておらず、まったく同情の余地はありません。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、社会面(36面)の「廃棄カツ 3万枚超横流し/ココイチ製 業者を家宅捜索」です。
 記事の内容は――カレーチェーン「CoCo壱番屋」を展開する壱番屋(本社・愛知県一宮市)が廃棄を依頼した冷凍ビーフカツを産業廃棄物処理業者が横流しした問題で、同県稲沢市の産廃処理業「ダイコー」が横流しをこの3年ほどで3回したと見られることがわかった。今回だけで少なくとも22カ所に流通し、スーパーなどで約8千枚が売られたことも分かった。愛知県警は14日夜、廃棄物処理法違反の疑いでダイコーを家宅捜索した。愛知、岐阜両県によると、壱番屋は昨年9月2日に自社工場で作った冷凍カツ約4万枚に異物混入の疑いがあるとして、ダイコーに処分を依頼。ダイコーはうち7千枚を堆肥にしたが、残りは岐阜県羽島市の「みのりフーズ」などの業者に売っていた。みのりフーズの実質的な経営者(78)によると、ダイコーから取引を持ちかけられ、今回は2万4000枚を30枚1千円で購入。さらに過去3年ほどのうちに2回、同様に冷凍カツ計1万8000枚を買った。カツは壱番屋の名を書いた箱入りだったが、「廃棄物とは知らなかった」としている。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 人の立場になって考えるクセをつけると、客観的なものの見方ができるようになります。今回のケースでは、産業廃棄物処理会社の経営者はもしかしたらこんなふうに考えたのかもしれません。壱番屋から4万枚の冷凍ビーフカツが届きます。処理代金をいただき、堆肥などとして処理して終わるのが、ふつうです。ただ、この経営者が「食べられるのにもったいない」と考えたとしても、奇想天外ではありません。壱番屋のブランドのついた袋にも入っています。さらに考えを進めて「安くすれば売れるのではないか」と考えてもおかしくありません。ただ、このビーフカツは、プラスチック片が一部に入っている可能性があるため、廃棄するように壱番屋から頼まれたものです。いったん冷凍がとけてもいます。こうしたことが消費者に知られれば、安くしても売れません。もしかしたら、「そうしたことを伏せて流通業者に売ればいい」と考えたのではないでしょうか。そうしたことを知らないふりをしてくれる食品卸業者がいて、お互いに儲かる話として売買が成立したという可能性もなくはないのではと思います。(あくまで想像です)

 今回は、30枚1千円で2万4000枚売ったということですから、産廃処理会社の経営者には80万円入ってきたことになります。収入としては、処理代金にさらに80万円が上乗せされたことになります。末端のスーパーでは、5枚429円で売られていたそうですから、5枚で計250円、全部で120万円くらいの利益がその後の流通段階で山分けされる構図になっていたようです。

 私は、ひょっとするとこの経営者は罪悪感が薄かったのかもしれないと想像しています。まだ食べられるものを捨てずに流通させたのは食べ物を大事にする精神の発露で、いいことではないか。消費者は格安でココイチのビーフカツを食べられ、しかも誰も健康被害を訴えていないではないか。何が悪いんだ。こんなふうに思っているのではないか、と想像します。

 ここでポイントは、消費者はこのビーフカツの素性を知っていれば買わなかっただろうということです。食品は特別な商品です。衣料品や家電なら、いわく付きの商品(バッタもの)が安く売られていても、消費者の自己責任で買えばいい場合もあります。ですが、食品は健康に関わる商品です。だから、製造日や賞味期限があったり、原産地や成分の表示が義務づけられたりしています。トレーサビリティといって、流通過程から生産者までさかのぼることができるようにすることも牛肉や米では義務づけられています。つまり、消費者に正しい情報を与えて、その上で消費者が購買行動を決めることがルール化されているわけです。この経営者は壱番屋のブランドを消費者の目くらましに使って、正しい情報を伏せたわけです。まさにお客さんの信頼を裏切る行為でした。

 法律に違反してはいけないというのは、当たり前のことです。廃棄物処理表にウソの記載をして横流しをしていたとすれば、法律に違反していることは明らかです。

 この事件のように明らかに悪いことは、そう一般的にあることではないでしょうが、ビジネスの現場では、いい悪いの境目がよく分からない局面があります。社会に出ると、「ずっと前からの悪しき慣習」とか「ビジネス相手に要求されるごまかし」とか「自分さえ言わなければ誰にも分からないだろうミス」とか、いろいろな難しい局面に出会うでしょう。私はそうした局面で行動の基準になるのが、「法律に違反していないか」と「お客さんの信頼を裏切っていないか」の二つだと思います。単純ではありますが、そうした意識を社員が共有している会社ほど長続きするいい会社だと思います。

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