2016年01月08日

株価1万8000円割れ…企業トップの予想外れる(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 東京株式市場が年明け以降ほぼ一直線に値を下げています。昨年末の日経平均株価は1万9033円でしたが、4日から7日まで4日連続で1200円以上下げて、1万7000円台になっています。有名なエコノミストやディーラー、経営者などのほとんどが、新聞や雑誌などで今年の株価について強気の予想をしています。私は上がる要素のほうが少ないと思うのですが、なぜ多くの専門家は上がると言うのでしょうか。私は、上がってほしいという願望含みの予想だと思っています。いわゆるポジショントークというものです。社会に出ようとする人は、株価や為替などの経済指標に関心を持つべきですが、専門家の見通しを鵜呑みにしない力をつけないといけないと思います。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、1面の「東証続落 年明け1200円安/中国の先行き懸念/終値1万8千円割れ」です。
 記事の内容は――7日の東京株式市場は、中国経済の先行きへの懸念から全面安となった。日経平均株価の終値は前日より423円98銭(2.33%)安い1万7767円34銭と、昨年10月14日以来約3カ月ぶりに1万8000円を割り込んだ。年明けの大発会から4日連続の下落は1995年以来21年ぶり。4日間での下落幅は計1266円に達した。前日の米国市場が、原油先物価格の下落を受けて大幅安となった流れを引き継ぎ、東京市場も朝方から売りが先行。中国人民銀行(中央銀行)が人民元取引の目安となる基準値を対ドルで元安水準に設定すると、「中国の実体経済が想定以上に悪化している」との不安が広がり、日経平均も下げ幅を拡大した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 予想は外れるものです。外れたからと言って責めていたら、きりがありません。ただ、あまりにも早くほとんどの人が外れるとなると、少しは責めたくなります。ここに1月1日付の日本経済新聞があります。その33面に経営者が占う2016年の株価という特大の表があります。20人の有名企業のトップが、今年の株価の高値と安値を予想しています。この紙面からまだ7日しか経っていませんが、20人中18人が予想を外しています。なぜ外したと言えるのかといいますと、すでに18人が予想した2016年の最安値を実際の株価が下回っているからです。18人は最安値を1万8000円、1万8500円、1万9000円のどれかにしています。7日の終値は1万7767円でした。この特集記事の大見出しは「高値『2万2000円以上』」です。こちらは当たる可能性は残っていますが、私は懐疑的です。

 日経新聞を見ていきますと、大発会当日の4日朝刊の19面で、今週の株式市場の見通しとして「下値不安が後退、底堅く」という記事が載っています。翌5日の17面には、市場展望2016として、2人の日本人証券系アナリストのインタビュー記事が載っています。主見出しは「日本株、年央に2万円台」です。ほぼ一貫して強気の記事が掲載されています。

 なぜ株価の見通しは強気になりがちなのでしょうか。私は、33年前に証券担当記者になり、それ以来関心を持って証券市場を見続けています。その経験から言えるのは、強気の見通しのほうが披露しやすい、ということです。証券系のアナリストやディーラーだけでなく、エコノミストや経営者の多くも株価が上がった方がうれしいはずです。とくに正月などは明るい話を求められるところがあります。「景気の気は気分の気」というように、株価だってみんなが「上がる上がる」といえば上がるところがあります。願望の実現です。それに、アベノミクスの成功に懸命になっている政権に水を差したくないという気持ちもどこかにあるのではないでしょうか。

 実は私にも苦い思い出があります。これまでの日経平均の最高値は1989年の大納会でつけた3万8915円です。1990年の年明けから株価は下がり始めました。当時私は自動車業界担当の記者でしたが、これがバブルの崩壊とは思えませんでした。また戻ると思っていました。新聞や雑誌では、「日経平均4万円到達はいつか」といった予想がしばらく流れていました。それが秋には日経平均は半分になったのです。「上がるときはみんなではやすが、下がるときには誰もはやさない」というのは、その時の教訓です。だから、みんなが上がる上がるとはやしているのに下がっている状況を要注意だと思うわけです。

 メディアの情報を正しく受け取るためには、メディアのクセと発言者の立ち位置を考慮する必要があります。人は自分が不利になることをあえて言うことはめったにありません。有利になることは積極的に言おうとします。その人がどういう立場で発言しているかを考慮して、割り引いたり加算したりするというのは、株価をめぐる発言だけでなくすべての情報における大切な作業です。経験の少ない若いうちはとても難しいことですが、情報に振り回されないために発言の背景を考える訓練をすると、社会で役立つと思います。

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